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2007年度第二クール。サイトスタイルを変えた事があだとなって振り回される今日この頃。今度はレビュー一覧がおかしくなってしまった。げげげ。


終決者たち(The closers)」マイクル・コナリー (Michael Connelly)

2007/08/22:更新をすごくご無沙汰してしまっていますが、さぼってた訳ではない。読んでいる本が長くて終わらないのだ。「帝都物語」あと一冊。合間にコナリーの新刊がリリースされ、我慢できずに脇道にそれてしまった。荒俣先生ごめんなさい。

さてさて、コナリーの新刊だという事で喜び勇んで飛びつき貪るように読んだ。「帝都物語」を中断して一気に読み切った。面白かった。

勿論ネタバレしない範囲でレビューを書いてサイトにアップしようと思って整理していたら、冷や水を浴びるような事に気付いた。と言ってもあくまで個人的な事で、未読の方に何か影響のある話ではないのでご心配なく。

ボッシュシリーズをずっと追い続けてきたつもりでいたのだが、なんと一冊飛ばして読んでしまっていた事がわかったのだ。それも直前の「天使と罪の街(The Narrows)」を。
ななななんと。んな訳ねーだろーと。

焦り気味に過去の記事を調べると最後に読んだのは2006年の1月「暗く聖なる夜(Lost Light)」だ。あらら。やっぱり「天使と罪の街(The Narrows)」を読み飛ばしていた。がーん。ショック。

堂々とレビューを上げる前に気付いて良かったぁ〜。

どうしても言い訳したいので書くが、「暗く聖なる夜」と「夜より暗き闇」はなんだか目の錯覚のようなタイトルで覚えにくい。こんな事で混乱しているのは僕だけなんだろうか。

また、「エンジェルフライト」が「堕天使は地獄へ飛ぶ」に改題。この二冊は同じ本なので買っちゃ駄目、と言う事を念仏のように呟いているところに「天使と罪の街」だ。ここでどうやら記憶のスイッチがおかしな事になっていた模様だ。

書店の本棚で目にしても「堕天使は地獄へ飛ぶ」と「天使と罪の街」とがどうやら僕の中では同じものに見えていたらしい。これは既読のものだとして片づけてしまっていたのだ。

「夜より暗き闇」のレビューを読み返すとこの時はこの時で、違う出版社からいつの間にか出ていた本書に長く気がついていなかったと云うような事を書いている。

俺って本当にファンなのだろうか。レビューなんて書いていいのかという根本的な問題に向き合う事になってしまったというのがこの「冷や水」と云う訳だ。

まぁ、日本の海外ミステリファンの方々はこうした出版社の都合とか、作者の表記が統一されていないとか、ちょっとワザとやってませんかというくらい歩きにくい山道を掻き分けて面白い本を探すというのがもはやそのファンたる行動基準に埋め込まれており、こんな目にあったくらいで意気消沈してても仕方ないんだけどね。

読むべき本が一冊見つかった事を喜ぶべきなのでしょうね。

「帝都物語」を読み終えたらまず最初に取りかかります。

そんな訳で、レビューも前後がひっくり返った順番でお届けする事になってしまった「終結者たち(The Closers)」だが、本書でめでたくハリーはロサンゼルス市警察へ復職する。やはり自己の人格のバランスを保つためには刑事であり続ける事が必要だと悟ったという事だ。

配属されるのは、過去に未解決となった殺人事件を最新の科学捜査の手法などを使って洗い直し解決を図る「未解決事件班」である。

復帰といっても1年間は仮採用という形で、何か問題があればいつでも職を剥奪されてしまう危うい地位でもある。

パートナーを組むのはあのキズミン・ライダーだ。彼女の応援もあってこの班に配属されパートナーを組むことが出来たのだ。

そして最初に取り組む事になる事件は、17年前に自宅の裏山で心臓を打ち抜かれて殺害された女子高校生レベッカ・ヴァローレンの事件だ。

彼女は、自宅の裏山であたかも拳銃自殺したかのような姿勢で死亡しているのが発見されたのだが、検視の結果首筋にスタンガンによる火傷の後がある事、本人の手に硝煙反応がなかった事が発見され、何者かによって殺害されたと断定された。

