This Contents

藻類 生命進化と地球環境を支えてきた奇妙な生き物
(Slime: How Algae Created Us,
Plague Us, and Just Might Save Us)

ルース・カッシンガー (Ruth Kassinger)

2022/07/02:関東地方は観測史上最速の6月下旬に梅雨明けを迎えました。僕は雨にあたり足場もあまりよくない通勤経路になったこともあり長靴を新調したのにろくに雨らしい雨に遭わないままでした。今週はあちらこちらで気温が35度とか40度になったと報道されています。これが気象変動、温暖化でなくてなんだというのか。政府はロシアの暴挙に呼応して軍備に5兆円を使うと鼻息を荒くしていますが、足元では電力が足らない、新電力の価格が高騰しているという問題が浮上しており、エネルギー資源を海外に頼り切った状態になっている日本はエネルギー危機に対して脆弱だ。世界的に石油資源が枯渇するとか、二酸化炭素の排出量制限が厳しくなるなどの事態になったら日本はあっという間に干上がるだろう。

だからといって原子力発電所を稼働させるのは大きなリスクがあるというか、ブラックスワンに対応できないことが明らかな以上、原発という選択肢を選ぶのは自殺行為だと思う。となれば再生可能エネルギーに大きく舵を切ってエネルギーと温暖化の問題解決を図るために資金を投入すべきと思うのだが、自民党や彼らの肩を持つ連中はそう考えていないらしい。

ここまで意見が合わず、選挙でも彼らに軍配があがるのであればあきらめて僕らが国を捨てるのが正しいのかもしれない。なんてことを静かに怒りながら書いている週末であります。長くなりました。

「藻類」藻類の本はけっこういろいろ読んできていますが、なかなか実態が掴めた気がしておりません。まとめようと思いましたがとても荷が重くてウィキビディアの手を借ります。

藻類(そうるい、英語: algae)とは、酸素発生型光合成を行う生物のうち、主に地上に生息するコケ植物、シダ植物、種子植物を除いたものの総称である。すなわち、真正細菌であるシアノバクテリア(藍藻)から、真核生物で単細胞生物であるもの(珪藻、黄緑藻、渦鞭毛藻など)及び多細胞生物である海藻類(紅藻、褐藻、緑藻)など、進化的に全く異なるグループを含む。酸素非発生型光合成を行う硫黄細菌などの光合成細菌は藻類に含まれない。


どうだやっぱりややこしいだろう。寄せ集めである上に除外されているものの対象群が大きすぎて結局何が残ったのかがわからなくなる。昔読んだ本でも似たようなことになったなと思ったらそれが「藻類30億年の自然史」で著者は藻類学者の井上勲氏で本書の訳者がそのご本人でありました。

陸上植物は実際には洗練された藻類である。陸上植物は緑藻植物が進化したもので、系統的にはシャジク藻類とともにストレプト植物門に含まれる


現在、藻類の進化は次のように考えられている(巻頭の図と表を参照)。藻類の中で、灰色植物、紅色植物と緑色植物の三者はシアノバクテリアと共生(一次共生という)して葉緑体を獲得した最初の藻類の子孫と考えられており、一次植物と呼ばれている。その後一次植物の紅藻と緑藻がそれぞれ独立に従属栄養性の真核生物と共生して、共生体の核やミトコンドリアなどの細胞小器官が消失し、葉緑体だけが残ることで、多様な藻類が進化した。この共生を二次共生と呼び、その結果誕生した新たな藻類のグループを二次植物と呼ぶ。緑藻を起源とする葉緑体を持つ二次植物にユーグレナ植物とクロララクニオン植物の二つのグループがある。褐藻類や珪藻を含む不等毛植物やクリプト植物、ハプト植物、渦鞭毛植物などの藻類は、紅藻を起源とする葉緑体を持つ二次植物と考えられている。クロララクニオン植物とクリ プト植物にはそれぞれ共生した緑葉と紅葉の核の痕跡が残っている。


どうりで、冒頭本書の著者の藻類に対する説明に割り込んで図表を差し込んできたり、著者の説明を脚注で否定したりしているのは何者かと思いましたよ。井上さんの藻類愛はただ者ではありませんね。

しかしまた本書はこのつかみどころのない藻類の分類や生態、発達史を概観するものではありませんでした。多彩な藻類たちが地球環境、僕ら人類に及ぼしてきた影響について。そしてまた将来の可能性について広く描かれたものになっておりました。

プロローグ
第1部 藻類と生命誕生
1章 池と金魚とアゾラ
有機農法に効くアゾラ
2章 酸素を放出! シアノバクテリア
藻類がネバネバしている訳
3章 原核生物の支配は続く
微細藻類の誕生
4章 藻類、上陸への第一歩
乾燥と紫外線に強いシャジクモ藻類/陸上植物の先駆者、苔類
5章 地衣類の登場
土壌を作った地衣類
6章 地衣類観察ツアー
大気汚染の監視役
第2部 海藻を食べる人々
1章 脳の進化と海藻
進化の鍵はヨウ素とDHA/人類が辿ったケルプ・ハイウェイ
2章 日本の海苔を救ったイギリス女性藻類研究者
日本人と海苔/海苔の成長の謎を解いたドリュー博士
3章 韓国の海苔事情
国家プロジェクトで海苔生産/活気に溢れる海苔産地
4章 ウェールズ人も海苔が好き
ラバー海苔の可能性
5章 持続可能な海藻採取
味噌汁の効能/昔からの海藻採集法/天然ものへのこだわり
6章 広まる大規模海藻養殖
貝養殖から海藻養殖へ/養殖が天然ものを守る
7章 子どもたちを救うスピルリナ
拡大を続けるスピルリナビジネス
第3部 高まる藻類の可能性
1章 農家と海藻の深いつながり
注目を集めるロックウィード/海藻抽出物の力/海藻とプレバイオティクス
2章 微生物研究と藻類
需要が高まる藻類コロイド/救世主、寒天誕生
3章 イスラエルで海藻養殖
陸上海藻養殖の未来/広がる魚の陸上養殖
4章 藻類からランニング・シューズを作る
ガラス製造とケルプ/藻類プラスチックができるまで/原料を探し求めて/新たな生分解性プラスチック
5章 夢の燃料、藻類オイル
原油価格と藻類オイル開発/苦難が続く藻類オイル生産/世界初の屋外藻類農場/光合成をしない藻類の活用
6章 魚とヒトの栄養食
減少を続ける飼料用魚/天然魚を救う藻類/藻類関連企業の躍進
7章 コストの壁に阻まれる藻類エタノール
藻類エタノールを最初に思いついた男/遺伝子改変に成功/藻類エタノールの敗北
8章 藻類燃料の未来
オイル生産に最適な藻類を探せ/地球温暖化がもたらす巨額の損失/電気自動車の弱点
第4部 藻類をとりまく深刻な事態
1章 サンゴの危機
美しいサンゴ礁の風景/サンゴと褐虫藻の共生関係/海水温上昇と窒素の流入
2章 サンゴ礁を守る人々
サンゴの移植作業体験/サンゴが生き残る条件/サンゴ礁は待ってくれない
3章 有毒化する藻類
藻類ブルームの大規模発生/「死の海域」の出現
4章 藻類による浄化
芝生状藻類の活用/人工湿地の限界/浄化までの長く険しい道のり
5章 暴走を始めた藻類
大発生が止まらない
6章 気候変動を食い止められるか
鉄散布の是非
エピローグ
謝辞
料理の幅を広げる海藻料理のレシピ
参考文献
索引
訳者あとがきにかえて──地球進化と生物進化を再構築できる藻類研究の魅力

