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危機と人類
(Upheaval: How Nations Cope with Crisis and Change)

ジャレド・ダイアモンド(Jared Diamond)

2020/06/21:いやはや凄い本でした。コロナ禍による非常事態宣言の下で読み始めたということもあるのだけれども、何一つまともな手を打てない政府、政権。変わることのできない官庁、政治家、そして僕ら。そしてアメリカではそんななかで逮捕時の暴行が元で亡くなった黒人男性の事件が引き金となり、全米はおろかヨーロッパにまでデモや暴徒であふれる事態となった。この事態に火に油を注ぐ発言を繰り返したトランプはホワイトハウスの地下にある防空壕に一時避難したのだという。正にこれぞ危機そのものという日々にあった訳で、本書は何か予言めいた部分があったりして、読み進むのが苦痛になる、息苦しくなるようなところがあったのでした。

そして日本では、法務大臣まで務めた河井克行とその妻で参院議員の案里が公職選挙法違反で逮捕された。法相を務めた人物が逮捕されるというのは日本初なのだそうだ。広島では自民党の有力者であった溝手氏が安倍のことを「過去の人」などと言ったことから確執が広がり、対抗馬として案里を担ぎ出して選挙を戦い落選に追い込んだという話があるのだけれども、この際、選挙資金として案理に対して1億5千万からの資金を自民党は出していたらしい。溝手サイドには1千万くらい?だった模様。それもひどい話だが、河井夫婦は貰った金を支持者集めの為にばらまいていたのである。

彼らは逮捕されたが、問題はここからだ。この金の出どころはどこで、誰の指示だったのか。「責任を痛感している」と痛覚のないらしい安倍は繰り返すばかりだが、はっきりしているのはこの事態が安倍政権にとって重大な危機であることだろう。安倍も今からでも遅くないからこの本読んでみたらどうかと思うよ。

まずは目次から

プロローグ ココナッツグローブ大火が残したもの
第1部 個人

第1章 個人的危機

第2部 国家――明らかになった危機

第2章 フィンランドの対ソ戦争
第3章 近代日本の起源
第4章 すべてのチリ人のためのチリ
第5章 インドネシア、新しい国の誕生
第6章 ドイツの再建
第7章 オーストラリア――われわれは何者か?

第3部 国家と世界――進行中の危機

第8章 日本を待ち受けるもの
第9章 アメリカを待ち受けるもの――強みと最大の問題
第10章 アメリカを待ち受けるもの――その他の三つの問題
第11章 世界を待ち受けるもの

エピローグ 教訓、疑問、そして展望


興味深いのは日本が二度取り上げられていることだ。明治維新の引き金となったのはペリー来航な訳だが、これを危機ととらえて当時の人々がどう動いたのか、明治維新によって日本はどのような変化を遂げたのかという前半部分と、目次にもある通り、現在の日本がどのような危機を前にしていて、今後どのようなことが起こってくるのか。それに対して僕らはどんなことができるのだろうか。そして、アメリカ、世界にはどんな危機が訪れようと

しているのか。それに対して私たちができることはどのようなことなのか。

ジャレド・ダイヤモンドがどんな切り口で迫ってくるのか。この目次を読んだだけでもわくわくするというか、読み進もうと逸る心を抑えるのが難しいじゃないか。焦って斜め読みしてしまうのはあまりにもったいないので、心を落ち着かせて丁寧にじっくり時間をかけて読ませていただきました。

冒頭、奥さんがケースワーカーをしているという環境から個人的危機にある人達がどのようにそれを脱していくのかを12の要因で分析していることをなぞっていく。それは「個人的危機の帰結に関わる要因」と呼ばれていた。

1 危機に陥っていることを認めること
2 行動を起こすのは自分であるという責任の需要
3 囲いを作り、解決が必要な個人的問題を明確にすること
4 他の人々やグループからの、物心両面での支援
5 他の人々を問題解決の手本にすること
6 自我の強さ
7 公正な自己評価
8 過去の危機体験
9 忍耐力
10 性格の柔軟勢
11 個人の基本的価値観
12 個人的な制約がないこと

著者は国家的危機もこれに準じて要因をあぶりだすことができるのではないかと考えたというのだ。 そしてそれがこれ。

「国家的危機の帰結にかかわる要因」

1 自国が危機にあるという世論の合意
2 行動を起こすことへの国家としての責任の受容
3 囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること
4 他の国々からの物質的支援と経済的支援
5 他の国々を問題解決の手本とすること
6 ナショナル・アイデンティティ
7 公正な自国評価
8 国家的危機を経験した歴史
9 国家的失敗への対処
10 状況に応じた国としての柔軟性
11 国家の基本的価値観
12 地政学的制約がないこと
すこし長いが、非常に重要なので引用させていただきます。

1 自国が危機にあるという世論の合意

国家も、個人と同様、危機に陥っていることを認める場合もあれば、否定する場合もある。ただし、個人的危機は本人自身が認めるかどうかだが、国家的危機の場合は、ある程度の国民的合意が必要となる。

