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スパイたちの遺産(A Legacy of Spies)
ジョン・ル・カレ( John le Carre )

2018/06/24:ごめん今回は本当に中身がないです。以下は全て単なるいい訳です。

果たしてこれを読んで何か具体的な事を書けるのか。それ以前に読んでちゃんと解るのか。様々な想いに流されてなかなか手がだせないでいたル・カレの新作。しかしまーなんだ、つまり読まないままで何時までも居られんと言うことで、ついに手をだしました。

何を言っているのかと云うとつまりは本書がル・カレの出世作となった『寒い国から帰ってきたスパイ』と、スパイ小説の金字塔とも呼ばれるスマイリー三部作『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』を挟みこむ形でお話が作られているという。

うまり何を書いてもネタバレになるやんという設定だ。しかし、それ以前に、『寒い国から来たスパイ』は40年位前に読んだもので、その内容は微塵も残っていないという問題だ。

数年前にそれも何度目かと言う感じで読んだ本ですらまるっきり忘れているというのに、40年前の本のことなんて、という状態で取りかかって良いのだろうか。

更なる不安材料もある。『寒い国から帰ってきたスパイ』は1963年にかかれた本で、ソ連が健在かつ強大で、こっち側にいる我々としては欧米の公正さや自由、正義といったものに少なくとも大多数の人々が輝かしさを見いだしているという共感みたいなものがあった時代のお話だ。それが今や、、、という中において、その間に横たわる物語の意味や登場人物の感情が理解できるのかというものだ。

最近の自著のなかでル・カレは欧米の議会制民主主義が著しく毀損し、多国籍企業や一握りの富裕層に支配された世界となっている事に強い懸念と怒りを表明していた。

ソ連との冷戦においてもその前の第二次世界大戦でも、英米、連合軍側は独裁や帝国主義に反対し民衆の自由のために戦ってきたはずではなかったのか。

しかし、それは印象操作に過ぎない幻影だった。実際には世界のみならず覇権や資源の独占を目指した権力闘争に一般人を巻き込んで戦力にするために利用されていたと言っても良い欺瞞であった。

ソ連は崩壊し中国もあっという間に自由化を推進してきたが、支配関係は寧ろ強化され、権利や富は恐ろしいまでに非対称な配分となっている。

正義や自由を信じて命がけで戦った人々にこの時代を通じて、この世界がどのように映り、どう感じ考えているのか。そしてル・カレはこれをどのように描いているのか。

と言うところあたりで、果たして僕はこの本を読解できんのかと振り出しに戻るという感じで果てしなくループしていた次第であります。

そして正直に結果を申し上げると、このように事前に抱えてしまった僕の予断、予見が重すぎた。あれこれ推察してしまう読書は集中力を欠き、流れにのることもできず、自分の思いに翻弄されて迷子になりました。

わかりました。『寒い国から帰ってきたスパイ』、『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』、『スクールボーイ閣下』、『スマイリーと仲間たち』を読んで本書を再読します。今アマゾンで発注しました。但し、じわじわしか進まないので三年位お待ちください。しかし間延びして読むとまた忘れちゃうなー。できるかなー。

いやいつかきっとちゃんと書く。

ということで再読・読解した後に記事に加筆追加させていただきます。 シリーズでは引退したスマイリーが召喚されるところから始まるのが定石でしたが 今回召喚されるのはなんとピーター・ギラム。

ブルターニュ地方の農場で引退生活を送っていたギラムにロンドン、サーカス本部へ出頭されたしとの素っ気のない手紙が届く。 何の事情かも語らない無口な手紙には有無を言わせないものがあった。

久しぶりに出向いた本部の建物は近代化され、働いている人々の様子も一変、当時の面影は一つもない。出迎えたスタッフたちは慇懃かつ丁重だが、通された部屋は窓もなくドアは外から施錠され、パスポートも体よく没収されてしまうのだった。

「ウィンドフォール」とは何なのか。問いただされたギラムは忘れたふりをしてはぐらかす。 しかしスタッフはギラムがはぐらかしていることを知っている。

現在のサーカスはギラムやスマイリーたちが現役の頃の、そして「ウィンドフォール」に関する資料が本部の書庫から意図的に削除されており、 くそほどの役に立つものは何も残っていないのだと苛立っている。 ギラムが「スマイリーはどうしてここにいないのか?」という質問をするが、探したが見つからないのだという。 ギラム自身も近年スマイリーとは音信不通になっていた。スマイリーは隠遁しているのか、それとも既に亡くなっているのか。

サーカスはギラムに秘匿している情報を開示するよう強く要求してくる。 住所不明の一軒家の借り上げが最高機密の費用から捻出されそれは今も綿々と支払が続けられているがその家は どこにあり、なんのためのものなのか。

ステイプルズの暗号名を付けられた秘密の一軒家は正にスマイリーが選び自ら上申した家であった。 それは長年に渡ってもぐらの存在を疑ってやまなかったサーカス内の<隠密>チーム、つまりコントロールとスマイリー、ギラムらによって 大切な情報を隠匿するために用意していた場所なのだった。

与えられた命令・任務が終了するのはいつでそれは誰が決めるのか。 この場合、自らの組織のなかでも秘匿するべしとした情報はいつまで続き、それが終ると判断できるものは誰なのか。