藻類は、大きな脳の進化に不可欠な別の成分も提供した。ドコサヘキサエン酸またはDHAと呼ばれる多価不飽和脂肪酸である。二種類のオメガ3オイルの一つであるDHAは、脳細胞の膜に存在する。神経細胞の接続部分に集中して存在しており、脳を形成する物質のかなりの部分を占める、いわば、脳を作るレンガと言える。DHAはまた、胎児や乳児の脳の成長と発達に重要で、甲状腺ホルモンを脳に運ぶトランスサイレチンの生産に必要とされる一〇〇を超える遺伝子の発現を引き起こす。湖畔で食事をしていた古代のヒト族は、必然的に、森林に住む先人たちより多くのDHAを消費していた。


シアノバクテリアの暴走がスノーボールアースを生み出したことは知っておりましたが、いやはやこんなことにまで藻類の影響が及んでいようとは思いもしない内容が盛りだくさんで楽しい本でした。そして何より本書には希望がある。藻類の力をかりて化石燃料の代替を作り出す。二酸化炭素を取り込んで酸素を排出することで温暖化を押し戻せるかもしれない。いやできる。きっと。急げ時間は限られている。

△▲△

シティ・オブ・ボーンズ(City of Bones)
マイクル・コナリー(Michael Conneliy)

2022/06/18:何度も書いてしまうけれどもカミさんがふとコナリーを読み始め「面白い」と言ってくれ、シリーズ初期の作品から猛然と追い始めた。折角なので僕も再読し始めたらこれがまた面白いじゃないか。次々と読み進んだ結果、ふと気づいたのはこれは一周回るなと。

細々と読んだ本のレビューを始めたのは2003年の夏でした。早々にそのサイトに記事を書いたのが「夜より暗き闇」でした。それからコナリーの本は欠かさず読んで記事を書いてきました。そこに初期の作品群を再読して記事にしていくことでいずれ全部揃うなということに思い当たったのでした。

本作、「シティ・オブ・ボーンズ」はボッシュ・シリーズ第8作目。これでシリーズ全作の記事が揃いました。こんな日が来るとは本当に思いがけないことだ。勿論こんなに面白い本を書き続けているコナリーが凄い訳だけど、地道にこうした本を読んで記事を書くという活動を続けてきた自分も地道にすごいと思う訳ですよ。自分を褒めてあげよう。

さて本作について、本作は2002年に出版され、2002年、ダガー賞、最優秀長編賞 ノミネートを皮切りに、2003年アンソニー賞、最優秀長編賞受賞。エドガー賞、最優秀長編賞ノミネート。バリー賞、最優秀長篇賞受賞。マカヴィティ賞、最優秀長編賞ノミネートと数々のミステリー文学賞から高い評価を得た。日本では2002年に早川書房から出版されたのだが、これがどうした訳かシリーズ9作目である「夜より暗き闇」よりも先だった。僕らは何故か業界の事情によりシリーズの順番と異なる順序で読まされていたのである。

海外ミステリー作品のシリーズものでは順番がばらばらだったり、飛び石になってしまっているのは比較的ざらな話なのだけど、それでも当時の自分としては非常に不満だった。最初のコナリーの記事をあらためて読むと僕はその不満をぶつけるような内容を書き散らしておりました。自分が順番を間違えて読んだりしているものもあるので、全部揃っているのをちゃんとありがたがるべきなんでしょう。

物語は同時多発テロによる動揺醒めやまぬ2002年の元旦から始まる。ボッシュは自殺した老女の現場を実地検分している。当日の自殺者は2件目。元旦は自殺者の特異点なのだという。そこに新たな通報が入ってくる。市民からのもので、散歩させていた犬が人間の骨を加えて帰ってきたというのだ。

こうした通報も年に数件あり、大抵は動物の骨だったりする。ボッシュが思わずうめき声をあげつつ、通報者の元に駆けつけると、相手は引退した医師であった。骨が人間のものであるのは間違いないという。上膊骨だという。ワンダーランドアベニューの奥まった場所で、その先の山脈にむかって広がる森のなかに放たれた犬が拾ってきたものだった。

発見現場周辺を封鎖し、警察学校の学生を借り出し捜索した結果、多数の人骨が発見される。骨は20年ほど前に死んだ少年のものであるらしいことがわかる。浅い穴に埋められていた模様だ。そして発見された頭蓋骨などには明らかに長年にわたり虐待されていた痕跡があった。この少年は誰でどんな人生を歩み、殺され埋められてしまったのか。20年前の事件を解決することは容易なことではなかった。

しかし面白い。読ませる。各方面から高い評価を得たのも納得の面白さだ。発見された少年の骨の捜査はでたしから暗礁に乗り上げたような状態になるのだが、捜査を進めていくボッシュ達の行動に呼び覚まされるように複数の事件が起こっていく。それらの出来事と20年前の事件を行きつ戻りつしつつ物語が進んでいくテンポの良さと、一枚一枚と謎のベールがはがれていく展開、そしてやはりそこには読み手の予想を裏切るどんでん返しも用意されていて飽きさせない内容になっていました。

ワンダーランド・アベニューをGooglemapで見てみると狭い道路の両側に家が立ち並んでいますが、その裏手には今でも険しい手付かずの山地が広がっているような場所でした。


「正義の弧」のレビューはこちら>>

「ダーク・アワーズ」のレビューはこちら>>

「潔白の法則」のレビューはこちら>>

「警告」のレビューはこちら>>

「ザ・ポエット」のレビューはこちら>>

「鬼火」のレビューはこちら>>

「素晴らしき世界」のレビューはこちら>>

「汚名」のレビューはこちら>>

「レイトショー」のレビューはこちら>>

「訣別」のレビューはこちら>>

「燃える部屋」のレビューはこちら>>

「罪責の神々」のレビューはこちら>>

「ブラックボックス 」のレビューはこちら>>

「転落の街のレビューはこちら>>

「証言拒否のレビューはこちら>>

「判決破棄」のレビューはこちら>>

「ナイン・ドラゴンズ」のレビューはこちら>>

「スケアクロウ」のレビューはこちら>>

「真鍮の評決」のレビューはこちら>>

「死角 オーバールック」のレビューはこちら>>

「エコー・パーク」のレビューはこちら>>

「リンカーン弁護士」のレビューはこちら>>

「天使と罪の街」のレビューはこちら

「終結者たち」のレビューはこちら>>

「暗く聖なる夜」のレビューはこちら>>

「チェイシング・リリー」のレビューはこちら>>

「シティ・オブ・ボーンズ」のレビューはこちら>>

「夜より暗き闇」のレビューはこちら

「夜より暗き闇」のレビュー(書き直し)はこちら>>

「バット・ラック・ムーン」のレビューはこちら>>

「わが心臓の痛み」のレビューはこちら>>

「エンジェルズ・フライト」のレビューはこちら>>

「トランク・ミュージック」のレビューはこちら>>

「ラスト・コヨーテ」のレビューはこちら>>

「ブラック・ハート」のレビューはこちら>>

「ブラック・アイス」のレビューはこちら>>

「ナイト・ホークス」のレビューはこちら>>

△▲△

きたきた捕物帖
宮部みゆき

2022/06/12:バタバタと慌ただしい五月を乗り切るのに必死で気が付いたら読む本の兵站に失敗していた。次に読む本を選ぶ前に読んでいた本を読み終えてしまった。年に何回かこうしたことが起きる。何度も繰り返してしまっているのはうっかりなんだけど、実はそんなに心配はしていないからだろうとも思う。こうして読む本を切らしても、カミさんに言えばなにがしかとりだしてきてくれるのだ。しかもカミさんがすでに読んでいて、これならという本を勧めてくれるわけなので心配する必要がないわけだ。