2 行動を起こすことへの国家としての責任の受容

国家も個人も、問題解決のために、みずから行動を起こす責任を受容するみともあれば、自己憐憫に陥り、被害者ぶって他者を責めて、責任を否定することもある。

3 囲いをつくり、解決が必要な国家的問題を明確にすること

国家は制度や政策の選択的変化を実行するために「囲いをつくる」。つまり、変更が必要な制度や政策と、変更が不要で温存すべき制度や政策のあいだに線引きをするのだ。個人もまた、囲いをつくって、自分の特性の一部を選択的に変更し、他の特性は温存する。

4 他の国々からの物質的支援と経済的支援

国家も個人も、他の国家や個人から物質的支援や経済的支援を受ける。国家は受けないが、個人の場合は、さらに心理的支援も受けるかもしれない。

5 他の国々を問題解決の手本とすること

国家は、他国の精度や政策を手本とすることがある。個人が、他人の危機対処法を手本とするのと同様である。

6 ナショナル・アイデンティティ

「自我の強さ」と呼ばれる個人の資質は心理学者が定義したもので、それについてかかれた論文や書物も数多くある。これはあくまで個人の資質であり、国家的自我の強さとは呼ばない。しかし、国家にも国家の資質が存在し、これは「ナショナル・アイデンティティ」と呼ばれ、本書でも度々論じることになる。ナショナル・アイデンティティが国家に果たす役割は、自我の強さが個人に果たす役割とよく似ている。ナショナル・アイデンティティとは、世界の国々のなかで、その国を独自の存在にしている。言語、文化、歴史の特色であり、国家としての誇りの源であって、国民自身がその共有を自覚しているものである。

7 公正な自国評価

個人と同じく、国家も厚生な自国評価ができることもあれば、できないこともある。国家の公正な自国評価は、ある程度の国民的合意が必要となる。

8 国家的危機を経験した歴史

国家には危機を経験した歴史が、個人には過去の個人的危機や国家的危機の記憶がある。

9 国家的失敗への対処

「国家的失敗にどのように対処するか」「問題解決のための最初の解決法が失敗したときに他の方法を模索する意欲」は国によって差が出る。

10 状況に応じた国としての柔軟性

もうひとつ、心理学者が定義し、多くの論文や書物に書かれている資質に、個人の柔軟性と、その反対の頑固さがある。いずれの特徴も個人の性格に深く浸透していて、状況によって変わるものではない。たとえば、友人に絶対に金を貸さない主義だが、それ以外は柔軟に対応する人をさして、頑固な性格だとは言わない。頑固な人は、大半の状況に対して厳格な行動規範を持っている。国家のなかに、これと類似する硬直性を大半の状況で示すものがあるかどうかは、未知数だ。たとえば、日本やドイツに「硬直している」という汚名を着せたがる人がいるかもしれないが、実際には、この二国とも、多くの重要な事柄に対してきわめて柔軟に対応した時期があった。

11 国家の基本的価値観

個人には、誠実さ、大志、宗教、家族の絆といった、大切にしている基本的価値観が存在する。国家にも、国家の基本的価値観と呼べるものがある。それらの一部は個人の基本的価値観と重複する。

12 地政学的制約がないこと

国家の選択の自由はさまざまな制約を受ける。とりわけ大きな要因になるのは。地理的問題、財政的問題、軍事力や政治力である。個人も洗濯の自由にさまざまな制約を受けるが、理由は全く異なり、たとえば育児の責任、仕事上の要請、収入などである。


人と国家は違うのでその違いに目を付けつつ洗いだした要因となっていて、ある国が国家的危機に陥り、ある場合は危機を脱し、ある場合には危機によって国家、政権、国体が崩壊してしまう。歴史を振り返り、こうした危機にあった国・出来事はどうして成功・失敗したのか。この要因に照らして改めて見直すことで、現在・今後我々が直面していく新たな危機に際して、より良く対処行動することで危機を拡大しない、抜け出していくことができるまのではないか。と考えているというのだ。

ご本人既に80歳を超えていらっしゃるそうで、この切り口の鮮やかさというのはどうなのでしょう。頭の良さだけではない高い能力がないとこんな事できないですよね。素晴らしいとしか言いようがない。

紹介されるノルウェー、チリ、オーストラリアの「危機」はどれも僕には耳なじみのない話ばかりでした。危機には急激に起こるものもあればじわじわと長期に渡って陥る危機もあると。

問題はそのような事態をまずは何より「危機」と捉えることができるかどうかにあるという。要因1だ。まずは危機にあることを自ら認めない限りは、そこから脱しようという気にもならないし、治療も始められない。

安倍が自分自身の状況を「危機」と認識しているかどうかは知らんが、安倍政権が日本にとって「危機」的状況であるという認識に立っている人たちは実在する。事態が打破できないのは「危機」であるどころか、安倍が正しいと思っている人たちも実在しており、この対立が解消できる見込みがなく、こうした対立を双方が妥協できないと考えているところも危機的なのだが、安倍を信じている人たちはここにおいても危機感がないらしいということだ。