しかし容疑者も殆ど浮かばないまま事件は暗礁に乗り上げ、未解決状態で放置されていた。

この事件では凶器となった拳銃の内部にはこの銃を扱ったものの皮膚組織と血痕が発見され重要な証拠として保存されていた。犯行に使われたコルト・マークW・シリーズ80を発砲し薬莢を排出するスライドが後退した時に撃ち手の手の皮膚組織をはさみこみ拳銃内部に取り込まれて残ってしまったものだ。

17年後当時にはなかった科学捜査手法である皮膚組織からDNA判定とデータベースの照合を行ったところ、合致する前科者がいる事が判明(コールドヒット)したのだ。

地道に事実を結びつけて捜査を進めていくハリーの姿が何より嬉しい。そして更に事件解決に向けて積極的に動き出していく鮮やかな手並み。やっぱりハリーは刑事である事で生きているのだ。

長い間凍り付いていた事件はこのコールドヒットによって解決に向かう事ができるのか。更にこのコールドヒットはロス市警の闇をも照らし出す事になっていくのだ。ど派手な展開こそないものの。二転三転。かなり読ませる。読むべし。

「正義の弧」のレビューはこちら>>

「ダーク・アワーズ」のレビューはこちら>>

「潔白の法則」のレビューはこちら>>

「警告」のレビューはこちら>>

「ザ・ポエット」のレビューはこちら>>

「鬼火」のレビューはこちら>>

「素晴らしき世界」のレビューはこちら>>

「汚名」のレビューはこちら>>

「レイトショー」のレビューはこちら>>

「訣別」のレビューはこちら>>

「燃える部屋」のレビューはこちら>>

「罪責の神々」のレビューはこちら>>

「ブラックボックス 」のレビューはこちら>>

「転落の街のレビューはこちら>>

「証言拒否のレビューはこちら>>

「判決破棄」のレビューはこちら>>

「ナイン・ドラゴンズ」のレビューはこちら>>

「スケアクロウ」のレビューはこちら>>

「真鍮の評決」のレビューはこちら>>

「死角 オーバールック」のレビューはこちら>>

「エコー・パーク」のレビューはこちら>>

「リンカーン弁護士」のレビューはこちら>>

「天使と罪の街」のレビューはこちら

「終結者たち」のレビューはこちら>>

「暗く聖なる夜」のレビューはこちら>>

「チェイシング・リリー」のレビューはこちら>>

「シティ・オブ・ボーンズ」のレビューはこちら>>

「夜より暗き闇」のレビューはこちら

「夜より暗き闇」のレビュー(書き直し)はこちら>>

「バット・ラック・ムーン」のレビューはこちら>>

「わが心臓の痛み」のレビューはこちら>>

「エンジェルズ・フライト」のレビューはこちら>>

「トランク・ミュージック」のレビューはこちら>>

「ラスト・コヨーテ」のレビューはこちら>>

「ブラック・ハート」のレビューはこちら>>

「ブラック・アイス」のレビューはこちら>>

「ナイト・ホークス」のレビューはこちら>>


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ボストン・シャドウ(The Strangler )」
ウィリアム・ランデイ(William Landay)

2007/08/18:ウィリアム・ランディの第二作「ボストン・シャドウ」である。

前作に引き続いてボストンが舞台だか、時代は1960年代初頭であり前作とは全く関連がない。

また本作は前作の一人称での形式もとらず、ボストンに育ったデイリー家の3人兄弟の物語が織り込まれるように語っていく事で物語が進行していく形式を取っている。

正直ちょっと方向感を掴みきれずに途中で拡散しかけるような思いも抱きました。

しかし、キャラクターの一人一人が丁寧に生き生きとしている事で飽きる事はなく読み切る事はできましたけど。物語が走っていないのは、ちょっといろいろな要素を盛り込みすぎたからではないかと思いながら読んでいました。