今回は宮部みゆきの「きたきた捕物帖」新しい短編もののシリーズなのだという。シリーズもの。宮部みゆきは一体全体何本同時並行して連載を抱えているのだろう。『三島屋変調百物語シリーズ』が100話に向けてずんずん進んでいるということ一つであんぐり開いた口がふさがらなくなっている私にとって、その傍らでまた別の短編シリーズものを進めていこうと考えていること自体一体何を考えているのだろうと思ってしまう。

そしてそれがまたこんな文章で始まってしまう。

深川元町の岡っ引き、文庫屋の千吉親分は、初春の戻り寒で小雪がちらつく昼下がり、馴染みの小唄の師匠のところで熱燗をやりながらふぐ鍋を食って、中毒って死んだ。


捕物帖というからには岡っ引きのこの千吉親分が主人公かと思えば、いきなりふぐにあたって「死んだ」だと?この話はどこへ行くのか、さっそく読むのをやめられなくなるやつじゃないか。 千吉親分の通り名文庫屋はその名の通り、読本などをしまっておく厚紙の箱、文庫を売りが本業であった。三歳のときに親とはぐれて一人でいるところを千吉親分に拾われた北一(きたいち)は今や16歳となり文庫の振り売りをして歩いて家業を手伝っているのだった。

親同然と思っていた千吉に突然死なれ、身寄りを失った北一。文庫屋は千吉の一の子分、万作が受け継ぐこととなったが岡っ引きについては生前千吉は誰にも手札は渡さないと言っていたという。まだ子供ともいえる北一が岡っ引きになる訳でもないみたいだな。ますます話の行先が見えなくなっていく。宮部みゆきの語り口は絶妙なのでありました。

第一話 ふぐと福笑い
第二話 双六神隠し
第三話 だんまり用心棒
第四話 冥土の花嫁


なんとも頼りげもなくおぼつかない足取りでぼくとつとした北一は親方を亡くした後も引き続き文庫の振り売りをなんとか続けられるようにはなっていくのだが、新しい環境、生活をはじめた彼の周囲で事件は起こっていく。頼りにされていた千吉亡き後深川元町の平和は保てるのか。

ゆるゆると進んでいく物語がなんとも心地よい。そして舞台袖から一人一人と登場してくる登場人物がまたどれも味わい深く、この先が楽しみになる描かれ方をしている。果たして彼らはどんな形で物語に絡んでくるのだろう。

宮部みゆきは執筆にあたり事件のオチやトリック、展開などのアイディアのネタをもとに冒頭から最後までプロットなしに書き進んでいくスタイルらしい。スティーヴン・キングは一気に書き上げた小説をしばらく寝かして、読み返し校正に入るのだと言っていたのだが、宮部みゆきの場合、書き終わった時点で作品は完成するもののようだ。自分自身の意識とは別の次元で物語が生まれていて、それを文章に落としなおしているような感じになっているのではないだろうか。そして物語を一番楽しんでいるのはご本人なのかもしれません。ほんとただ者ではありませんね。


「黒武御神火御殿」のレビューはこちら>>

「きたきた捕物帖」のレビューはこちら>>

「あやかし草紙」のレビューはこちら>>

「三鬼」のレビューはこちら>>

「あんじゅう」のレビューはこちら>>

「かまいたち」のレビューはこちら>>

「ソロモンの偽証」のレビューはこちら>>

「ばんば憑き」のレビューはこちら>>

「ぼんくら」のレビューはこちら>>

「あかんべえ」のレビューはこちら>>

「模倣犯」のレビューはこちら>>

「初ものがたり」のレビューはこちら>>

「平成お徒歩日記」のレビューはこちら>>

「地下街の雨」のレビューはこちら>>

「火車」のレビューはこちら>>

「弧宿の人」のレビューはこちら>>

「魔術はささやく」のレビューはこちら>>

「小暮写眞館」のレビューはこちら>>

「チヨ子」のレビューはこちら>>

「堪忍箱」のレビューはこちら>>




△▲△

海がやってくる 
気候変動によってアメリカ沿岸部では何が起きているのか (Rising: Dispatches from the New American Shore)

エリザベス・ラッシュ (Elizabeth Rush)

2022/06/04:本書を読んで勢いよく降ってきたのは「わんぱくフリッパー」で観ていた景色だった。「わんぱくフリッパー」はテレビドラマでマイアミの公園警察官の父とその家族とイルカのフリッパーとの交流を描いたものだった。家族の家は海というか沼の上にあり玄関先から桟橋が伸びているような感じだった。子供たちは玄関からでると目の前の沼に飛び込んで泳いだりしていた。公園警察官の父は後部に扇風機のでかいものがついていて底が浅くて平らなボートで湿地帯をパトロールしたりしていた。マイアミの公園は広大な湿地帯だったのだった。

改めてグーグルマップてみてみると確かに海と湿原の境目が曖昧で複雑に入り組んだ場所が広大にある。フロリダだけではない。本書で取り上げられるのはルイジアナ州のジーン・チャールズ島やカルフォルニア州サンノゼのアルヴィーソなどであり、これらは日本ではあまり見たことがない湿地帯だ。

しかしこうした地域は近年、低所得者層やマイノリティな人たちに向けて宅地開発されてきた経緯があるらしい。フリッパーに出てきた家族のように水の上ではないが高床式の家に住んでいる人たちも少なくないらしい。

そしてこうした地域は今海に沈みつつあるのだという。

フィジーは地球温暖化の進展により自分たちの島が海に沈む可能性を実感し、他所の島に移住する計画を国家単位で推進しようとしているという話をきいた。

しかし本書に登場するアメリカ各地のこうした場所では、すでに強制的に移住を強いられていたり、地域のコミュニティーが崩壊しはじめていたりする場所があるのだ。

著者はこうした事実と実態を捉えられる場所を探し出し現地に暮らす人々と親密な関係を築きインタビューを重ねることで、 単に気象変動や変わりゆく地形に留まらず、失われつつあるそこに暮らす人々の人間関係や人生。そしてまたこうした人々を救済することがない行政などの問題点を暴き出していく。

ピューリッツァー賞(一般ノンフィクション部門)最終候補(2018年)、全米アウトドア・ブック賞受賞(2018年)、各紙誌絶賛!という謳い文句に嘘はない、本書が光をあてている問題的は非常に憂慮すべきものであることは間違いない。

しかし、残念ながらいささか回りくどい。こじゃれた都会的な人たちに向けた文章なのかもしれないけれどもセンチメンタルな飾りのような描写が邪魔くさくてその本質を埋没させているように感じました。もっと直球ストレートに問題提起に終始した方が読者の心には刺さりやすかったのではないかとも思います。