今度行われる知事選には過去最多の22名が立候補した。共闘しないと票が割れて知名度が高い候補者を利するだけじゃないのと思うのだけれども、妥協できないのか、他に何か事情があるのかわからないけれども、22名なのだそうだ。泡沫な候補者は顔すらわからない状態だよ。

その今、この時代の日本の何を「危機」とジャレド・ダイヤモンドは捉えてくるのか、そしてそれに対してどんなことができると言うのだろう。そして、アメリカ、世界についてどのような認識に立っているのか。確かにそれはその通り、というものもあったし、意外な問題を危機と捉えていたり、我々が「危機」だと思っているものを否定していたりするところもありました。

なるほど!!なんだけど、そこを書いてしまうのはあまりのネタバレになってしまうので、ここから先気になる方はぜひ本を開いてみてください。

「文明崩壊」のレビューはこちら>>

「昨日までの世界」のレビューはこちら>>


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銭形平次捕物控 傑作集二-人情感涙篇
野村 胡堂

2020/05/31:記事をまとめようとパソコンに向かったところで頭に降ってきたのは意外な記憶でした。銭形平次,子供の頃テレビでやってて祖母や年寄の親戚がよく観いてたなー。あまりにも地味なタイトルパックで僕には興味をそそるものは微塵もなく,脇で本を開くか、その場から離れるかとしていたと思う。なので番組の中身について語るものは何も持ち合わせていない.

というかお茶のみによった年寄が「これを観ないとみたいになって我が家のTVで時代劇を見始めてしまうというのは実際ちょくちょくあって、観たいと思っていたテレビ番組を見落とすなんてこともあった。

「時代劇も江戸時代も地味でつまらなくて嫌いだ」という原風景が蘇ってきたのだ。時代劇なんて年寄がみるもので面白くもなんともない。そう銭形平次は興味がなかったというよりも嫌いだったというのが正確なところと言ってもいいだろう.同じように水戸黄門も大相撲も訪ねてくるお年寄りが家で観ていくテレビ番組ベスト5的なやつだったなー。

親戚のみんなは皆いい人たちで嫌いな人なんていないし、一緒にいるのは全然問題ない。しかしダメなのはテレビ番組だけじゃなかった。本家に行って自家中毒を起こして夜中に帰ってきたり、山菜取りもキノコ狩りも植物音痴だった僕は全く識別できず、昆虫も蛙の卵も触れなかったり、結局僕は親戚筋の行動様式に全くなじめなかったのだ。

おふくろは結婚前アメリカ大使館に住んで通訳の仕事をしていたそうで、住所がアメリカ大使館だった。結婚したあと本家との関係に嫌気がさして働いていた東京に逃げ出し親父が連れ戻しに行った事があったという。深く考えるまでもなく長男でありながら故郷仙台を離れて暮らしている僕はおふくろの情緒と感性を受け継いでいた訳だ。こんなに解りやすいことをずっと自分でやっていて全然それに気づいていなかった。銭形平次を読んで本当の自分に出会えるとは・・・。しばし茫然である。

僕はおふくろがやりたかったと思われることをなぞるように生きてきた、上京して都内を散策して東京の歴史に触れ時代を遡るかのように近代史から江戸時代へと興味の範囲を広げ生きたのだが、それは僕が子供の頃、両親や祖父母が生きた時代をなぞる旅でもあった。

時代劇に興味を持ったのは単に自分が年寄になったからではなかったのだ。僕よりも50年先を行っていた年寄たちは僕よりも50年、江戸時代に近いところにいた訳で、彼らの世界観はどのようなものだったのか.何を見てどう感じていたのか。そして全然本題に入れない私。

図書館も近所の本屋さんも休館・休業が続く非常事態宣言下でカミさんが読んだ本からセレクトしていただいたのがこの銭形平次傑作選でした。「最初の頃の本だからずっと昔のやつ」だというという。

綿々と続いていたはずの銭形平次ものの原作者がいる、ということ自体僕には意外な話でありました。だってテレビドラマだと思っていたからだ。一方で読み始めると平次は八五郎のことを「フェミニスト」だ等と言うのである。昔の本?これが?

半信半疑のまま読み進んだのだけど、まるで落語のような軽妙さに、ぽっかりと浮かぶ情緒あふれる江戸の情景、クリスティーの短編小説を彷彿させるような鮮やな物語。無駄がない。なんだこれすごく良くできているじゃないか。それもそのはず傑作選だもんね。

巾着切りの娘

金の茶釜

刑場の花嫁

仏紙の娘

父の遺書

母娘巡礼

野村胡堂。正真正銘銭形平次を生み出した方の本でありました。

野村胡堂は1882年、岩手県の生まれで盛岡中学から第一高等学校、東京帝国大学へと進んだ。中学時代の同級生に金田一京助がいたそうだ。 学費が足らず大学を中退し報知新聞を発行する報知社へ入社、人物評論欄「人類館」の連載を担当する。この際に胡堂を名乗るようになったのだという。

1931年。文藝春秋発行の『文藝春秋オール讀物號』創刊号に捕物帳の執筆を依頼され、銭形平次を主人公にした「金色の処女」を発表、『銭形平次捕物控』の第1作目であった。これ以降、第二次大戦を挟んで1957年までの26年間、長編・短編あわせて383編を書いたのだそうだ。 383編!!