しかし、読後整理してみるとなんとも見事な仕掛けが仕込まれていたのだ。言えないけど。

物語の主役はなんと云ってもボストンの街そのもの。ヨーロッパに近い港がある場所としてボストンは建国以来国際貿易港として栄えてきたが1800年代にはヨーロッパからの移民を迎え民族構成の変化に伴い街の文化も激変した。また同時に臨海地域に広がっていた湿地帯を埋め立てる事でボストンの面積は約3倍にも拡大したそうだ。



大きな地図で見る


工業化の波に乗って急速に進展していったボストンだったが、1900年に入るとそれらの工場は序々に老朽化し、街そのものが衰退期に入っていった。

その後、ボストンが再生するのは1970年代。約30年がかりで都市の再開発計画を実施し老朽化した街を取り壊し、新しい街をその上に作ったのである。1960年代のそんな都市開発が進み街が新旧の貌を入れ替えようとしている時期が舞台になっているという訳だ。

再生する都市の光の部分。しかしそれには当然にように影の部分がある。

都市開発に絡んだ影のボストン。ここでは「再開発」と云う命題を理由にマフィアも政治も警察も手を結ぶ場所でもあったのだ。

もう一つの物語の主旋律は本書の原題"STRANGLER"ともなっている「ボストンストラングラー(BOSTON STRANGLER)」である。

これは実際に1962年から1964年にかけて13名が被害にあった連続殺人事件である。再生するボストンの影の部分で暗躍した連続殺人事件の物語なのである。

この事件の事について少し述べるとこの「ボストンストラングラー」は一人暮らしの老女の自宅を襲い性的に陵辱した上に着衣を使って絞殺する犯行を繰り返した。

13名の被害者の8名は50代を越える女性なのだが、犯行が後期になると若い女性の被害者が増え当初はなかった性交の痕跡が残るようになってきた事から、ボストンストラングラーは特定の一人ではなく同様の手口を重ねる複数犯なのではないかという疑いもある。

押し入った形跡もなく自宅に入り込んで犯行を繰り返すストラングラーにボストンの女性市民は不安な夜を過ごしていた。

難航する捜査のさなかに浮上してきたのはアルバート・デサルボ(Albert DeSalvo)と云う男であった。 彼は妻にも愛想を尽かされるようなセックス中毒者で、妻に拒絶され続けた事から外で強姦を繰り返してきたらしいのだ。

明らかに初期の犯行とはそぐわないプロファイルなのだが、どうした訳か本人が自白をはじめ、警察も彼をストラングラーだとして逮捕するに至る。

どうやら2000件にもなる強姦事件が明らかになれば終身刑は免れられず、ストラングラーとして本を書いたり取材を受ける事で残された家族の為にお金を稼ごうとしたのではないかと云う話もあるらしい。

結果的にデサルボは殺人では起訴される事がないまま連続強姦犯として終身刑の判決を受け収監中の刑務所のなかで刺殺される。そしてストラングラーの事件は未解決のままとなったのである。

こうした歴史的、実際に起きた事件をベースに架空のキャラクターであるデイリー家の三兄弟の物語が成立しているのだ。読む前にこの事実を踏まえている事は肝心だったかもだ。

僕は読み終えるまで残念ながらストラングラーの存在を知らなかった。物語が空転していると感じるのは己の無知によるものだったのね。

長男はボストン市警の刑事、次男は検察官、三男は腕の立つ空き巣だ。三兄弟の父親は長男同様刑事だったが犯人の追跡中に兇弾に倒れている。

長男はノミ屋の賭け事での負けが込んで、のっぴきならない借金を背負ってしまっていた。

三男がホテルの一室から盗み出した大量のダイヤモンドは、ボストンで暗躍するイタリア・ギャングの持ち物であった事から苦境に立たされていく。

検事を務める次男は不動産関係が専門なのだが、ふとしたきっかけから世間を揺るがしているストラングラーの事件の捜査チームに参加させられる事になる。

全くの専門外の殺人事件にとまどうばかりだが、捜査チームの追っている対象が見当違いなものである事に気付きはじめる。

そんななかで、新聞記者を務める三男のガールフレンドが彼の父親の射殺事件には疑いがあると言い出す。追跡していたとされる黒人少年が撃ったにしては、狙いが正確すぎると云うのだ。