スマイリー不在の状況化でギラムは単独、この「ウィンドフォール」に係る情報の隠匿と隠匿の事実とそしてそれをさらに今後も続けるのかという選択に迫られていく。

やむを得ずステイプルズの存在を明かし、その場所を案内するギラムだったが、そこにはアレックス・リーマスが作り上げた 東ドイツの情報網<メイフラワー>が壊滅した直後の混沌とした状況をそのままに残した会議室があった。

リーマスは自身が築き上げた<メイフラー>を中核とした情報網を東ドイツに察知され壊滅させられたことに対する報復作戦として 極秘の任務を引き受けた。

この任務こそ「寒い国から帰ってきたスパイ」の物語である訳だが、もちろんその作戦の実態自体は、 明かにされることなく、真相を知るごく少数のもののみが知るばかりであった。 何故ならそれはコントロールがサーカス内に、それもかなりの上層部にもぐらが潜んでいると睨んでいたからだった。

表向きのリーマスは情報網の壊滅により現場情報官の任を解かれ、閑職に追いやられたことで人生の目的を失い、 酒におぼれどこまでも堕ちて行った。東側がリーマスを金で釣りに来るのを誘い出すためだった。

そしてこれはリーマスも知らぬことであったがこの作戦の本当の目的は東ドイツにいる二重スパイの身元がばれるのを 防ぐために巧妙に仕組まれたものなのだった。作戦は成功したものの、リーマスは一緒にいたリズ・ゴールドとともに この二重スパイの男が想定以上の保身を欲したために殺害されてしまったのだった。

サーカスが古い話を執拗に蒸し返しているのはアレック・リーマスの息子とリズ・ゴールドの娘が共同し、 リーマスとリズの二人が英国情報部の罠にはめられ東ドイツに送り込まれて射殺されたということで英国政府を訴えてきたからなのだった。

リズ・ゴールドに娘がいた・・・・。

リーマスの息子グスタフはどうにかしてシュタージ、つまり東ドイツの情報組織の古い資料にアクセスし 東側の情報に基づき父の最期を英国の罠にはめられたというように理解しているようだ。 英国情報部としてはこの投げつけられてきたくその塊が扇風機にぶつかる前になんとしてもこの事態を打開する必要があったのだった。

「寒い国から帰ってきたスパイ」そしてスマイリー三部作の物語の前後を挟む形で展開するこの物語は、それぞれの物語を更に一層深いものにすると同時に物語に新しい一面、新しい意味合いを加えることで、様々な出来事や登場人物たちの行動・心情に色を添えてぐるぐるとまわりだす。 思わずもう一周このまま読んでみようかと思うような深い余韻がそこにはありました。

通して再読するというのはかなりの挑戦でありましたが、結果としてはやって良かった。本当に良かった。正に唯一無二の読書体験でした。

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海賊の世界史
海野弘

2018/06/17:海野さんの歴史ものはどれも大変面白い。そして今回はなんと海賊。海賊のそれも文化史だという。なんで文化史なのかというと。


(海賊文化)のあらわれは非常に多様であるが、それを四つの様相にまとめてみることにした。 まず一つ目は〈海〉である。海賊の魅力はその舞台である〈海〉に支えられている。〈海〉は自然であり、人間は〈海〉をおそれとあこがれのうちに見てきた。海賊は海の人であり、陸の人が知らない不思議な魔物のように思われてきた。

二つ目は人間的な営み、〈経済〉、利益追求である。海賊といえば財宝であり、海賊商法から略奪にいたる活動が含まれている。

三つ目は、〈法律〉であり、道徳である。盗むなかれ、と十戒にある。海賊行為は無法であり、違法である。法律や道徳を破るアウトロー性、自由さのうちに、海賊はストレス解消のカタルシスを持っている。

四つ目は、〈文化〉である。自由なアウトローという海賊のイメージにはロマンがあり、絵や物語を生み出す。それはカウンター・カルチャー、ポップ・カルチャーとして多様な広がりを展開してゆく。

どうだろうこの鮮やかな切り口は。これでこの先が気にならないなんて言えないのではないかと思う。

実際海賊と言って今まず頭に浮かぶのは『パイレーツ・オブ・カリビァン』のジョニー・デップの姿だったりするのだけど、彼の時代背景は現実のそれらしくもあるものの、物語も彼自身も現実離れしたイメージの世界にあって、じゃ実際の海賊ってどんなだというと実は全然知らない。

しかし海賊は世界史を振り返ると大航海時代の波頭の立つ場所、場所に常に登場してきていたのだった。

それは紀元前の古代ギリシャに遡る。最初の海賊は王が率いたり、支配者によって余所の島を襲って地中海の海を荒らし回ったりしていたのだった。

その次は所謂「ヴァイキング」だった。


ヴァイキングは、ノルウェー、スウェーデン、デンマークの北欧三国から発している。そして一つのコースは、フランス海岸から英仏海峡を抜けて大西洋に出て、ヨーロッパ大陸の西岸を回ってジブラルタル海峡から地中海に入った。もう一つのコースはイングランド、グリーンランド、そしてアメリカに達した。三つ目は東に向かい、スラヴ人の国を抜けて、ノヴゴロドで二つに分かれ、一つはカスピ海に達したといわれ、もう一つはキエフから南下して、黒海から地中海に出た。

極北の地にいた北方四島民族がなぜ急に、爆発的に世界に広がったのだろうか。ヴァイキングという名の由来はわからない。いろいろな説があるが、これといえるものはない。英国ではノルマン(北の人)といった。 ヴァイキングとまとめていうが、北欧三国ではそれぞれ違いがあった。ノルウェーのヴァイキングは、小グループの私的な冒険者が多かった。国がまだまとまっていなかったこともある。ある意味で最も海賊らしかった。海の荒くれ者である。