日本でも発達した積乱雲が次々と流れ込む「線状降水帯」などによる「集中豪雨」の発生頻度は、この45年間で2倍余りに増えているのだそうです。特に梅雨にあたる6月や7月では4倍なのだという。そして昨日は各地ですさまじい雹が降り、高校の窓ガラスや駅の屋根などの大きな被害がでた。江戸川区は水害ハザードマップのなかで巨大台風や大雨のときに「ここにいてはダメです」とはっきり明言している。

2022年5月に発表された気候変動に関する政府間パネルの第6次評価報告書には「人間の影響は、少なくとも過去2000年間に前例のない速度で、気候を温暖化させてきた」とし、以下のような危機的状況にあることを訴えるものになっていました。

世界平均海面水位は、1900 年以降、少なくとも過去 3 千年間のどの百年よりも急速に上昇している(確信度が高い)。世界全体の海洋は、最終氷期の終末期(約 1 万 1 千年前頃)より、過去百年間の方が急速に昇温している(確信度が中程度)。外洋表層の pH は、過去 5 千万年にわたり長期的に上昇し続けている(確信度が高い)。しかしながら、最近数十年間のような低い外洋表層の pH は、直近の 2 百万年でも異例の現象である(確信度が中程度)。

世界平均気温は、本報告書で考慮した全ての排出シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続ける。向こう数十年の間に CO2 及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21 世紀中に、1.5℃及び 2℃の地球温暖化を超える。地球温暖化が更に進行するにつれ、極端現象の変化は拡大し続ける。例えば、地球温暖化が 0.5℃進行するごとに、熱波を含む極端な高温(可能性が非常に高い)、大雨(確信度が高い)、一部地域における農業及び生態学的干ばつ30(確信度が高い)の強度と頻度に、明瞭に識別できる増加を引き起こす。地球温暖化が0.5℃進行するごとに、いくつかの地域で気象干ばつの強度と頻度に識別可能な変化が見られ、減少よりも 増加を示す地域が増えていく(確信度が中程度)。水文干ばつの頻度と強度の増加は、一部地域では地球温暖化の進行に伴い大きくなる(確信度が中程度)。一部の極端現象の発生は、地球温暖化の進行に伴い、例え 1.5℃の地球温暖化であっても、観測史上例のない水準で増加する。予測される頻度の変化率は、まれな現象ほど大きくなる(確信度が高い)。

世界平均海面水位が 21 世紀の間、上昇し続けることは、ほぼ確実である。1995~2014 年の平均と比べて、世界平均海面水位の可能性の高い上昇量は、2100 年までに、GHG 排出が非常に少ないシナリオ(SSP1-1.9)の下で 0.28~0.55 m、GHG 排出が少ないシナリオ(SSP1-2.6)の下で 0.32~0.62 m、GHG 排出が中程度のシナリオ(SSP2-4.5)の下で 0.44~0.76 m、GHG 排出が非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)の下で 0.63~1.01m であり、2150 年までには、非常に少ないシナリオ(SSP1-1.9)の下で 0.37~0.86 m、少ないシナリオ (SSP1-2.6)の下で 0.46~0.99 m、中程度のシナリオ(SSP2-4.5)の下で 0.66~1.33 m、非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)の下で 0.98~1.88 m である(確信度が中程度)35。これらの可能性が高い範囲を超えて世界平均海面水位が上昇し、GHG 排出が非常に多いシナリオ(SSP5-8.5)の下では 2100 年までに 2 m、2150 年までに 5 m に迫る(確信度が低い)ことも、氷床プロセスの不確実性の大きさのため排除できない。

どのシナリオに沿って実現するかは未確定だが、起こることはまず確実だと思われる。そうなったときに「ここにいてはダメ」な場所は果たしてどのぐらい広い範囲になるのだろうか。ロシアと戦争したりしてる場合ではないと思うぞ。


△▲△

二重スリット実験 量子世界の実在に、どこまで迫れるか (Through Two Doors at Once: The Elegant Experiment that Captures the Enigma of Our Quantum Reality)
アニル・アナンサスワーミー (Anil Ananthaswamy)

2022/05/22:あまり深く考えることもなく読み始めてしまったのだけれど、この本とっても難解でありました。本質的な部分は多分ほとんど理解できなかったのではないかと思います。
本書のタイトルにある「二重スリット実験」は光が干渉縞を表すことから波の性質を表す実験であったことは知っていた。量子に関する本で度々登場する実験だ。僕はてっきりこの実験にまつわる話が中核なのかと思って読んでしまったというのも文脈を見失った要因になっているようです。

そもそもこの二重スリット実験の元となった実験は1803年に遡るものであった。当時ニュートンは光が粒子であると主張しておりそれが主流であったが、トマス・ヤングという科学者がロンドン王立協会において太陽光線で縞干渉を作り出す実験し、光が波であるということを示しそれまでの定説を覆したというものだった。

本書は、その後アインシュタインの相対論もハイゼンベルグの不確定性原理、コペンハーゲン解釈などの登場に伴い量子の非局所性や非実在性などといった量子物理学が明らかにしてきた量子の直感を裏切る、不気味なふるまいについての話と、古典的な「二重スリット実験」を進化させることでこの量子の働きに関する実験に利用してきた開発の物語を平行して語るものになっていたのでした。

本書の展開はそのため冒頭の1803年の実験から最新の知見に至るまで駆け足で進んでいく。

目次
第1章 二つ穴の実験について―リチャード・ファインマン、核心部の謎を説明する
第2章 「存在する」とはどういうことか?―実在へ向かう道《コペンハーゲン発・ブリュッセル行き》
第3章 実在と認識のあいだ―二重スリットを通す、光子一つひとつ
第4章 神聖なる記述より―不気味な遠隔作用についての啓示
第5章 消すべきか、消さざるべきか―山頂での実験が導く
第6章 ボーミアン・ラプソディー―明確なかたちで進化していく明確な実在論
第7章 重力は量子の猫を殺すか?―時空を系に追加した場合
第8章 醜い傷を癒す―多世界解釈という薬


古典的な実験は自然光を使ったものだったが光粒子を一個だけ使った実験をしたらどうなるのか。思考実験としては比較的早い段階からそのようなことが考えられていたようだがその実現はハードルの高いものだった。実際に光粒子を一個だけ使って測定をする実験が実現したのは1989年日立製作所のチームが作った装置だったそうだ。

一度に一個の光子を二重スリットに通した結果ははやり縞干渉を示すものとなった。光粒子は前後の粒子と相互作用することはなく、自分自身と相互作用し干渉を起こしていたのだ。

この後実験装置はビームスプリッターや偏光機などを組み合わせて更に複雑に進化していく。

そうして二重スリット実験は量子の非局在性、離れあった二つの粒子が光の速さを超えて相互作用する様子や、一見、因果律を覆す、時間的に後になされた操作が先に起こった結果に影響しているような不気味なふるまいを明らかにしていく。正直、残念ながらこのあたりのところは実験の設定もその結果も非常に込み入っていて僕は飲み込んで咀嚼することが難しい内容になっていました。

こうした従来の概念を覆す量子のふるまいは、果たして実験精度に問題があるのか、何か見落としている設定上の問題があるのか。 それとも量子のふるまいに我々の知らない隠れた変数が存在するのか。あるいは量子の非局所性や非実在性というものが、そもそも本来の量子の特性なのか。