一緒に走って追跡していた同僚の刑事は今三兄弟の母親との距離を近づけ一緒に食事をするなかになっていた。

この三兄弟にひしひしと迫るギャングとストラングラーの影。そして父の死の真相。

うむ。良くできた話になっているじゃないか。面白し。


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ボストン、沈黙の街(Mission Flats)」
ウィリアム・ランデイ(William Landay)

2007/08/04:ボストン。ミッションフラッツ。1977年3月。深夜。法律で定められた時間を過ぎてもネオンがつきっぱなしになっているパブ。警邏中の警察官が様子を見る為に店にはいると居合わせた二人組の強盗に射殺された。

ボストン中の警察官がこの二人の犯人を追う。捕まえる為ではない。望んでいるのは犯人の死だ。二日後共犯者の男は潜伏先に突入した警察官によって42発の銃弾を体に受けて死亡。更にその7日後主犯格の男はミスティック川にかかる大きな橋の欄干から身を投げて死ぬ。

この世に逃げ場はどこにもないと悟ったのだった。

1987年8月。10年後のミッションフラッツ。アパートの三階の踊り場で警察官が数名息を忍ばせてしゃがみ込んでいる。この界隈で麻薬を売りさばいているミッション・ポッシと呼ばれるギャング団の密売所に踏み込もうとしている。

踊り場から見えるその密売所と目されている部屋のドアは赤く塗られた頑丈な木の扉だ。

一気に踏み組むには頑丈過ぎるのではないか。警察官達は踏み込むべきか躊躇しているのだった。一人の刑事が先頭に立ち扉をハンマーをドアに叩きつける。しかし、そのドアはびくともしない。

二度、三度とハンマーを叩きつけたその時、ドアが内側から爆発するようにはじけて刑事の頭を吹き飛ばした。

メイン州の小さな町ヴァーセイルズはマタキセット湖にやってくる観光収入を頼りにする自然に囲まれた静かな町だ。

1997年。この町の警察署長ベン・トルーマンは25歳、町では全米で最も若年の警察署長として知られている。

彼は本当はボストンの大学で歴史の勉強をして教授の道を進むことを考えていた。しかし事情があって故郷のこの町に戻り、父の跡を継いで警察署長になったのだのだが、警察官なんて柄ではない。いつかこの町を出て行きたい。漠然とだがそんな事を考えている男であった。

ある日彼がシーズンオフになった貸別荘を見回っていると鍵が壊されている別荘を発見した。部屋をあらためるとそこには死後かなりの期間が経過した男の死体が横たわっていた。

その男はサセックス郡の地方検事補であった。その男の死因は大型の拳銃で右目を打ち抜かれていた事であった。

その殺害方法はミッション・ポッシのリーダー、ハロルド・プラクストンの手口として知られているものであった。

ハロルド・プラクストンは同様の手口で麻薬取引で競合する他の組織のメンバーを始末し、地域を牛耳っているとされ、複数の重犯罪の容疑がかけられているものの証人するものがいない。
いても裁判の前に姿を消す等が起きてしまった事で起訴に持ち込むことが出来ていないというのだ。

自分たちの町で起きた殺人事件であるにも関わらずボストン市警がヴァーセイルズに乗り込んできて、捜査の主導権を握るや完全に蚊帳の外におかれてしまったトルーマンは偶然であった引退した刑事であるジョン・ケリーと共にこの検事補の犯人を追いかける。

捜査の経験が全くないトルーマンを経験豊富なケリーがリードする事で捜査が徐々に身を結んでいくのだが、そこで明らかになってきた事実は予想を超える規模で多くの人が絡み合った過去を浮かび上がらせてくる。