これが800年頃。それを追うように現れたのが南方のサラセン海賊だった。彼らはイスラム教徒でムスリム軍による大征服の突端にいたのだった。ムスリムは勢いに乗ってアフリカ大陸やスペインまで行ってしまう。

スペイン・イスラム国は10世紀が黄金時代であったといわれる。11世紀に入ると分裂がはじまり、キリスト教国の反撃(レコンキスタ)がはじまり1085年、トレドが奪取される。しかしそれは1492年、グラナダ陥落まで長引いたのである。

波が寄せては返すように、これがレコンキスタ、十字軍を生み、イスラムを中東へと押し戻していく訳だが、やはりこの突端には海賊がいたのだった。

また、カリブの海賊が登場するのはまだまだ先の事なのでした。

目次
●プロローグ <海賊>の4つの様相
「海賊文化」は消えず
海の盗賊
経済——海底の黄金
道徳と法律の対極
海賊の文化的想像力
【Ⅰ】 海賊の世界史 1
——神話から大航海時代へ——
古代義理エアの海賊
ヴァイキング
ヴァイキング遠征史
エギルのサガ
地中海のサラセン海賊
バルバリア海賊
レパント海戦以後の地中海
新時代のバルバリア海賊
帆船時代の海賊
バルバリア海賊国家
海賊共和国——サリー海賊
海賊の大航海時代
大航海者の光と影1 コロンブス
大航海者の光と影2 ヴァスコ・ダ・ガマ
大航海者の光と影3 マゼラン
【Ⅱ】 海賊の世界史
——海賊の黄金時代——
イギリス海賊史
テューダー朝の海賊
女王陛下の海賊
フランシス・ドレイクの海
カリブの海賊——バッカニア
ヘンリー・モーガン
ダンピア『最新世界周航気』
イギリス海賊史の時代区分
バーソロミュー・ロバーツ
キャプテン・キッド
最後の海賊ラフィット
【Ⅲ】 19世紀 海賊文化の創生
ロマン主義の海賊
スティーヴンソン『宝島』
ハワード・パイルの海賊画
エンタテインメントとしての海賊
【Ⅳ】 現代の海賊文化 情報の海の海賊
秘密情報の海賊国イギリス
イギリスの海賊大将チャーチル
情報海賊帝国アメリカ
海賊版——複製文化の掠奪
パイレーツ・パンク
リミックス海賊
現代の原始的海賊


本書を読むと延々と続く戦いの中で奪い合いながらも拡散してきた人類の歴史とともに海賊が歩んできたことがなるほどよく解る。

そして海賊なのかどうなのかは、本人達というよりも寧ろどっち側から物事を見ているのかという観察者側のスタンスにあると言うことも見えてくる。

アウトローの海賊のイメージはつまり創り出されたものでもある訳だ。

丹念に調べられた海賊にまつわる歴史は非常に興味深く、駆け足で読んでしまうのはなんとも勿体ない、申し訳ない気すらするほどでありました。

時代を超え広大な海を股に掛けて財宝を巡って奪い合い、ふっきれた悪事を成しまたそれに喜びを見いだしてすらいて、そしてまた死をも甘んじて受け入れる潔さも兼ね備えたピカレスクな海賊たち。しかしそれは敵を単純化して「悪人」として描ことで自分たちを正当化する手段・手法なのだった。

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誰が世界を支配しているのか?( Who Rules the World?)
ノーム・チョムスキー (NoamChomsky)

2018/06/02:チョムスキーの事を知ったのはジョン・ル・カレの本からだった。議会制民主主義が毀損している今の現実の事を解っているのか?突きつけるような問いかけをル・カレは自著の小説の中からすごい勢いで飛び出させていた。そしてチョムスキーの本を読んだ事があるのか?と言っていた。そんな事も知らんでどうするという勢いだった。チョムスキー?勿論読んだ事はなかった。チョムスキーという人物の事も全く知らなかった。

これはマズイと思った。そしてチョムスキーの本を探して読んでみた訳だが、最初は何を言ってるのかチンプンカンプンだった。なんだか知らない世界かはたまた絵空事のような世界観が。しかしやがて彼が訴えていることがどれも現実に起こっている事で僕らは巧妙にその現実から目を逸らされている事がわかってきた。そしてそれは今も相変わらず現在進行中で事態はますます悪くなってきてさえいるという事も。

北朝鮮はトランプと会うのか、会わないのか、脅しとも恫喝ともとれるような発言で牽制しあっている一方で、北朝鮮は核開発施設の爆破などを行い朝鮮戦争の終結とアメリカとの和解に向けて前向きな姿勢を見せている。

アメリカは同時並行的に中国への圧力を強めている。北朝鮮とのやりとりがどうなって行くのかは不透明だが、仮に和解が成立したとしても、中国との緊張が高まり世界が今よりも平和になるなんてことはないんだろうと思う。

中国との対立は政治信条でも宗教的対立でもなく、あからさまな資源の奪い合いになる訳だが、中国の台頭を許せばアメリカの覇権を揺るがす重大な事態になるのでなんとしても中国の拡大主義を押さえ込んでいきたいのだろう。アメリカにとって北朝鮮問題はその目的から世間を煙に巻く絶好の機会として利用しようとしているように思える。そしてここにもアメリカは自分自身の拡大主義のことは例外的に問題ないという前提がある。