これをもとにテレビ番組化された「銭形平次」はギネスブックに最長のテレビドラマとして認定されているという。どうりでいつもやってるように見える訳だ。


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ブラック・アイス(THE BLACK ICE)
マイクル・コナリー(Michael Conneliy)

2020/05/16:間髪を入れずに第二作の「ブラック・アイス」に突入します。至福の連休です。ボッシュがクリスマスイブの夜独り自宅で料理を作ったりしていると流しっぱなしにしている警察無線が警視正を呼びたす殺人事件の連絡を流していた。警視正を呼び出すのも異例だったし、当日待機任務中の管轄刑事であるボッシュに連絡がこないのも変な話だった。

現場に足を運んだボッシュを待っていたのは同僚刑事の死体だった。モーテルの一室でショットガンを使って自分の頭を吹き飛ばしたと思われるものだった。 カル・ムーアはハリウッド署の麻薬課の刑事で一週間ほど前から行方不明になっていた。 遺体のズボンのポケットからは遺書めいたメモが一枚。

「おれが何者かがわかった」

今や警視正に昇格したアービィングはボッシュにカルの妻へ訃報を届ける仕事を割り当て現場から追い払う。

カルとボッシュは仕事上の接点をもったばかりだった。ボッシュは絞殺された男ジェイムズ・カッパラニの事件を捜査していくなかでメキシコから送り込まれている新しい合成麻薬「ブラック・アイス」の存在に行き当たった。カッパラニはブラック・アイスに関係するなかで絞殺されたようなのだ。絞殺方法はメキシコ流だった。

ブラック・アイスについて情報を得るために酒場で落ち合ったカルは事件やブラック・アイスのことよりも自分の心配をしていた。内務課が自分のことを探っているらしいというのだ。

肩に受けた銃創を癒すために6週間メキシコの静養から戻ったボッシュを待っていたのはハリウッド署のいつも以上の喧騒だった。

事件数が増加しているにも関わらず捜査員の一人であるポーターは神経消耗により早期退職を求めており、上司のパウンズはそれでも年末までに事件の過半数は解決できたという実績を残したがっていた。あと一件解決できればよい。どの事件であろうと。

ポーターはここのところ最近、捜査するふりをして実態は何もしていなかったと睨んでいたパウンズはボッシュに彼が担当していた事件ファイルを押し付けてきた。

パウンズの意向には全く同意できないものの、ポーターの立場をおもんばかるボッシュは彼の手掛けていた事件ファイルを読み始める。目を付けたのは一番新しい事件のもの。時間経過が進むにつれて解決の可能性が下がっていくのが定石だからだった。

その最新の事件はファン・ドゥ、メキシコ系男性の身元不明の死体が発見された事件だった。身元を示すものは何も所持していない死体だったが身体に彫られた入れ墨などの情報からメキシコ人だと思われる。メキシコで殺されてハリウッドで遺棄されるというなんとも不自然な事件だった。その事件の第一発見者は警官で調書には番号でのみ記されていたが、ボッシュが調べるとその警官はなんとカルなのだった。

モーテルで発見された遺体の指紋から死んでいたのはカル本人であることが確定。アービングはこの事件を刑事の自殺ということで幕引きを急いでいた。この部屋から採取できた指紋はカルのものだけであった。安宿のモーテルの一室としては異常な状態だ。内務課は何者かカル本人のことをよく知る人物からの内通で追い込んでいた。この内通者のことを内務課は奥さんだとは睨んでいた。しかし訃報を届けに行った際のやりとりからボッシュはそれがあり得ないことだと確信する。

何かが事件の裏で進んでいる。カルの死は自殺を装った殺人事件だったのではないか。そんな思いを抱えながらボッシュはファン・ドゥの事件を追い始める。遺体解剖で発見されたのは昆虫の「蛹」だった。

農作物を食い荒らすミバエの駆除を目的に放射線を照射されて不妊化された蠅を放つ計画が実行されていた。実蠅根絶計画と呼ばれる計画だ。不妊化した蠅を育てているのは外ならぬメキシコ、メヒカリだった。ファン・ドゥはここで働いていたのだろうか。カル・ムーアが生まれ育ったというカレクシコウとメヒカリは国境を挟んだ隣街なのであった。

むむむ、第一作に負けぬ先の読めない展開で読ませる、読ませる。ほぼ丸一日で読み切ってしまったぞ。

まだ連休が半分もあるのに・・・・。

30年前の当時、二十歳そこそこの若造がこの本を読んでどこまで理解できていたのだろうか。どんな日々を送っていたのだろうか。 また、当時はなかったグーグル・マップが今はある。