かなりの分量となっている本書だが、息をつく暇もない程一気に読ませてくれました。これは、警察小説でもあり、主人公の成長の物語のようでもあり、親子の愛憎の物語でもあるという設定のうまさがあると思う。

複雑に仕掛けられた伏線も、ストーリーの起伏もめまぐるしく飽きるところがない。
見事な構成でした。

ウィリアム・ランデイは本書がデビュー作だそうだ。実際に検事補として働いていた経験があるそうだ。ランダムハウスからデビュー作を出して現在はフルタイムの作家に転身ですって。うらやましい。現在僕の方は第二作の「ボストン・シャドウ」を読ませていただいております。こちらもなかなか読ませます。


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海野弘 本を旅する」海野弘

2007/07/29:海野さんのお気に入りの100冊の本を、海野さんと一緒旅する。

なんとも楽しい企画である。書く方としてはとっても大変だったというのは想像に難くないが、余りに見事にまとめられているのでさらさらと読めてしまう。

なんだか申し訳ない気持ちさえ湧いてきてしまうのだ。

それに、この100冊なのだが、僕が読んだ事がある本はなんと一冊しかなかった。博覧強記の海野氏が選んだ100冊は僕の読書生活圏とはずっと離れたところにあるのだ。

読んでいる本から違うのだ。恐れ入りました。

しかも、どれをとっても一筋縄ではいかない硬めな本を簡潔に且つ的確にまとめる事ができたらどんなにすてきなんだろうとは思うものの、そんなの絶対に無理というのが明らかすぎて切ない。

僕のはいっそ、こんなレビューなんて作るのを辞めて単なる読書人として静かに生活をするか、本を読む行為自体を海野さんのような人に任せてもっと世の役に立つ行為をしたほうがいいのでなんてつい核心的な事実に思い当たってしまっう。

本書はその内容の性格からそんな力量というか才能というかの歴然たる違いを見せつけられてしまう面もあるのだが、意図しているのは勿論そんな事ではなく、この100冊と恐らくはその周囲に鏤められた膨大な本を巡る旅をしてきた事で現在の海野さん自身ができあがっていることがわかる。

つまりこの100冊を海野さんが語る事で海野さんがわかる。と云うものなのだ。

僕の目線での海野さんはふと手にしたカリフォルニア・オデッセイによって彗星のごとく現れた方であり、どんな人なのかを全く知らないでいた訳だが、今回本書を読んで、どんな経歴の方なのか、そしてどんなお顔をされているのか、なんて事も初めて知る事ができました。

なかでも今では広く認知されている「アール・ヌーヴォー」を歴史のなかに埋もれていたとろから再発見したのが海野さんで、そんな偉業を遂げた経緯なんかも窺い知れる。

どんな風に考えているのかなんて云う事にも触れる事ができるのだ。

ま、しかし肩の力を抜いてのんびりと本の旅をする読み方が正しい読み方だと思います。

「めまいの街―サンフランシスコ60年代」のレビューはこちら>>

「癒しとカルトの大地―神秘のカリフォルニア」のレビューはこちら>>

「スパイの世界史」のレビューはこちら>>

「陰謀の世界史」のレビューはこちら>>

「秘密結社の世界史」のレビューはこちら>>

「陰謀と幻想の大アジア」のレビューはこちら>>

「新編 東京の盛り場」のレビューはこちら>>

「海野弘 本を旅する」のレビューはこちら>>

「書斎の博物誌―作家のいる風景」のレビューは こちら>>

「武蔵野を歩く」のレビューは こちら>>

「海賊の世界史」のレビューはこちら>>

「ビーチと肉体」のレビューはこちら>>

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恐怖の歴史―牧神(パン)からメン・イン・ブラックまで
(A History of Terror : Fear & Dread through the Ages)」
ポール・ニューマン(Paul・Newman)