また、二重スリット実験は単一の光子から、どんどんと大きな分子にまで実験対象を拡大してきていました。なかにはバックミンスター・フラーが発案した炭素分子、バッキーボールのようなものを対象に実験が重ねられており、縞干渉を表す結果が得られているという。量子のふるまいを示す微細な世界というのはどこまでの大きさで現れるのか。確率論に基づく重ね合わせの概念はやがて多世界解釈を生み出していく。
二重スリット実験の推移を俯瞰するに実験する前よりも後の方がむしろわからないことが増えているように思える。 物理学の世界は一歩前進するとその先にさらなる謎がさらに増えるようになっているようだ。めまいを覚えるような思いであります。


△▲△

暴政
(On Tyranny: Twenty Lessons from the Twentieth Century)

ティモシー スナイダー (Timothy Snyder)

2022/05/06:ティモシー・スナイダーの本二冊目。こちらは2017年に出版されたものになります。折しもドナルド・トランプが大統領に就任するという事態を受けて著者がフェイスブックに「今日の状況にふさわしい20世紀の歴史に学ぶ20のレッスン」として箇条書きしたものを記載した。

本書はこの箇条書きされたものをベースに慌ただしく出版されたものになるようだ。出版社の慶應義塾大学出版のサイトには20の項目と補足がありましたので転載いたします。

1.忖度による服従はするな
権威主義の持つ権力のほとんどは、労せずして与えられるものです。現在のような時世においては、個人は予あらかじめ、より抑圧的になるだろう政府が何を望むようになるかを忖度そんたくし、頼まれもしないのに身を献げるものです。このようにして適応しようとする市民は、権力に対して、権力にどんなことが可能かを教えてしまうのです。

2.組織や制度を守れ
私たちが品位を保つ助けとなっているのは組織や制度なのです。また、組織や制度の方でも私たちの助けを必要としています。組織や制度のために活動することでその組織や制度をあなた方のものとするのでないかぎり、「自分の組織」とか「自分の制度」などとみだりに口にしてはいけません。組織や制度は自分の身を自分では守れません。あなた方と組織や制度とが最初から守り合うのでなければ、お互いに駄目になってゆくのです。だから、気にかける組織や制度を一つ選んでください。法廷、新聞、法律、労働組合――何でもよいからそれの味方になることです。

3.一党独裁国家に気をつけよ
国家を改造し、ライバルを抑圧した政党も、出発時点から絶大な権力を有していたわけではありません。そうした政党は、敵対者たちの政治活動を不可能にするために、歴史的瞬間とやらを巧みに利用したのです。よって、複数政党制を支持し、民主的な選挙のルールを守ることです。投票ができているあいだは、地方選挙でも国政選挙でも投票することです。公職に立候補することも考えて欲しいですね。

4.シンボルに責任を持て
こんにちシンボルに過ぎないものが、明日には、現実をもたらしうるのです。スワスチカ(ハーケンクロイツとも鉤十字とも呼ばれますね)をはじめヘイトの徴しるしに気をつけましょう。視線をそらしてはいけないし、それらに慣れてもいけません。あなた自身でそれらを片づけ、他の者が見習うよう手本となってください。

5.職業倫理を忘れるな
政治指導者が良くない例しか示さないときには、専門職が正しい業務を果たすことがより重要になってきます。法曹家ぬきでは法の支配に則った国家を転覆させることはそうそうできませんし、判事抜きで見せしめ裁判ショウトライアルを開廷するわけにはゆかないのですから。権威主義的支配者オーソリタリアンは従順な公務員を必要としますし、強制収容所長たちは安価な労働力に関心を持つ実業家を探し求めるものです。

6.準軍事組織には警戒せよ
これまでずっと体制に反対だと主張してきた銃を持った人間たちが、制服を着用し、松明たいまつや指導者の写真を掲げて行進し始めると、終わりは近いのです。指導者を崇める準軍事組織と警察と軍隊がないまぜになると、すでに終わりがきています。

7.武器を携行するに際しては思慮深くあれ
仮にあなたが公務にあって武器を携行しなければならないとしたら、神のご加護がありますように! けれど次のことは弁わきまえておいてください。過去の悪イーブルには、とある日に不法な行為に手を染めてしまった警察官や軍人が関わっていたということを。「ノー」と言える心構えをしていてください。

8.自分の意志を貫け
誰かが自分の意志を貫く必要があります。誰かの後についてゆくのは簡単なことです。他の人間と違ったことを行ったり口にしたりすると、奇妙な感じを覚えるかもしれません。けれど、その居心地の悪さがなければ、自由もなくなるのです。ローザ・パークス夫人のことを思い出してください。あなた方が良い手本を示せば、すぐに現状ステータス クオの呪いは解け、他の人たちが後をついてくるようになります。

9.自分の言葉を大切にしよう
言い回しをほかのみんなと同じようにするのはやめましょう。誰もが言っていることだと思うことを伝えるためだけだとしても、自分なりの語り口を考えだすことです。努めてインターネットから離れてください。読書をすることです。

10.真実があるのを信ぜよ
真実である事実を放棄するのは自由を放棄することです。仮に何一つ真実たりうるものがなかったなら、誰一人権力を批判できないことになってしまいます。批判しようにも根拠がなくなるからです。仮に何一つ真実たりうるものがなかったなら、すべては見せ物になってしまいます。誰よりもふんだんに金を使った者が、誰よりもよく人々の目を眩ますことができるのですから。

11.自分で調べよ
自分でものごとを解き明かしてください。長い記事や論説を読むのにもっと時間を割いてください。紙媒体のメディアを定期購読することで、調査するジャーナリズムを財政的に支えてください。インターネットに出てくることのいくらかは、あなた方に害をなすためにそこにあるのだということを理解することです。(中には国外からのものもある)プロパガンダ活動を検証するサイトについて、知っておくことです。他の人間とやりとりする内容については、責任を持ちましょう。

12.アイコンタクトとちょっとした会話を怠るな
礼儀というだけではありません。市民であり社会の責任ある成員であることの重要な部分なのです。周囲と接触を保ち、社会的なバリアを崩し、誰を信頼し誰を信頼してはならないかを理解するための方法でもあります。私たちが告発や公然たる非難が当たり前になる時代に入ってゆくところだとしたら、あなた方は、日常生活で心に映る光景がどのようになるかを知りたくなることでしょう。

13.「リアル」な世界で政治を実践しよう
権力はあなた方が椅子にだらしなく座り、感情を画面に向けて発散することを望んでいます。外へ出ましょう。身体を見知らぬ人たちのいる見知らぬ場所に置くのです。新しい友人をつくり一緒に行進するのです。

14.きちんとした私生活を持とう
卑劣な支配者たちは、あなた方についての情報を、あなた方を好き勝手にするために用いるものです。定期的に悪意のあるマリシャスソフトウェア、略して「マルウェア」をあなた方のコンピューターから取り除きましょう。Eメールは、空中に文字を描くようなものだということを忘れてはいけません。インターネットを違った形で使うこと、あるいは単純にもっと使用頻度を少なくすることを考えてみることです。じかに個人的な交流を持つことです。同じ理由から、法的なトラブルはどんなものでも解決しておくこと。暴君は、あなた方を鉤フックに吊してがんじがらめにしておこうとしています。そんな鉤フックとは無縁でいることです。

15.大義名分には寄付せよ
政治的なものとそうでないものとを問わず、あなた自身の人生観を表している組織においては積極的であってください。慈善活動を一つか二つ選んで、自動引き落としを始めることです。そうすれば、あなた方は、シビルソサエティ(政府、企業、血縁関係以外のさまざまな団体や組織。また、そうした民間組織が公共を担う領域)を支援し、他の者が善をなす手助けをするという、自発的な選択を行ったことになるのですから。