トランプにノーベル平和賞だなんて声が上がっていてアホかと思う次第だけどこれはオバマも一緒。チョムスキーは本書のなかでこんな事を書いていました。

長期的にみた米国の政策は、戦術的調整はあってもだいたい安定している。だが、オバマ政権になって興味深い変化があったと、軍事分析家ヨキ・ドリーセンとその共著者は『アトランティック』誌への寄稿で述べている。それによると、ブッシュの政権は容疑者を捕捉して拷問することだったが、オバマになって簡単に暗殺するようになったという。テロ兵器(ドローン)の使用が増え、特殊部隊も増え、その多くが暗殺するように部隊だという。特殊部隊は147カ国に展開されており、総勢はカナダ軍全体とほぼ同じ規模。そしてこの部隊は事実上、大統領の私兵だという。この実態については調査ジャーナリスト、ニック・タースが寄稿するウェブサイト『トムディスパッチ』に詳しい。オバマがオサマ・ビンラディンの暗殺に使った部隊は、すでに似たような特殊任務をパキスタンで十数回行っていた。これらのことがあきらかに語るのは、米国の覇権は衰退したものの、まだまだ野心は盛んなことだ。


勿論、暗殺は国際法違反だが、テロ組織がまして無政府状態の場所にいるような相手に対してならニュースになったり訴えらたりするような事も心配する必要はないのだろう。

また、因みにだがアメリカを相手にした交渉で北朝鮮はこれまでにも核開発停止は複数回実行されてきていて、その都度経済制裁やらなにやらを押し付けて再開させてきたのもアメリカだった。つまり和解がゴールな訳でもない気もする。

アメリカのならず者度合いは勿論近年どんどん高まってきているのだけど世間のみんなは大部分がぜんぜん気づいていないのだから仕方ない。

議会制民主主義が毀損しているというところについてもチョムスキーの見立ては以下のとおりだ。


ネオリベラリズム(新自由主義)が台頭した過去30年に、民主党も共和党も右へ舵をきった。現在の民主党主流派は、昔なら「共和党穏健派」と呼ばれただろう。一方、共和党の大半は驚くほど右傾化した。保守派の政治アナリスト、トーマス・マンやノーマン・オースティンが「過激な反乱分子」と呼ぶほどであり、通常の議会政治を放棄したも同然だ。

この右傾化に伴い、共和党派は富や特権を極度に重視するようになった。当然ながら富裕層のための政策を掲げても、一般有権者からの票は得られない。そこで別の支持者を動員しなければならなくなった。共和党が掘り起こした新たな支持基盤が、イエスの再臨を待つキリスト教福音派や、拝外主義者、頭の中が南北戦争以前のままの人種差別主義者、現状におおいに不満だが原因を勘違いしている人々、さらには簡単に扇動されて反乱分子になる人々だ。
近年、共和党主流派は、動員した支持基盤の声をなんとか抑えてきたが、すでに限界にている。2015年末にはこの状況について、主流派が困惑や悲壮感を表明するようになった。共和党の支持基盤をコントロールできなくなってきているのだ。


日本も安倍政権が止められない事態に陥って久しい訳だが、アメリカと同じく右にかじを切って富裕層に有利な政策を推進するために排外主義者、頭の中が軍国主義だった戦前日本のままの人種差別主義者や現状におおいに不満だが原因を勘違いしている人々、さらには簡単に扇動されて反乱分子になる人々を利用して票集めして政権を握っているのだ。

先日菅直人元首相の話を聞く機会があったのだけど、菅さんは東日本大震災の混乱に乗じて政権攻撃してきた安倍を国がなくなるかもしれない事態を利用するなど言語道断の行為だと未だに怒り心頭でした。

僕らの国のの頭首もまた素晴らしいならず者度合いな訳ですよ。皆さん。

つまりは知らんでは済まされん話です。まずはチョムスキーの本を一冊でも読んでみてくだされ。

「壊れゆく世界の標」のレビューはこちら>>

「誰が世界を支配しているのか?」のレビューはこちら>>

「複雑化する世界単純化する欲望」のレビューはこちら>>

「我々はどのような生き物なのか」のレビューはこちら>>

「チョムスキーが語る戦争のからくり」のレビューはこちら>>

「現代世界で起こったこと」のレビューはこちら>>

「グローバリズムは世界を破壊する」のレビューはこちら>>

「すばらしきアメリカ帝国」のレビューはこちら>>

「メディアとプロパガンダ」のレビューはこちら>>

「破綻するアメリカ 壊れゆく世界」のレビューはこちら>>

「チョムスキー、アメリカを叱る」のレビューはこちら>>

「9・11―アメリカに報復する資格はない!」のレビューはこちら>>

「「チョムスキーの「アナキズム論」」のレビューはこちら>>



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アメリカ「帝国」の中の反帝国主義
トランスナショナルな視点からの米国史
( Empire's Twin U.S. Anti-imperialism from the Founding Era to the Age of Terrorism)

イアン・ティレル ( Ian Tyrrell)&ジェイ・セクストン (Jay Sexton)


2018/05/27:アメリカはトランプによって暴走を加速させ、世界からの孤立もその度合いを高めている。イスラエルのアメリカ大使館をエルサレムに移転し、イスラエルの首都がエルサレムであると宣言までしよった。