2007/07/22:人は何故恐怖を感じるのか。
1998年「サンデー・タイムズ」誌は、人間の脳内で恐怖心を司る中枢をある科学者グループが発見したと報じた。同誌によれば、科学者たちは「この人間のもっとも根強い感情の一つが化学的な基盤を持つことを証明し、将来的には人を恐れ知らずにすることができる薬が発明される可能性を指摘した。
(〜中略〜)
恐怖という感覚は、扁桃体と呼ばれるアーモンド型をした一群の小さな組織内にある神経細胞間の微細な経路でどうやら生成されるらしい。
化学反応としての恐怖は確かにその指摘通りなのだろう。 しかし、生物として何故恐怖を感じるようにできているのかとなるとそれは全く別の話だ。 これは「痛み」を感じる事と同様、生物が生きていく上で必要な機能として備わったもので、 引用文にあるように恐怖や痛みを感じなくしたとしたら、「自己保存本能」そのものが働かなくなってしまうのでは ないかと思う。

逆説的だが、恐怖や痛みは我々が生き残っていく上で必要な感覚なのである。 人類はどんなものに「恐怖」を感じ回避しようとしてきたのだろうか。

そんな社会史に挑もうというのが本書「恐怖の歴史」なのである。

文明が始まる以前から、僕たちは暗闇や、他の生き物におびえて暮らしてきた。 文明の進化とともに、それまで原因が定かでなかったものの仕組みが明らかになり、やがてそれは恐れるに足りないもの コントロール可能なものになってきた。

しかし、人々の心から恐怖がなくなる事はなく、それまでとは違う新しいものに我々は恐怖を抱くようになってきたというのだ。

それは、黒死病や飢饉、恐怖政治など現実に起きているものであることもあれば、根拠の薄い、或いは全くないような話に基づい ている事もあるのだ。 歴史の厳然たる事実を越えて、ヒステリーの波が集団や国家に押し寄せる事がある。こうした波は、 根拠のない不安によって引き起こされようと、または人を惑わす幻覚によって引き起こされようと、 心境の顕著な変化という結果をもたらす。 たとえば、中世において、黙示録の予言の数々は、劇的な包囲攻撃や迫害が行われるきっかけとなったのだ。 人々は依然として心のなかの内なる悪霊に悩まされており、理不尽な情熱や不合理な恐怖に取り付かれているのだ。
こうして、過去脈々と僕たちは恐怖の対象と戦い、一部にはそれを打ち負かして組み敷く事によって進歩という形で前進してきた。 しかし、恐怖そのものを完全に打ち負かす時がくる事は決してないのだろう。 そして、そん歴史を振り返る時、時としてあからさまに或いは密かに恐怖心を利用する事で集団を操作しようとしてきた社会や人々が 存在していた事も見えてくる。

人類の歴史は恐怖をコントロールする為に戦うと同時に恐怖よってコントロールされてきたと云う事もできるのかもしれない。


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薄灰色に汚れた罪(Pale Gray for Guilt)」
ジョン・D・マクドナルド(John D. MacDonald)

2007/07/21:トラヴィス・マッギーに出会えるなんて幸せな事なのだろう。

一体どんな風の吹き回しで出版される事になったのか、どうして今なのか。何故この一冊なのか。全然ピンとこない。

どうせならちゃんとシリーズを時系列で出版してもらいたいと思うのだが、それは恐らく叶わぬ夢なのだろう。

海外での評価は高いのに日本ではどうゆう訳かあまり売れない作家というのがいるけれど、ジョン・Dは残念ながらその一人らしい。

ジョン・Dの事を「ケープ・フィアー」の原作者として認知している人も多いだろう。さらにそれに加えて「夜の終わり」である。はっきり言ってねちっこくて陰惨。もしかしたらこんなイメージから敬遠されているのではないかなんて思うのだが如何だろうか。この二冊とトラヴィス・マッギーのシリーズは全然雰囲気も違うんだよ。

トラヴィス・マッギーシリーズはタイトルに全て「色」が入っており、カラー・シリーズなんて呼ばれる事もあるそうだ。1964年に出版された"The Deep Blue Good-by"「濃紺のさよなら」から全21巻が出版されている。