16.他の国の仲間から学べ
国外の友人との友情を保ちましょう。また外国に新しい友人もつくりましょう。アメリカ合衆国の現在の窮状は大きな潮流の一部に過ぎません。そしてどんな国であれ自国だけで解決法を見出せはしないのです。あなた方も家族も、必ずパスポートを持っていてください。

17.危険な言葉には耳をそばだてよ
「過激主義エクストリミズム」とか「テロリズム」といった言葉が使われるのには警戒してください。「非常時エマージェンシー」とか「例外エクセプション」といった由々しい観念には敏感でいてください。愛国的な語彙の、実際には祖国への背信につながる使い方には憤ってください。

18.想定外のことが起きても平静さを保て
現代の暴政は「テロの操作テラーマネージメント」を行います。テロリストの攻撃があったときには、権威主義的支配者オーソリタリアンは権力を強固にするためにそうした出来事を利用しようとすることを忘れてはいけません。思いがけない大惨事により、「チェックアンドバランスの終焉、野党の解体、表現の自由や公正な裁判を受ける権利などの停止」といったものが要求されるとしたら、それはヒトラーの書物にもあって、策略トリックとしてははなはだ古いものです。そんなものには引っかからないこと!

19.愛国者ペイトリオットたれ
来るべき世代のために、アメリカが持つ意味について良き手本となってください。彼ら彼女らにはそうした手本が必要となりますから。

20.勇気をふりしぼれ
仮に私たちのうちの誰一人自由のために死ぬ気概がなければ、私たち全員が暴政ティラニーのもと死すべきさだめとなるのです。



トランプが大統領選に勝利した時はそれはそれはサプライズであったし、大統領に就任していた時期もめちゃくちゃなことがたくさん起きました。世も末だなんてことをつぶやいた人も大勢いたに違いない。スナイダーはトランプのような人物に権力を明け渡してしまうことや、自由を手放してしまう、紛争や戦争に突入してしまう。そうした勢力に加担し人道に反した行動をとってしまうようなことがないように、かつてのナチスドイツが行った手口を学んだ者どもがその本来の意図を隠して登場してきたときに騙されないようにするためにも学ぶべきものをまとめたものになっているのでした。

しかし、僕が今これを書いているなかで振り返るにトランプの問題は災難ではあったけれども未曽有の事態には程遠かった。そして今我々はまさに未曽有の事態のなかにいる。ロシアがウクライナの首都キーウを陥落させん勢いで突如侵攻したのだ。予兆はあった、国境付近に大規模な軍隊を集結。西側はウクライナ侵攻が近いと報道を繰り返し、ロシアは軍事訓練であるとそれを打ち消していたが、結局特段のきっかけもないままロシアは侵攻した。

一般市民がいる建物を砲撃し、一般市民を路上で殺害し、ころがる死骸の映像が報道されてもロシアはこれをフェイクだ。ウクライナ側の行ったことだと臆面もなく否定した。

ロシアはウクライナにいるネオナチと戦っている、ネオナチが繰り返すロシアへの攻撃に反撃していると説明しているが、具体的な証拠は示されず、かつてロシアの一部であったキーウを手中にしようとしているとしかみえない行動を続けている。夥しい数の難民がウクライナから西側へ逃れており、これまた夥しい数の一般市民の人々が虐殺されている。

西側諸国は一斉に経済制裁や企業の撤退などを実施し、ルーブルは下落しロシア経済はかなりのダメージを受けている模様だが、侵攻を止めることはできず戦闘は長期化の様相を見せている。

なぜこんなことがとか、まさかこんなことが起こるとはと世間は仰天した。しかし、本書にはプーチンの所業が暴かれており、今回のウクライナ侵攻はその単なる延長であったことがわかる。

1999年プーチンはエリツィンの後押しで首相に就任するやロシア高層アパート連続爆破事件が起こり、300人近い犠牲者が出た。表向き チェチェン独立派武装勢力によるテロだとされたが実際にはプーチン率いるロシア秘密国家警察の手による自作自演であったという。この事件をきっかけにロシアはチェチェンに侵攻し、プーチンは知名度を上げ大統領に就任した。

また2002年におこったモスクワ劇場占拠事件。こちらは本物のチェチェンのテロリストによるものであったがプーチンはその機会をとらえて事件後「民間テレビ局」を掌握した。2004年には、北オセアニア共和国でテロリストによるベスラン学校占拠事件が起きた後、プーチンは「選出される首長職」を廃止した。権威主義的独裁政権の座を着々と固めていたのだ。

2014年、ユーロマイダン革命によって親露派大統領が失脚する事態に対し、ロシアはクリミアに侵攻、半島を強引に併合した。また正規軍の兵士たちの記章を外してウクライナ国内に侵攻させるようなことまでも行っていた。

つまりプーチンは権力を掌握するためにもそれを維持するためにも危機を醸成し、その危機に乗じてきたのである。それはロシア・ウクライナに留まらず、シリア、フランス、ドイツに対しても卑劣極まりない行為を実行していた。そしてその間に国内でプーチンに反対する政治家やジャーナリストを何にも暗殺していたのだ。

また本書のあとがきによればフランスの右翼団体「国民戦線」やアメリカのトランプ陣営の幹部たちはロシアからの支援を受けている。これはプーチンが推し進めようとしている権威主義・ポピュリズム連合なのだという。彼らの狙いはあくまで一握りの自分たちの仲間内で権力と利益を独り占めすることにあるのではないだろうか。

ロシア国内ではメディアが政権に牛耳られており政府に都合の良い情報のみが伝えられている模様だ。どの程度の人々がメディアの情報を鵜呑みにしているかはわからないが、反政府的な言動は力と暴力によって封殺される恐れもあるだろう。ロシア国民の今の状況を想像するに本書に掲げられている20の項目に悉く反した選択をしてしまったとしか言いようがない。

そしてそんな状況は他人事ではない。日本でも市町村では自治体の乗っ取りのようなことが起きている。およそ自治体運営やそこに暮らす人々のことなどに関心がなく、単に利権をむさぼるために、巧妙にその意図を隠して選挙戦を戦い、ひとたび長の座につくややりたい放題し始めるのだ。

国政においても内閣人事局が創設され自民党政権は国家公務員の人事権を握り、メディアや大企業とは発注元、金を出す側の立場としてほぼ完全に丸め込んでいる。メディアと人事権を掌握するのは権威主義推進においては定石になりつつあるようだ。自由と平和を守るためにも僕らはこのスナイダーが提言する20項目、肝に銘じる必要がある。


「暴政」のレビューはこちら>>

「ブラッドランド」のレビューはこちら>>


△▲△

酵母 文明を発酵させる菌の話
(The Rise of Yeast: How the sugar fungus shaped civilisation)

ニコラス・マネー(Nicholas P. Money)

2022/05/01:ニコラス・マネーの本は二冊目です。一冊目、「ふしぎな生きものカビ・キノコ―菌学入門」は面白く読んだ記憶があった。ちょっと前かと思って確認したら2008年。14年も前のことでした。前回はカビ、キノコ、で今回は酵母が主役です。 僕はこの酵母というのは細菌なんだろうと思っていましたが間違っていました。酵母は菌界、子嚢菌門に属する真核生物で僕ら動物・植物と同じドメインの生き物なのだそうです。ドメインとは生物分類の最上位にある分類でゲノムの進化レベルでの違いにより分類しているもの。これも何通りに分けるかについていろいろな考え方があるようだが、3ドメイン説においては、「真核生物」「細菌」「古細菌」というグループになる。
真核生物は一言でいってしまうと細胞内に核がある生物で、細菌、古細菌は細胞核がない。そのことから細菌、古細菌は原核生物とも呼ばれている。

