「失われた男(THE NOTHING MAN)」
Dellより1954年に出版される。48歳。
2006/07/29:扶桑社は今日「グリフターズ」も復刊して来た。いよいよ本気なのだろうか。これはなんか面白い事になって来た!32編を数えるトンプスンの作品の大部分が未訳なのだ。
扶桑社は全部自分で出しちゃう気なんだろうか。表紙のデザインを見るとどうもやる気十分な感じである。信じていいのか。どこかで裏切られるのか。なんて、これはこれでトンプスンっぽいって言うかなんて言うか...
しかし、もし仮にこれが全部訳出されるような事になったら、こんなに喜ばしい事はない。少なくとも僕は全部買うし読みますよ。三川基好さん。よろしく頼んまっせ〜。
僕自身トンプスンに飢えていたので、手にした本書は
背表紙の粗筋も読まず、勿論巻末の解説なんぞもっての他で本文を読み始めました。真夏日に一日外回りの営業をやった夜のビール並に旨い!こりゃ、やめられね〜。
毎度ながら内容の紹介はしんどいが以下にネタバレしない範囲で冒頭部分だけ簡単にまとめてみた。
南カリフォルニアのパシフィックシティという小さな街の新聞記者をしているブラウンがオフィスで仕事をしてると編集長のデイブが話し掛けてくる。
このブラウンの一人称で最後まで物語は語られる。一人称で信用できない語り手が物語の展開を握るのはトンプスンのお得意の技法である。白鵬の右四つ並につかまれたら、もうどうしようもないのだ。
記者と編集長との間の会話にも関わらずデイブに対するブラウンの態度はふてぶてしく反抗的である。これは発行人のラヴレイスにブラウンが気に入られている事だけではない何か負い目をデイブは握られている様子なのだ。
別な日には会社に届いたブラウンの傷痍軍人手当ての通知を見て同僚のトムは、どう見ても五体満足なのにどうして傷痍軍人手当てが貰えるのかをふと本人に尋ねるが、その会話はなんとも居心地の悪い方向へと進んでいってしまう。
このブラウンは、仕事中に酒は飲むし、上司にも同僚にも事ある毎に食って掛かっているようなのだ。
ある日、ブラウンが仕事に出るとラヴレイスから呼び出される。ラヴレイスの友人の友人といった関係である未亡人のデボラが突然やってきたのだが、ラヴレイスには対応している時間が取れない、そこでブラウンに市内を案内して欲しいというのだ。
発行人であるラヴレイスの願いという事もあり引き受けたブラウンはデボラと二人で出かけるが市内観光なんてそっちのけで二人で浴びる様に酒を飲みはじめる。
彼女はかなり年の離れた金持ちの夫と暮らしていたが、半年ほど前に夫が死去し未亡人となった。しかし、夫の親族や友人知人の輪に入りきれずにいたデボラは、そのまま一人疎外されて一人で旅行して回っていたのだった。
このデボラは金持ちで、しかもかなりいい女なのだった。
久しぶりに笑い会える相手に出会ったデボラと、そんな彼女に魅力に引き寄せられたブラウン。
すっかり意気投合してしまった二人だが、デボラがブラウンと一緒に暮らしたいと云うような主旨の話しをしだした途端にブラウンは人が変ったような態度で突き放しはじめる。
いぶかしがるデボラにブラウンは実は結婚している妻がいて、彼女とは現在別居状態で愛も無い状態なのにも関わらず離婚してくれないのだと告げる。
失意にくれる彼女と駅で別れ、次にブラウンは情報収集の一環で市警察主任警部のレム・スチューキーと飲みに出かける。レムに対しても新聞社の同僚同様見下した態度で接するブラウンだがレムとの付き合いはかなり長い様子である。
一方レムは群判事の地位を目指しつつ、適当に地元の犯罪者から袖の下も受け取っているような一癖も二癖もあるような人物である。
そんなレムの口から出てきた言葉は「彼女が来たよ。ブラウニー。署の者がみかけたそうだ。」彼女が。三ヶ月も音沙汰なしだった彼女がなんの前触れもなしに現れた。呆然とするブラウン。その彼女と言うのは彼の妻であるエレンの事だった。
本書は、恐らく全ての読者が読んでいる途中に抱くであろう全て推測を裏切る動転地変のエンディングが待っている。
こりゃたまげた。これでも随分本は読んでいるし、トンプスンだって事を重々承知して読んでいるつもりだった僕もたまげた。
そしてそれはナッシング・マン。こんな事ってあるんだろうか。こんな泣けるエンディングがあるのだろうか。だってナッシング・マンなんだよ。
スリラーとかミステリ小説の範疇を遥かに超えた孤高の小説である。読め!
クリントン・ブラウン(ブラウニー)・本書の語り手、新聞記者
エレン・・・・・・・・・・・・・・・ブラウンの妻
デボラ・チェイスン・・・・・・・・・未亡人
デイブ・ランドル・・・・・・・・・・市内版の編集長
ケイ・・・・・・・・・・・・・・・・デイブの妻
オースティン・ラヴレイス・・・・・・新聞の発行人
トム・ジャッジ・・・・・・・・・・・ブラウンの同僚
ミッジ・・・・・・・・・・・・・・・トムの妻
コンスタンス・ウェイクフイールド・・出版社社長兼編集長
レム・スチューキー・・・・・・・・・市警察主任警部
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