イスラエルは大喜びだし、アメリカのシオニストたちも拍手喝采な訳だが、これは国際社会を無視して国内のシオニストたちに媚びを売るため以外の何物でもない。

北朝鮮問題ではノーベル平和賞だなんて騒いでいる連中もいるようだが、最早失笑すら浮かばない。オバマの時の茶番以上に茶番な訳で現実にはその正反対な事が進んでいくのが常道だ。

北朝鮮問題に戻ると、アメリカがやりたいことは48度線よりも前線を更に北に押し上げ中国の喉元を押さえに行きたいだけの話だ。それで世の中が平和になるなんてどう考えたら結論がでるのかと。

アメリカが建国時点から拡張主義で帝国主義的な国であったというのが最近の僕の認識だ。これを誰彼構わず押し付けるつもりはないのだけれども、世界的には優勢な捉え方だということだけは主張したい。

こうしたまるでブレーキが壊れた機関車のように暴走しているアメリカに金魚のフンみたいにくっついて付いていく日本というのも見苦しいというか、愚かというか、救いがない。

同様にアメリカ国民にもアメリカの孤立や帝国主義について認識がない人々が大勢いて、この話の通じなさは絶望的だと思っていたのだけど、何でこんなに話が通じないのかというところに一条の光をもたらすかもというのがこの一冊でありました。

保守、リベラルの定義が曖昧で時代、時代で意味合いを変え、利用されてきたが、これと同様に帝国主義も定義は不明確でみんなで勝手にこの言葉を利用してきた。

西部開拓時代の開拓者たちはインディアンたちを邪悪で未開な状態から救済する目的で臨んでいたという訳だ。 しかし本書は読みにくい。なんだかわからないけど文脈を補足して辿るのが困難だ。一文一文で述べられている結論の部分がなんだかゴタゴタしてて、これはわざとやっているのか、文章が下手くそなのか翻訳が変なのか・・・・。

新たに建設された連邦国家アメリカは、法律の「技術」によって移住を推進した理想的なイギリス帝国体制を再現した。各州の憲法は独立後の各地域の権利を強化し、新たな州の加入を提唱する者は自らの移住計画のために議会の認可を求めた。このような法的進化についての従来からの説明はこうである。独立革命家は、正当な権力の空白を迅速に埋めるために、イギリスからの離脱を正当化しなければならなかった、と。しかし、ここで再び指摘しなければならないことは、独立革命を危機に陥れたのは、植民地における法的義務の欠如ではなく、これが過度であるということであった。アメリカ植民地の歴史における法律の重要性を考慮に入れるならば、当時の法律家が、旧体制を壊して新体制を構築する上で主たる役割を担ったのは当然のことである。しかし、彼らの達成した大きな事は、急進的になりうる破壊的な体制転換の時期を通じて、根本的な連続を維持することであった。独立したアメリカ人は、イギリス帝国を拒絶しながらも、この旧帝国の移住計画を永続させ、新たに連邦の立法構造を作り出すことによって、既存の州の権利や、新たな州が求める既存の植民地との平等を保障することであった。


解ります?何言っているのか・・・。細かいところを省きつつ僕個人の理解の上で書かせていただくと、大英帝国のあまりにもな拡張主義、帝国主義的なその所作に反発したアメリカは反帝国主義的思想であるという認識のもとで自由の国を作ろうと「未開の地」に向かったというわけだ。「未開の地」である以上その地は誰のものでもなく、現実には存在していたインディアンたちは邪悪で不潔な異教に束縛されており白人たちに救いの手をあげていて、彼らは自分たちに似てはいるものの生物的・遺伝子的に劣った種なのであったというわけだ。

なるほど。そしてこの帝国主義や拡張主義という言葉は時代の変遷に合わせて都合よく解釈されその時その時の価値観によってその意味するものが大きく異なってきた。

謝辞
日本語版への序文[イアン・ティレル]
  凡例
序章 アメリカ反帝国主義の研究史[イアン・ティレル、ジェイ・セクストン]
第Ⅰ部 19世紀における征服者と反植民地主義
第1章 初期アメリカにおける帝国主義とナショナリズム[ピーター・S・オヌーフ]
第2章 帝国と植民地支配に抵抗するアメリカ先住民[ジェフリー・オスラー]
第3章 南北戦争期における「アメリカ独立宣言の帝国主義」[ジェイ・セクストン]
第Ⅱ部 反帝国主義と新たなアメリカ帝国
第5章 アメリカの反帝国主義とメキシコ革命[アラン・ナイト]
第6章 反帝国主義、伝道活動、そしてキング=クレーン委員会[ウサマ・マクディシ]
第Ⅲ部 反帝国主義におけるその範囲と限界
第7章 ウィルソン時代のグローバルな反帝国主義[エレツ・マネラ]
第8章 フェミニスト研究史、反帝国主義、脱植民地化[パトリシア・A・シェクター]
第9章 資源利用、環境保全、反帝国主義の環境的限界、1890?1930年頃[イアン・ティレル]
第Ⅳ部 アメリカ帝国の時代における反帝国主義
第10章 冷戦初期におけるアメリカ反帝国主義の推進[ローラ・A・ベルモンテ]
第11章 ヴェトナム戦争時代における支配階級の反帝国主義[ロバート・バザンコ]
第12章 ポストコロニアル世界におけるアメリカ反帝国主義の行方[イアン・ティレル、ジェイ・セクストン]
 注
 索引
 参考文献
 訳者あとがき