僕は今回、ハリウッド貯水池やカレクシコウをはじめボッシュの辿った道をグーグル・マップ、ストリートビューで散策してみました。何よりびっくりだったのはボッシュの自宅付近でした。ウッドロー・ウィルソン・ドライブを上がった山のなかにあり、裏庭のベランダからユニバーサル・スタジオやその向こう側にそびえる山脈が見渡せる場所にあり、夜にはコヨーテが近寄ってくることもあるというボッシュの自宅。

一方で事件ともなればクルマを飛ばしてダウンタウンまで20分で駆け付けられるというその場所は一体どんな場所なのか。僕はこれまで山の中腹よりもずっと上の近隣の家とはかなり距離のあるやや荒涼とした場所にポツンと建っている家を想像していたのだけれども、今ダウンタウンに20分で行ける距離の場所を探すと山のずっと下の方でなおかつ家々が連なる住宅街のような場所になってしまっているようなのだ。

道路からは裏庭の景色などは伺い知れないけれど想像していたようなところとはずいぶんと違っていて、いやこの30年の間に開発が進んだのかもしれないけれどもボッシュ自身はこの辺のことをどう思っているのだろうかなんてことも考えたりしていたのでした。

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ナイトホークス(THE BLACK ECHO)
マイクル・コナリー(Michael Conneliy)

2020/05/16:嬉しいことにカミさんがコナリーを読んで面白いと言ってくれた。かなりの後発組だが、シリーズ中盤からだが猛然と読み進んできた。読んだ本の話をしたりする訳だけど、数年前に読んだ本の内容を殆ど思い出せない自分は苦笑いするしかない状態だ。折角読むなら、でも中盤個人的にあまり好きじゃないのがあるけど、せめて最初の方だけでも読んだ方が良いのでは。探したらびっくりしたことに「ナイトホークス」や「ブラック・アイス」のような初期の本が絶版になっているじゃないですか。続いているシリーズの初期の本が絶版になるんだ・・・・。

kindleでは買えるけども、やはりちゃんとした本でないと面白さが違うと思う。ということで古本屋さんから仕入れました。届いた本をみるとやっぱり僕も読みたくなる。創刊直後に読んで面白くて何度かも読み返したはずなんだけど、ほんとぼんやりとしか思い出せない。

コロナウィルス感染拡大にともなう非常事態宣言下のゴールデンウィークに30年前の本に立ち返ってみるというのはとても良い機会なのではないかということで、再び本を読んでみました。いやもうこの色褪せない面白さは抜群でした。

ハリー・ボッシュはハリウッド貯水池、マルホランドダムの土砂止めに設置されたパイプ管のなかに死体があるという通報に駆け付けた。ボッシュはハリウッド署の刑事部の刑事だ。10か月前まではパーカーセンター、市警本部強盗殺人課で働いていたが、ドールメーカー事件の容疑者を射殺した際の行動がもとで停職となり、殺人特別班からハリウッド署刑事部へ転属させられたのだった。左遷だった。しかもこれ以上酷い職場はない場所への。

パイプは浮浪者や麻薬中毒者たちが夜を過ごすために度々利用されており、ここで死体となって発見された事件もあった場所だった。今回も単なる過剰摂取による死者と思われる様子で発見された男だったが、状況証拠に矛盾があることにボッシュは気づく。

そしてシャツで覆われていた死体の腕には見覚えのある入れ墨が。果たして死んでいたのはかつてベトナム戦争で同じ部隊に従軍していたウィリアム・ジョセフ・メドーズという男だった。ボッシュとメドーズは所謂トンネルネズミと呼ばれていた役割で、戦地に掘り広げれていたトンネルに単身もぐりこんで偵察、爆薬をしかけて潰すことを専らの仕事としていた男たちだった。

メドーズとは帰還後20年近く音信不通だったが一昨年、ボッシュに連絡をしてきた。常習注射痕を麻薬取締で見つけられ刑務所に送り込まれたばかりだったメドーズは刑事になっているボッシュを頼りに社会復帰プログラムを受けることを条件に仮釈放が受けられるよう助けてほしいというのだった。ボッシュはメドーズの話を信じ、復員軍人省に働きかけメドーズを入院させてあげたのだった。本人とは電話ではなしたきりだが、その後すっかり回復して社会復帰していったことを確認し安心していたのだった。

そのメドーズに何があってこのトンネルの中でヘロインの過剰摂取で死体となって発見されることになったのか。彼の部屋は明らかに家探しされた痕跡があり、折れていた手の骨は死後に与えられたもので、彼の胸にはスタンガンによる火傷の跡があった。メドーズは拷問された上で過失致死を装って遺棄されていたのだ。

ボッシュはメドーズの部屋を丹念に調べて念入りに隠されていた質札を発見する。質屋を訪ねるとそこは数日前に押し込み強盗に襲われており質草となっていたブレスレットは盗まれていた。質屋に残っていたブレスレットの写真をもとに盗難事件を検索してでてきたのはボッシュが停職中に起こっていた事件だった。