主人公のトラヴィス・マッギーはフロリダの港に停泊しているバステッド・フラッシュ号を住まいに若くして普段は気ままな隠居生活を送っている男だ。この船はポーカーの賭けで手に入れたもので船の名前はその時に上がった「手」の名前をつけたものだ。

金がなくなると、お金を奪われるなどして困っている人を助けて回収したお金の半分を報酬として頂くというような仕事をしている。

本書はシリーズ第9作目の1968年の作品である。

トラヴィスは新しい小型のボートを手に入れて試し運転をするついでに、古い友人タッシュ・バノン家を目指す事にした。彼は昔一緒にアメフトのチームでプレイしていた男で、小さなマリーナでモーテルを経営しているのだ。

彼のモーテルに着くと以前の活気がまるで失われてる事が遠目でもわかる程であった。久々の再会に喜び合いつつタッシュに尋ねると、この場所を買い上げようとしている人物がいたのだが断ると、役所までもが嫌がらせのような工事をしたりしてきて、モーテルの経営が立ち居かなくなりつつあると言うのだ。

それでもタッシュはこの場所を愛しており、奥さんのジャニンと小さな子供とこの土地で暮らす事を守ろうとしていた。

ある日、空港に人を出迎えに行きバーで時間をつぶしていると、同じ店にタッシュがいる。見知らぬ女性と同席しているが、なにやら深刻な話題のようだ。声を掛ける事を躊躇ったトラヴィスだったが、タッシュの方から声をかけてきた。

弁護士を使って自分の土地をほしがっている奴を調べてみたところ、自分の小さな土地ではなく、その区画全体を手に入れようとしている不動産屋の存在がわかった。更にその不動産屋はグレイ・サントと云うマイアミで名の知れた若き富豪が糸を引いているらしいという。

また、モーテルに対する圧力は更に増し、道路工事は延期され放置された上に、難癖をつけて営業ライセンスを剥奪。銀行は借金返済の期限を前倒ししてきたというのだ。

それで、サントに直談判する為に連絡を取り漸く会えたのは先ほどの女性で、彼女は彼の秘書の一人だったのだった。そして相手の返事は一言「知ったこっちゃない」というものだった。

この事が気になってタッシュに度々電話を入れるが連絡がとれない。

再び小型ボートに乗ってタッシュのモーテルを訪れたトラヴィスを待っていたのは、彼の訃報だった。

自殺。

ウィンチで巻き上げた大型の船のエンジンの下に横になり、自分の上にエンジンを落としたのだというのだ。

どんなに苦境にあっても根を上げるような男ではないし、まして自殺とは。ジャニンと子供達はその前に家を出てしまっており、現在は行方がわからなくなっている事もわかった。そしてタッシュの死についてもまだ知りもしていないと云うのだ。

トラヴィスはタッシュの死の知らせを伝える為にジャニンの足取りを追う。そして恐らくはタッシュを死に至らしめた真相に辿り着く為に。

物語は全く陳腐化しておらず、大変面白い。トラヴィスは勿論友人のマイヤーの活躍もうれしい。

SFやパニック小説等と幅広いジャンルで沢山の作品を残したジョン・Dだが、日本でももっと評価されるべき作家だと思います。

Travis McGee novels

"The Deep Blue Good-by"    「濃紺のさよなら」
"Nightmare in Pink"         「桃色の悪夢」
"A Purple Place for Dying"     「紫色の死地」
"The Quick Red Fox"        「赤い雌狐」
"A Deadly Shade of Gold"
"Bright Orange for the Shroud" 「オレンジ色の屍衣」
"Darker than Amber"       「琥珀色の死」
"One Fearful Yellow Eye"     「黄色い恐怖の眼
"Pale Gray for Guilt"        「薄灰色に汚れた罪」
"The Girl in the Plain Brown Wrapper"
"The Long Lavender Look"
"A Tan and Sandy Silence"
"Dress Her in Indigo"
"The Scarlet Ruse"
"The Turquoise Lament"      「紺碧の嘆き」
"The Dreadful Lemon Sky"     「レモン色の戦慄」
"The Empty Copper Sea"      「赤く灼けた死の海」
"The Green Ripper"
"Free Fall in Crimson2
"Cinnamon Skin"
"The Lonely Silver Rain"