本書は建国前、建国直後、南北戦争やメキシコ革命から近代までそれぞれの時代時代の人々が何を帝国主義的あるいは反帝国主義的であると考えていたのかを捉えなおし、そのような信条から生まれる価値観や優先順位に基づく意思決定や思想がどのようなものだったのかというところをなぞっていく。

帝国が存在する現実と反帝国主義という考えの間柄での緊張は、同時代の西部を巡る議論において多く見られる。「西部の獲得」を本質的に反帝国的なことと考えた人にとって、そうした考えの背景には、西部テリトリーのアメリカ先住民やメキシコ領を獲得する手段を、彼らが視野から消したことがあるからに他ならない。このように、同時代の人々にとって、西部移住が反帝国的性格を有したことは、かつての北西部条例の古い規定が、白人移住者に最終的な自治付与を約束する州の地位につながる行政方針でありつづけた、という事実のなかに見出された。しかし反帝国主義は、西部の獲得という限定された概念においてさえ、このテリトリー制度をむしろ批判する上での基盤となりえたのである。


章毎に著者が異なるのだけど読みにくいという点ではどれも一緒なのはどうした訳なのか。上記の文章も最初のうちは理解できそうな感じなのだが後半にいくに従い、北西部条例とかテリトリー制度のようなこれまで説明されてきていない、或いは僕が読み飛ばしているのか、のような言葉が紛れ込んできて最終的には何を言っているのかわからんってなるな。


20世紀後半にアメリカが、グローバルな支配勢力になったのは、ヨーロッパの諸帝国における脱植民地化を背景としていた。ここから大雑把な結論を導くならば、アメリカのグローバルな力の増大が反帝国主義を広めた、ということになる。しかし、帝国主義に関してアメリカがとった立場は、一様ではなく、また混乱したものであり、それは、アメリカ自身の帝国における、限定的な脱植民地化に表された事実が示している。例えば、アメリカが植民地にした最大の国であるフィリピンに1946年6月4日に政治的独立をもたらしたが、その一方で、アメリカは自国の軍事施設をその国から引き揚げなかった。また、アメリカは、キューバのグアンタナモ湾やパナマ海峡地帯やヴァージン諸島は言わずもがな、他の島嶼領土であるグアム、サモア、プエルトリコを手放す事もなかった。1950年に、プエルトリコでは、急進的な民族主義者がトルーマン大統領を暗殺しようとしたにもかかわらず、アメリカによるこの島国への支配権は、経済や政治において強化された。


近代におけるアメリカの拡張主義が何故帝国主義的ではないと自覚されていたのかという点について、解りにくい、難しい本書を斜め読みした僕の拙い理解としては、まずソ連のような帝国主義の国による支配からの開放であったこと、大英帝国などが推し進めてきた植民地支配と異なり、多国籍企業による資源の独占であったこと、つまり支配はしていないという訳だ。植民地支配は現地の人を人として認めた上で従属的支配を行使するものだが、アメリカの経済的支配は現地の人々をいないものとして無視している。結果資源や利益を奪われ貧困の度合いを深める或いは存在を消していく人々がいるが、因果関係も不思議に無視されている。難民や貧困層の救済は国際支援団体の仕事なのだ。

フィリピンの歴史について本書で言及されていましたが、フィリピンはスペインの植民地であったものが1898年にアメリカに譲渡されアメリカの植民地となったそうだ。これに反発した現地人とアメリカの間で熾烈な戦争となり(米比戦争)60万人もの人が命を落とし、また大勢が無慈悲な拷問などを受けたという歴史があった。僕はこの話をほとんど認識していませんでした。日本が第二次世界大戦でフィリピンに進出していったとき、アメリカからの開放を意味するものと捉えていた現地の人もいたのだそうだ。しかし残念なことに現れた日本人もまた帝国主義的な信条の人であったのだという。いやはや全然認識がなくびっくりしちゃいました。


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黒い風 (The Dark Wind)
トニイ・ヒラーマン(Tony Hillerman)

2018/04/30:「話す神」の時にも書いたけどこの「黒い風」も麻薬絡みだったくらいしか思い出せない。どんどん忘れていく事を老人力と呼んでいるらしいがこれだけすっかり忘れている事にはやや不安を覚える。

そんなにすっかり忘れているのならその本って面白くなかったんじゃないのとカミさんに突っ込みを受けましたが、そんなハズはないと思うものの、全然覚えていない以上何の根拠もない訳で。

GW入り早々、脹ら脛がまた肉離れの予兆を発して少しおとなしくしております。

肉離れやったのってどっちの脚だっけとなり、自分のブログを遡って読んでみたら、肉離れで臥せっている間に「話す神」を読んでいる自分を発見。四年前だと思っていたらもう六年前だった。

本当、読書レビューもブログも続けてきて良かったなー。どんどん忘れていく事を止められないとしても、書いておけば思い出せる事もあろうというものだ。

あれ?老人力って何だ。

トニイ・ヒラーマンの作品には、ヒープホーン警部補が主人公のものと、若いチー巡査が主人公のもの、そして二人が登場するものの三種類がある。本書「黒い風」はチー巡査が主人公のものだ。

チーは、クラウンポイント分署から六週間前にチューバ・シティ分署へと異動してきたばかりだった。

そんな彼のところには次々と難題が持ち込まれていた。

身元不明の射殺死体、交易所の盗難、酒の密売、魔法の噂、そして風車の損壊。

元々はナヴァホの土地だったものが政府の行政命令によりホピ族との共同使用保留地となった場所に建てられた風車の一つが何度も壊されていた。なぜか特定の風車一つだけが壊されるのだ。