ウェストランド・ナショナル銀行の地下貸金庫は何物かによって地下下水道から掘り進んだトンネルから侵入され週末の間を使ってこじ開けられて大量の金品・証券・貴重品が盗まれていた。犯人は不明逃走中。盗まれた物で出てきたものは今までひとつもなく、唯一の品物が今回のこのブレスレットだったのだ。

ドールメーカー事件は娼婦の連続絞殺事件で死体に化粧を施していることからドールメーカーと呼ばれるようになったものだった。被害者が10人を超えようとしているのに犯人の姿は一向に捜査線上に浮上してこなかった。ある日ボッシュが遅番をしているところに、ドールメーカーの犯人と思しき人物から逃げ出してきた女性からの通報が入ってきた。独り暮らしの男なのに洗面所に女性用の化粧品がしまわれていたというのだ。 午前三時。女性が逃げ出したことから逃走の恐れがあるこの被疑者の家に悩んだ挙句に踏み込むボッシュ。制止を無視して枕の下に手を伸ばした男を射殺したのだった。

男はドールメーカー事件の犯人だったが、枕の下にあったのはカツラだった。この行為が内務監査課に咎められボッシュは停職左遷されたのだ。内務監査課のトップであったアービィン・アービィングはボッシュにまたしても疑いの目を向けていた。かつての戦友が絡んだ銀行強奪事件にボッシュが関係しているのではないかという訳だ。

ちょっと書きすぎたかも・・・・ネタバレしないことを主義とする本サイトとしてはこれ以上書いてしまうのは憚られる。

犬猿の仲となるアービィングをはじめ、FBIの捜査官として登場するエレノア・ウィッシュなど多彩なキャラクターに囲まれて過去と現在を行き来しつつ進む本編は近年のスピード感とは違う作風だが、どこも古びたところはなく、ぐいぐいと物語が進んでいく。傑作である。

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ジカ熱: ブラジル北東部の女性と医師の物語
(Zika. Do Sertão Nordestino à Ameaça Global)

デボラ ジニス (Debora Diniz)

2020/05/03:暦ではゴールデン・ウィーク大型連休の真っただ中ですが、2019年新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による感染拡大で出された非常事態宣言は更に一か月程度延長されこととなった。外出自粛や休業要請により人の動きが止まったが、感染者数・死者数は目立った減少を表さない。 これは病院や介護施設などでクラスターと呼ばれる爆発的感染が散発的に発生しているからだ。

非常事態宣言の一か月延長はどの程度効果を生むのか、停滞した経済や休学が続く教育の問題などの影響が累積的に積み重なっていく問題とのトレードオフの関係が議論を呼んでいる。

安倍政権は危機対処のスビートがまるで追い付かず、後手に回った上に配布した布マスクが不良品だとか、社会的弱者に対する無策ぶりなどに加え、感染者数の動向を把握していない、芸能人の外出自粛のビデオにただ乗りして炎上するなど不用意な言動でその指導力に限界があることを露呈し続けている。

森友問題をはじめとする数々の政治的スキャンダルをもみ消しして政権に噛り付いてきた経緯から、安倍は最早辞任するタイミングすら見失い、ある意味漂流しているというのが正しいのかもしれない。

しかし揺れているのは日本だけではない。アメリカもWHOも今回の事態においては様々な立場、社会的地位、職業・業界から批判され攻撃され続けている。何より感染拡大、死者数が我々の予想を超えたスピードで増大したことが最大の原因なのだが、これに皆が満足する形で政策実行することの困難さと、錯綜する情報のなかで様々な意見が飛び交う事態で、市井の我々一般人は何が正しい情報なのかを見極めることが難しくなっているという実態があると思う。

そんなかなで何かの参考になればよいと考えて手にしたのがこちら「ジカ熱」という本でした。

ジカ熱はネッタイシマカにより媒介されるウイルスで妊婦がこれに感染すると胎児へ母子感染が起こり、先天性ジカウイルス感染症を引き起こす。子供たちのなかには小頭症を伴って生まれてくるものがおり、小頭症は治癒不能だという。また感染者との性行為や輸血、尿や唾液、母乳による感染の可能性もあるという。

節足動物媒介ウィルス(arthropod-borne virus)という用語は、1942年に、昆虫やクモのような節足動物によって伝染するウィルスを示すために導入された。1963年には略語である「アルボウィルス」が採用された。アメリカ疾病予防管理センターには、世界中に存在する500以上のアルボウィルスが記録されていてる。固有のアルボウィルスがいない大陸は、南極のみである。アルボウィルスは、気候や環境が適している熱帯地方に広く蔓延している。