そして菌界。というか界。生物はドメイン、界、門、綱、目、科、属、種の順で細分化されており界は上から二番目にある分類になる訳なのだけどこの界をいくつにのグループに分けるのかということについて三つから八つ等様々な考え方がある。最近のものと思われる修正六界説では細菌界、原生動物界、クロミスタ界、植物界、菌界、動物界という分類になっていましたがドメインの区分との間で混乱があるようだ。

因みに生物分類には「類」はないということに今回改めて気づいて「ほーっ」となりました。哺乳類、魚類、鳥類は門とか綱なんかよりずっと身近なのにな。哺乳類は哺乳綱、鳥類は鳥綱が正しい分類表記になるらしい。そしてさらに魚類はそれに相当する魚綱という分類は廃止になっているそうです。そんな事を調べているとなかなか複雑に入り組んでいて、酵母の話にたどり着けない。 酵母は菌界、所謂「菌類」には細菌類、卵菌類、変形菌類及び真菌類をまとめて指す用語で真核生物と原核生物をひとまとめにした呼称になっており、先に書いた通り菌界は真核生物に分類される菌のことであり、この菌界には以下の門がある。


Rozella allomycis(ロゼラ類)
Batrachochytrium dendrobatidis(ツボカビ門)
Allomyces arbusculus(コウマクノウキン門)
Entomophthora muscae(ハエカビ亜門)
Coemansia reversa(キックセラ亜門)
Rhizophagus intraradices(グロムス門)
Rhizopus oryzae(ケカビ亜門)
Saccharomyces cerevisiae(子嚢菌門)
Coprinopsis cinerea(担子菌門)

でなんでこの門に「ロゼラ類」という「類」がついてるやつがいるんだよ。また脱線しちゃうじゃないか。いや、この先に進むとますます戻れなくなるのでこれは無視して、キノコは担子菌門、カビは子嚢菌門と担子菌門の菌の無性胞子であったり、一部の原生生物にもカビという名称が付けられているらしい。そして酵母は同じく子嚢菌門に属する菌であり生活環の一定期間において栄養体が単細胞性を示すものを云う、つまりは特定の菌の名称ではなく、菌の状態によって酵母と呼ばれるものがあるという意味のようだ。同様にキノコも特定の菌を指しているわけではなく、比較的大型の子実体あるいは、担子器果をキノコと呼んでいる。

わかります?僕は正直さっぱりであります。本書ではアルコールの発生が酵母の働きによるものであるらしいことが発見されたのが1860年代ごろの話だということは書かれていますが、酵母のそもそもの定義はあいまいなにぼかされているようではっきりしない。またそれ以前、遥か昔から発酵によって膨らませたパンを人類は作って食べていたようだ。

導入部分から混乱してしまいましたが、これは本書や書き手のニコラス・マネーが悪いわけではなく、生物分類が近年のゲノム解析によって大きく書き換えられていることに加えて、カビやキノコや酵母のような言葉の定義がそれらを跨いている関係で生じているからなのだろうと思う。しかし、それにしてもわかり難い。

酵母に関する本書の記述に絞ってみても酵母と呼ばれている菌の生活環についての説明がなかったり、酵母と呼ばれている菌の定義が明確に書かれていなかったりと、分っている、知っている前提で進んでいるのか敢えて避けているのかわからないけれども、やっぱり冒頭から僕は迷子になってしまいました。それでネットで界だ門だと調べてますます泥沼にはまる大型連休の夜。

<目次より>
第1章 はじめに 酵母入門(Yeasty Basics)
第2章 エデンの酵母(Yeast of Eden) 飲み物
第3章 生地はまた膨らむ(The Dough Also Rises) 食べ物
第4章 フランケン酵母(Frankenyeast) 細胞
第5章 大草原の小さな酵母(The Little Yeast on the Prairie) バイオテクノロジー
第6章 荒野の酵母(Yeasts of the Wild) 酵母の多様性
第7章 怒りの酵母(Yeasts of Wrath) 健康と病気

定年もまじかに控えた初老の、普通の会社員の男が連休の休みの日にこんなことを調べて一日を過ごしている。同じようなことをしている人はおそらく日本にも一人しかいないと確信しております。

それにしても前著の「ふしぎな生きものカビ・キノコ―菌学入門」と違い、文章がなんだかちょっと変だった。僕の理解不足なのかもしれないけれども、時折差し込まれる著者の私見のような部分がほとんど全く理解できないのだ。

自分の町で開かれるマーケットには様々なパンが並ぶのだが、最近もっとも人気が高いのは茶色のレンガのようなものと真っ白でふかふかのパンのちょうど中間に位置するものなのだという。それに張り合う形になっているのがグルテンフリーのパンで、著者はこれをみると「私は通りでビー玉遊びに興じていたころから食べ続けてきた粥や平たいパンで満足する古代ローマ人のような気分に襲われる」のだというのだが、これの意味わかります?僕はさっぱりだよ。ビー玉遊びに興じていたのが私なのか古代ローマ人なのかもわからないし、その気分がどんなものかもわからない。こんな風に僕を途方に暮れさせる記述がたくさんでてくる。

そのせいでますます僕は文脈を見失い、さらに迷子になってしまう。そしてさらにこんな文章に出会いました。

もっと堅い話をすれば、世界人口が20世紀の初めに20億人の大台を突破して以来、プレーンな酵母は人類の飢餓を解消する手立てになると考えられている。今より人口が50億人少なかった当時、経済学者らは大量飢餓というマルサス的悪夢の見込みに今よりも強い関心を示していた。もちろん現在では私たちの知る通り、人口増加という驚異には限界がなく、人口増加に伴って経済の状況は良くなり、農作物の遺伝子組み換えが貧困層に奇跡をもたらし、自然環境はこれまでになくきれいになっており、気候は今のところおおむね安定している。



人口増加に限界はなく、増加していくことで経済の状況が良くなり?自然環境はこれまでになくきれいになり?気候はおおむね安定している?