同じナヴァホの土地ではあるものの、チーは土地の人々にとっては余所者で聞き取り捜査もまだままならない状態だった。

上司から解決を迫られたチーは風車を見下ろせる場所に潜み徹夜の監視を行うことにした。

なぜいくつもある風車の一つだけを壊すのだろう。夜の荒野の下で独り推理するチーの頭上に飛行機のエンジン音が近づいてくる。低空で旋回、着陸しようとしているようだ。

セスナ機は程なく着陸すると岩に激突して大破した。そしてしばらく後に聞き違いのない銃撃音が。

現場へと小走りに駆けつけるチーの耳には 走り去る車の音、そして何者かが土手を這い上り逃げ去っていく音が聞こえた。

大破したセスナ機の中には瀕死のパイロットが一人。そして機外にはスーツ姿の男の死体があった。死体の手にはカードが握らされており、そのカードはホピ文化センターのもので「取り戻したければここに来い」という書き込みがなされていた。

セスナ機の墜落は現場から麻薬も現金も見当たらなかったにも関わらず麻薬取締局が介入してきた。そしてチーに何かを隠し持っているのではないかという嫌疑がかかってくるのだった。

ナヴァホとホピの微妙な緊張関係や宗教儀式とそれを通して見える過酷な自然環境との関わりなどが丁寧に描かれつつ、複数の事件、伏線が絡みあいながら進む本書はゆるゆると事件の核心へと間合いを詰めていくのだが、予想を超える展開と真相も用意されていて、正に第一級のミステリに仕上がっております。


「黒い風」のレビューはこちら>>
「魔力」のレビューはこちら>>
「話す神」のレビューはこちら>>
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「聖なる道化師」のレビューはこちら>>


△▲△

種子
ー人類の歴史をつくった植物の華麗な戦略 (The Triumph of Seeds: How Grains, Nuts, Kernels, Pulses, and Pips Conquered the Plant Kingdom and Shaped Human History)

ソーア・ハンソン(Thor Hanson)

2018/04/21:種子にフォーカスして一冊本が書けちゃうというのはなんとも素敵な企画じゃないかと思う。期待していた通り自分が理解していた以上に種子の戦略はとても幅広く楽しんで読ませて頂きました。

目次

日本語版に寄せて
はじめに 「注目! 」
序章 エネルギーの塊 タネは養う
第1章 一日一粒のタネ
第2章 生命の糧
第3章 ナッツを食べたいときもある タネは結びつける
第4章 イワヒバは知っている
第5章 メンデルの胞子 タネは耐える
第6章 メトセラのような長寿 第7章 種子銀行 タネは身を守る
第8章 かじる者とかじられる者
第9章 香辛料という富 第10章 活力を生む豆
第11章 傘殺人事件 タネは旅する
第12章 誘惑する果実
第13章 風と波と
終章 種子の未来

種子は次代を繋ぐために、非常に堅い殻を作ったり、遠くに移動するために飛行能力があったり、動物に食べられることで運ばれたりと様々な戦略をとっている。

飛行能力も羽を持ったり綿毛を使ったりと多種多様だ。

化学物質を使った防衛機能もカフェインやカプサイシンなど様々なアルカロイドが生み出されている。植物は窒素を基にして約2万種類ものアルカロイドを生成しているのだそうだ。

また「お弁当箱」と呼んでいる種子の持つ栄養分は主に発芽するために母植物が持たせるものな訳だが、この栄養分も多種多様だ。

「この栄養源の多様化戦略は、進化の必然的な結果とは思えない」と教授は話始めた。でんぷん、油、脂肪、タンパク質など、さまざまな形で栄養分を貯蔵する戦略は、植物界に不規則に存在しているようだからだ。最近進化した種の多くが遠い昔に進化した種と基本的に同じ方法で種子に栄養を蓄えているので、貯蔵方法に優劣があるわけではない。さらに厄介なことに、種子にはいくつも異なる栄養分が蓄えてられているのが普通で、母植物は雨量や土壌の肥沃さなどの生育条件の違いに応じて、その割合を変えることもあるようだ。よく知られているように、イネ科の種子にはでんぷん質が多く含まれているが、穀物畑に生える最もありふれた雑草はナタネと呼ばれている一年草のアブラナである。アブラナの小さな種子からは大量のカノーラ油がとれるのだ。


種子はどのようにこのような多様性を獲得してきたのか。なんらかの事情というものがあったのだろうが、これらはまだまだ謎が多い。

一方で人類はこの多様な種子を様々な目的に利用することで文明を発展してきた。種子の多様性なくして人類の高度な発展はなかったのだ。


現世の狩猟採集民族の習慣と比較することは。初期の人類社会を理解する上で非常に役立つ。温暖な地域に暮らす民族は伝統的にカロリーの四~六割を植物食から摂取していた。小麦や米などの身近な穀物の野生種に限らず、イネ科の種子に依存している民族は多い。たとえば、オーストラリアのアボリジニは、ニクキビ属、ヘアリー・パニック、マルガマツバシバ、ヒメタツノツメガヤ、レイグラス、ウーリパットグラスなどさまざまなイネ科草本でパンや粥を作っていた。現在のロサンゼルス近郊に住んでいたアメリカ先住民は、スペイン人の宣教師が来たころまで、カナリーサヨシを収穫していた。また、東海岸一帯に住んでいた先住民は、カナリーサヨシに近縁のメイグラスからでんぷんを摂取していた。二万年以上前にガリラヤ湖畔に住んでいた人々は野生の大麦を石うすで挽いて調理していたし、モザンビークでも10万5000年前にモロコシに似たような方法で調理していた。