ジカウィルスは、デング熱や黄熱病、セントルイス脳炎、西ナイル熱など50以上の種を有するフラビウィルス属のアルボウィルスである。アマゾンの熱帯雨林が世界有数のアルボウィルスの棲み処だというのは、意外なことではないだろう。ブラジル国内では200種類以上のアルボウィルスが確認されており、そのほとんどがアマゾンで発見されたものである。そのなかで30程のウィルスのみが、人間を病気にすることが確認されている。 ジカという名前は、最初に検出されたウガンダの森に由来しており、パントゥー語群のガンダ語で「成長しすぎた」という意味である。ジカは、1947年に黄熱病の研究の一環としてアカゲザルから分離された。1952年にウガンダで人間から分離され、以来76以上の国と地域で発見された。このなかの59のケースでは、最初の流行が2015年以降に起きている。正確な数字を好む人のために医学文献から引用すると、ジカの最初の検出から2007年のヤップ諸島での流行までの間に人間が罹患したケースは、13件から14件のみだと報告されている。ヤップ以後はすべてが変化し、2013年には仏領ポリネシア、2015年にはブラジルでの大流行が起きた。

2007年、ジカはガボン共和国(媒介はヒトスジシマカ)とヤップ島の両方で流行を引き起こした。概算では、7391人の島民のうち5000人が感染したとされている。当初はデング熱だと思われていたが、過去二度にわたるデング熱の大流行によって現地の医師は診断に慣れていたので、この時にみられた症状がデング熱と完全には一致しないことに気づくことができた。2007年6月に現地の医師がアメリカ疾病予防管理センターへ急性期の患者71の血液サンプルを送り、10のサンプルからジカが検出された。2013年の仏領ポリネシアにおける大流行時には、人口の11.5%にあたる2万8000人が感染したとされる。仏領ポリネシアでは前代未聞のことが起きた。ジカの患者にギラン・バレー症候群(GBS)も発現していると報告されたのだ。


WHOではこのジカウィルスによる感染リスクを前に、2014年『国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)』を宣言した。ジカウィルスが最初に検知されてらかは相当の歳月が流れているがヒトヒト感染が確実だと分かった時点で宣言が出されてたということのようだ。

新型コロナウィルスの場合も武漢でウィルスが検知され感染者の増加がニュースになったのは、2020年1月初旬だったと記憶している。その当時、ヒトヒト感染はないとされていた。ところが、2020年1月31日、中国国外でヒトからヒトへの感染が確認され、その他の国々で感染者数が増加したことを受けて、WHOは流行事態に関して「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態 (PHEIC)」を宣言された。しかしこの時点で感染の輪は武漢市から中国国内、さらには海外にまで広がっていたのだった。

本書ではジカウィルスがまだ明確に特定されてないなかで子供が小頭症で長くは生きられない状態で生まれてきた母たちの悲痛な悲しみを中核にした小さな本であり、またその病気がブラジルのなかでもとても貧しい地域にひっそりと蔓延していったことで同じ症状に苦しむ人々が疎外され、見逃されてきたことへの問題提起であって、無理に現行の新型コロナウィルスの問題と重ねることは本書の本質を見失ってしまうだろう。

本来であれば、そうした問題にもっと近づき掘り下げていくべきところだとは思うのだが、今僕らがいる情勢のなかでその問題に意識を集中させることは非常に難しいものがあることもまた事実だ。

4月中、非常事態宣言下でも僕は結局毎日会社に通勤して仕事をしていました。恐らくGW明けてもしばらくは会社に行くだろうと思う。感染拡大から一度もマスクを購入できてないけれども元々あったストックと実家から送ってもらったものでどうにか間に合っている。トイレットペーパーが品切れになるような時期もあったけど、一時で今はスーパーも落ち着いた状態になっている。カミさんも子供たちも仕事は普通にしてて、経済的にも殆ど影響がない。しかし、その一方で感染し病床にあるひと、不幸にも亡くなられた方、家族や友人を奪われた人、仕事がない、収入が減った、なくなった、事業資金が足らない、回らないといった危機的状況に陥っている会社や家庭など夥しい不幸を生んでいるのもまた事実だ。

東日本大震災の時もそうだったけれども、未曾有の災害であってもその被害や痛みの大きさはいる場所や環境によって大きく左右されるものなのだろう。そして大きな被害を受けている人たちはこうした時に目に映りにくい。目立たないところでひっそりと苦しんでいる場合が多いように思う。

今僕らにできることは何なのかきちんと起こっている事態に向き合い、しっかりと考えて行動していきたいですね。

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レイトショー(LATESHOW)
マイクル・コナリー(Michael Conneliy)

2020/04/18:2020年度に入りました。僕はこの春6年間在籍していた部門を離れ新しい仕事に移りました。関係会社への出向です。総務から経理から営業まで全部自分たちでやってるような小さな会社で専門部としてオペレーション中心に人を回す仕事から大きく立ち位置も変わり戸惑うばかりであります。

折しも新型コロナウィルスの感染拡大にともない政府は非常事態宣言が出され、外出自粛を強く求められている日々ですが、そんなこんなで僕は通勤電車がみるみる人影もまばら、会社も空席が目立つなか業務の引継ぎのために会社に出て仕事をする日々であります。

異動の知らせにやや茫漠とした状態で過ごした年度末・年度初めに心の拠り所となってくれたものの一つが、このマイクル・コナリーの新作、「レイトショー」でした。正に様々な思い・悩みを忘れて没頭できる最高の一冊。読了した瞬間に頭に浮かんだのは「親父に読ませたかった」という一言でした。