Non-series novels

"Barrier Island"           「ディベロッパー」
"The Brass Cupcake"
"Condominium"            「コンドミニアム」
"Cry Hard, Cry Fast"
"Deadly Welcome"
"The Executioners"         「ケープ・フィアー -恐怖の岬」
"A Flash of Green"
"One More Sunday"
"Please Write for Details"
"Slam the Big Door"
"Where is Janice Gantry?"
"Border Town Girl"
"April Evil"
"All These Condemned"
"The Beach Girls"
"Judge Me Not"
"The Price of Murder"
"You Live Once"
"Contrary Pleasure"
"Death Trap"
"The Last One Left"         「生き残った一人」
"Drowner"
"A Key to the Suite"
"Murder in the Wind"
"Murder for the Bride"
"A Bullet for Cinderella"     「シンデレラの銃弾」
"The Crossroads"
"The Only Girl in the Game"
"Cancel All Our Vows"
"Soft Touch"
"A Man of Affairs"
"Clemmie"
"Area of Suspicion"
"No Deadly Drug"
"The Neon Jungle"
"The Empty Trap"
"The End of the Night"       「夜の終り」
"On The Run"
"The Damned"            「呪われた者たち」

Short story collections
"End of the Tiger and Other Stories"
"S*E*V*E*N"
"The Good Old Stuff"         「死のクロスワード・パズル」
"More Good Old Stuff"

Science fiction

"Wine of the Dreamers"
"Ballroom of the Skies"
"The Girl, the Gold Watch & Everything" 「金時計の秘密」
"Other Times, Other Worlds"
"The First One"





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雲の世界」山田 圭一, 菊地 勝弘

2007/07/21:ごろりと横になって読める本が欲しくて手にした一冊。雲の世界。写真付きで雲の分類と見分け方が書かれており、半分写真集のように眺める事も出来るし、文章と写真を読み比べて少し真剣に雲の名前を覚えようとしたりする事もできるなかなか楽しい本です。

雲には、「十種雲級」と云って10種類の分類がある。これは雲形と呼ばれる事もあり、世界気象機関発行の「国際雲図帳」によるものなのだそうだ。なので、「十種雲形」と呼ぶ場合もあるようだ。

これら10種の雲級は大きくはその発生している高度によって上層雲、中層雲、下層雲及び対流雲に分けられており、高度とその形によって分類されている。

上層雲 高度5 - 13km
 巻雲(Ci)
 巻積雲(Cc)
 巻層雲(Cs)
中層雲 高度2〜7km程度
 高積雲(Ac)
 高層雲(As)
 乱層雲(Ns)
下層雲 高度500m〜2,000m
 層積雲(Sc)
 層雲(St)
対流雲
 積雲(Cu)
 積乱雲(Cb)



乱層雲については下層雲に分類される場合もあるのだそうだ。対流雲は、比較的大気が不安定なときに雲底は平らで上空にモクモクともりあがった白く輝く雲の事で、夏に大きく発達した巨大積雲を積乱雲と呼ぶ。

あらためて過去の写真を見直してみたけど、自分が思っている程雲の写真は少なかったのでちょっとびっくりした。
変わった形の雲を見かけたら写真に撮ってるつもりだったのだけどな。



巻雲、巻積雲、巻層雲が入り組んだ美しい空だ。








高積雲。だよね。たぶん。








積雲。









巨大な積乱雲。浦安では結構見かける事が多いのだ。









結局似たり寄ったりの雲を撮ってばかりいたようだ。なんとかかき集めたのが上の数枚の写真です。僕が惹かれているのは、「積雲」だという事がわかった。

なんとなく眺めている空模様ですが、雲の名前がちゃんと言えて上空の空気の動きが理解できるというのはなかなかすてきな事ではないかと思います。


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