種子の多様性はとても広く、そのせいか本書はやや駆け足感が否めない。うーん、もっと深堀して知りたい事がたくさんあるぞ。本書はそれなりに分量のある本なんだけど、種子の多様性にはかなわずという感じでした。

その上、学術的な話と著者個人の出来事や調査の過程で出会った人たちとのやりとりが同じ段落のなかに交錯しており、読み物としては面白いのだけど、折角の情報がとっちらかって分かり難くなってしまっているのがちょっと残念でありました。

自分の子供と種をめぐってやりとりしているお話はなかなか感動的だったりするので益々勿体ないと思います。もう少し整理して文脈を分けるともっと読みやすくて分かり易いものになると思いました。


△▲△

話す神 (Talking God)
トニイ・ヒラーマン(Tony Hillerman)

2018/04/15:期末のドタバタで本の兵站に失敗。次に読む本を切らしまった。ままある事で家の本棚から再読する本を物色。去年の引越の際の断捨離でいよいよ本棚の本は本当に大事なものばかりになってきて探すまでもない状態になっている。

トニイ・ヒラーマンの「話す神」?あれ?これが残ってたか。何度も読んでるハズなんだけど、自分のサイトで記事書いてない。ということは最後に読んだのは15年以上前だっちゅーう事か。それが何で今ここにある?

しかも背表紙のあらすじを読んでも、実際に読み始めても既視感がまるでない。ワシントンに出かける話があった事をおぼろげに覚えているだけだ。

そしてもちろん面白い。初めて読むような感覚で夢中になって読みましたが、これって耄碌してきて得した話なのか、がっかりすべきなのか複雑な気持ちであります。

ジョー・リープホーンはナヴァホ警察の伝説的な警部だ。数年前に最愛の妻に先だたれ引退する時期をずるずる先延ばししていた。

そんな彼を古くからの友人でFBIのギャラップ支部長を務めるケネディから呼び出しを受けた。

ギャラップの東の鉄道の線路脇で白人男性の死体が発見されたのだという。そこはナヴァホ警察の管轄外だが、ケネディはリープホーンに周囲の足跡を見て欲しいと考えていたのだった。

良く手入れされた上等の靴を履き、きちんとした身なりの白人男性が果てしなく続く荒野の真ん中の線路脇で死んでいた。頚椎をナイフで一突されていた。殺されたのだった。

男には歯が全くなく、身元を示すものは何もない。ポケットからはナヴァホの女性の名前と〈夜の詠唱〉という儀式の名前が書かれたメモが一枚入っていた。

夜の詠唱は他のすべての神々の母方の祖父であるイェイビチャイ〈話す神〉が登場する重要な儀式だった。

その女性は末期の癌で、数週間後に夜の詠唱の儀式を行う事になっていた。しかし殺されていた白人男性の事は何も知らなかった。

この白人男性の身元も手がかりもないまま事件は一歩も前進せずに停滞してしまう。

ナヴァホ警察の若い警官であるジム・チーは〈話す神〉の儀式をやっている場所に向かう事を命じられる。そこにワシントンで手配されている男が現れるハズで彼を逮捕せよということだった。

警察の仕事をする傍ら儀式の〈歌い手〉ハターリとなることを考えているチーは目の前で進む儀式を興味深く見ながら男が現れるのを待った。逮捕状がだされていた男はスミソニアン自然博物館の学芸員を務めているハイホークという男だった。彼は自分にはナヴァホの血が流れていると信じている白人で、博物館で標本にされているナヴァホの人骨を子孫たちの手にに戻す事を主張し、抗議のために上司の祖先の墓を暴き骨を掘り出したのだった。

チーがハイホークを待っていると儀式を囲む人々の中に同じように待っている男がいる事に気づく。その男は手が不自由だった。

チーが「悪い手」と名付けたこの男はしばらくしてやってきたハイホークに接近し何事か話をしたがふたりは初対面のようだった。

儀式が一区切りするのを待ってチーはハイホークを逮捕・連行する。チーの仕事はこれでおしまいになるハズだった。

この夜の詠唱を跨ぐ二つの出来事はやがて大きな事件となってひとまとまりになって行くのだけど、それが徐々に見えてくるくだりがとても素晴らしい。

ヒラーマンの本はリープホーン、チーそれぞれの単独のものと、本書のように二人が交錯していくものの三つのパターンがある。

年寄りで鋭い推理を働かせるリープホーンに対し、直感と感性で行動するチーの組み合わせ、そしてほんの一時なんだけど二人が直接出会うシーンの印象的な事。

解説によればヒラーマンはプロットを作らずに作品を書いているらしい。おおざっぱに登場人物たちを好きに走らせて最後にまとめ直しているようだ。

これってスティーヴン・キングと一緒なのかもしれない。エンディングに向けた物語の疾走感が素晴らしいのはこのような書き方にあるのかもしれません。

他の本は手放してしまいましたが古本屋さんにまだ残っている事がわかったのでついついまた買っちゃいましたよ。

おいおい残りの作品もレビューしたいと思います。

「話す神」のレビューはこちら>>
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