生前の親父と僕は海外ミステリーの分野では趣味が一致しかなりたくさんの本を一緒に読んだ。お勧めの本を渡すと喜んで読んでいた。しかも、かなりの読書眼を持っていて、「イマイチだった」とか「いやこれは面白い」などとなるほどな反応をしてくれたのだった。

中でも僕らが大好きだったのはマイクル・コナリーの本だった。「ナイトホークス」、「ブラックアイス」を読んで「これは面白い」、となり新作が出る度には読み、読み終わった本を仙台にいる親父に送っていたものでした。 いつしか視力もおち、どうやらページをめくってはいるけれども、仙台と浦安に離れて暮らし、たまに訪ねる僕たちが全然字を読めていないということに気づいたのは、本当に読めなくなってからだいぶたっていたように思う。いつしか新しい海外ミステリーの本送るのも辞めてしまった。部屋が本であふれかえってしまったからだ。

我が家では送ることのなくなった本がまたあふれ出し、最終的には一念発起した断捨離によって本棚三本分以上あった本たちはブックオフへ旅経っていった次第であります。 そして今、新しい読み友になってくれたのはまたもやカミさん。ふと積んであったコナリーの本を読んで「面白いじゃん」となり、猛烈な勢いで追走してきた(笑)。やはりちゃんと読むなら最初からということで「ナイトホークス」をアマゾンで探したらまさかの絶版・・・・。

最早古本屋さんでしか手に入らない。シリーズがまだ続ているのにそんなことがあり得るのか、驚きました。結局程度のよさげな本を買いましたが、カミさんの勢いに合わせて全巻揃う日が来たりするかもしれません。僕は再読するという楽しみがまた一つ増えた。積まれた「ナイトホークス」をチラ見しながら記事を書ている次第です。

ちょっと前置きが長くなってしまいましたが、本題「レイトショー」。コナリー第30作目という記念すべき一冊となる訳ですが、ここにきてコナリーは初手から読者を裏切る形で新しいキャラクターを登場させてきたのであります。レネイ・バラードはロス市警ハリウッド分署深夜担当女性刑事だ。

深夜担当は「レイトショー」の通称で呼ばれていた。彼らは深夜に起こる事件の初動報告書の作成等刑事が必要とされる現場へ急行しあらゆる手続きを踏むが、事件は翌朝しかるべ捜査担当班に引き継がれていく。つまり夜間の活動だけを中継ぎしているのである。レネイも以前は昼間の捜査班に所属していたが、何等か内部の問題から深夜担当へ飛ばされたようだ。相棒はジョン・ジェキンズ、病床にある妻の介護のために深夜勤務を買ってで、中継ぎの仕事という立場を甘んじて受け入れてしまっていた。

とある夜に二人が最初に呼び出されたのは独り暮らしの老女からの通報だった。財布からクレジットカードがなくなり、身に覚えのない買い物の請求が回ってきたことに気づいたというのだった。初動を終えるや次に呼び出されたのは道路に瀕し野の状態で放置された娼婦の現場。おぞましい暴力に晒され死んだか、死ぬだろうという状態で道路に投げ捨てられていたのだった。病院へ搬送される途中に半覚醒状態となり発した言葉は一言「逆さまの家」だった。病院に急行被害者の様子を伺う二人に更に指令が飛ぶ。

サンセット通りにあるナイトクラブ「ダンサーズ」で銃撃事件が発生4名の死者が出たというのだ。5人目の被害者が今まさに二人がいる病院へと緊急搬送されており、レネイはこの被害者に付き添い、手に入れられる情報をかき集めろ、ジェキンズには店の客たちから証言がとれるように一か所に集めてとどめる支援をしろという命令だった。

報告書も報告書のためのメモも取る暇もなく慌ただしく事件から事件へと走る。これがレイトショーの日々だった。 レネイはどうしても一つの事件を追う刑事の仕事がしたいのだが、ジェキンズがそれを認めず、時として確執がぶつかりあうのだった。 そして彼女はジェキンズがいない時間を利用してこれらの事件を単独で追い始めるのであった。

ボッシュ―サーガの時間軸のなかに入っている。明らかにコナリーはこのキャラクターたちを何等かの形でボッシュやミッキー・ハラ―と絡んでいくのであろうレネイ・バラードはもう全力推しできるキャラクターとなっている。主人公どころか登場人物がすべて新キャラで、先の読めなさは群を抜いてスリリングだ。またしてもどうやったらこんな展開が思いつくのかと地団駄を踏む程の怒涛の物語になっておりました。

まだまだ先を目指すコナリーの新作がますます待ち遠しくなる痛快無比の一冊であります。外出自粛が続く鬱憤を晴らすためにも正にうってつけの本ですよ。

2020年度もこの歳になってまだまだ新しい挑戦という日々ですが、楽しい充実した日々になるよう家族ともども頑張っていきたいと思っております。

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