冗談か皮肉を言っているのかと思いましたがどうやら本気らしい。4月の時点ですが今年度三番目ぐらいのサプライズでありました。まさかこんなところに落とし穴のような穴が開いていて自分がそこに落ちるとは。ニコラス・マネーの本はもう多分二度と読まないでしょう。大変勉強になりました。



「酵母」のレビューはこちら>>

「ふしぎな生きものカビ・キノコ―菌学入門」のレビューはこちら>>


△▲△

夜より暗き闇(書き直し)
(A Darkness More Than Night)

マイクル・コナリー(Michael Conneliy)

2022/04/23:マイクル・コナリーの長編第10作目、「夜より暗き闇」にたどり着きました。こちらは2001年の作品で訳出されたのは2003年。このサイトを立ち上げた年で2冊目に書いたのがこの本でした。19年経って振り出しに戻った形です。

コナリーの本はカミさんが近年興味を示し読んで面白かったというので初期の作品もカミさんにお付き合いで再読しています。ここにきて本作「夜より暗き闇」の後に続く、「シティ・オブ・ボーンズ」と「チェイシング・リリー」はレビューがない。僕はこの二冊を読んでいないのだろうか。

そして2007年に「終結者たち」を嬉々として読んだあとで2006年に出版されていた「天使と罪の街」を読み飛ばしていることに気づいてあわててる僕がいた。初期の作品は扶桑社ミステリーだったが、「バッド・ラック・ムーン」から講談社に変わった。しかし「シティ・オブ・ボーンズ」と「チェイシング・リリー」の二冊はハヤカワからだされており、特に「シティ・オブ・ボーンズ」は単行本として2002年に出版されており順番が入違っている。単行本を間違った順番で読んだのだろうか。また2006年に「堕天使は地獄へ飛ぶ」が「エンジェル・フライト」に改題されて出版されたりして当時の僕もかなり混乱していた模様だ。

読んでないかもしれない本があったのも驚きだが、数年も間を開けて読んでいた当時は登場人物の関係性や細かなエピソードとかを結び付けきれずちゃんとわかって読めていなかったらしいこともわかってきた。こんなところに以前の本の登場人物の後日談が織り込まれているなんて。など。

2003年の僕のレビューは何を訴えているのかよくわからない。しかもどうやらあまり面白く読んでいない感じだ。ひょっとして僕の読解力に激しく問題があったのかもしれない。或いは読む順番を間違っているせいで時系列がこんがらがっていたのかもしれない。読んだのかどうかはっきりしない11作目12作目を読むためにも本書は読んで再度レビューを書く必要性があったという訳なのでした。

今ではグラシエラと結婚、一児をもうけ、グラシエラの妹の子供であるレイモンドと4人家族となっている引退した元FBI捜査官のテリー・マッケレイブのところに保安官補のジェイ・ウィンストンが訪ねてくる。「わが心臓の痛み」では捜査に協力させてほしいと申し出たのはマッケレイブの方だったが、その借りを返せというような形で暗礁に乗り上げた事件の調書を読んで意見がほしいというのだ。

前回の捜査の過程でひどい目にあっているグラシエラは捜査に没頭していくであろうマッケレイブに不安を覚え、やめてほしいと申し出るのだが、マッケレイブは捜査にあたることが自分の性分であることを深く自覚してどうしてもやらせてほしいと押し切るのだった。

ウィンストンが持ち込んできたのはまるで処刑のような形で殺された男の事件だった。自分の部屋で逆海老の形で自らその姿勢を保たないと首が締まる形で縛られ、力尽きて窒息死したのだった。バケツを被らせられていた男の頭部、額の上には生前につけられた大きいが致命傷ではない傷があった。保安官事務所もウィンストンもこれが連続殺人事件の一部、またはその始まりなのではないかとにらんでいたが、目撃者も物証もなく捜査線上には誰も浮かんでいないというものだった。

ハリー・ボッシュはメディアが注目を集める大きな事件の検察側の証人として召喚されていた。事件は新人女優が自分の部屋のベッドで首をくくって窒息死したというもので一見、事故死のように見えるものだったが、これが有名な映画監督のデヴィッド・ストーリーによる偽装殺人であったどうかを争うものだった。有名人が殺人犯かもしれないということで関心が集まり法廷はメディアや報道機関でごった返しの状態になっているのだった。

ストーリーは傲慢不遜な男で任意の取り調べを受けた後でボッシュに向かって「逃げおうせてみせる」と嘯いたのだった。その場にいたのはボッシュのみで録音もされていなかったが、この発言を基にストーリーは逮捕されていた。

被害者はエドワード・ガンという男だった。ガンは売春教唆、不当徘徊、往来での酩酊、酒気帯び運転でなんども逮捕歴がある人物で、かつ一度重犯罪容疑で逮捕されてもいたが、その件は告発に至らず釈放されているという記録もあった。殺害される前日も酒気帯び運転で逮捕され、保釈金を支払って釈放されたばかりだった。

マッケレイブが託された調書を丹念に読んでいくと死の前日拘置所にいるガンの元へボッシュが訪ねていることを知る。実はこのガンは「ラスト・コヨーテ」の物語の幕開けにボッシュが上司のハーベイ・パウンズを殴ってしまうきっかけを作った男だった。

ガンは売春婦の刺殺事件の重要参考人としてボッシュ、エドガーによって取調室に連れてこられた男だった。ガンがいうには行きずりで出会った売春婦がナイフをかざして金を奪おうとしてきた。ガンともみ合っているなかでナイフが売春婦に刺さり死んだのであって正当防衛だというものだった。ふざけた言い逃れだと考えたボッシュとエドガーは取調室にガンを放置し、たっぷり冷や汗をかかせたあとで取り調べをおこないボロをださせようとしていた。そこにパウンズが勝手に入り込み、ミランダ警告を告げてしまった。即座にガンは弁護士を要求。取り調べも告発もできなくなってしまったというものだった。

ボッシュはその後ガンが逮捕、拘束される度に拘置所を訪ね、この事件について本当のことを言うつもりがないか問いただしていたのだった。

本書はこのガンの殺害事件を追うマッケレイブとボッシュが出席しているストーリーの裁判の展開を軸に進んでいく。さすがコナリー物語は予想もしない方向へとぐいぐいと進んでいく。本書ももれなく僕は完全に内容を忘れてしまっていました。そしておそらく2003年に読んだときも「ラスト・コヨーテ」の後半の展開も、ガンのエピソードも完全に忘れていたに違いない。ほかにもジャック・マカヴォイが登場してきたり、「バッド・ラック・ムーン」の登場人物の後日譚が差し込まれていたりと読みどころも満載でありました。

また本書は終わるだろうと思ったところで終わらず先に進んでいく。それ自体予想外の展開であることは間違いない。そしてその意味はじわじわと伝わってくるものだった。考えれば考えるほどなるほどそういうことだったのかという話でもあるのだけれども、正直に言ってしまうと僕はこの着地点はやっぱりちょっと好きじゃないかな。古沢さんはこれを「善意の悪の化身」ともいうべきヴィジランティズム(自警主義)を体現しているようなものだと書かれていました。清廉潔白な正義の味方ではないボッシュ。決して好きにはなれない、彼を肯定する必要もない。コナリーとしてはそんな場所にボッシュをおくことを選んだということなのでしょう。そしてそんなボッシュを受け入れた上でこの後の物語が続いていくという点でしっかりと記憶に留めておく必要があるものだと思いました。その意味では非常に重要な一冊であった。19年前の僕はこの悪の化身ともいえるボッシュを受け入れられなかったという一言に尽きるのだろう。


「正義の弧」のレビューはこちら>>

「ダーク・アワーズ」のレビューはこちら>>

「潔白の法則」のレビューはこちら>>

「警告」のレビューはこちら>>

「ザ・ポエット」のレビューはこちら>>

「鬼火」のレビューはこちら>>

「素晴らしき世界」のレビューはこちら>>

「汚名」のレビューはこちら>>

「レイトショー」のレビューはこちら>>

「訣別」のレビューはこちら>>

「燃える部屋」のレビューはこちら>>

「罪責の神々」のレビューはこちら>>

「ブラックボックス 」のレビューはこちら>>

「転落の街のレビューはこちら>>

「証言拒否のレビューはこちら>>

「判決破棄」のレビューはこちら>>

「ナイン・ドラゴンズ」のレビューはこちら>>

「スケアクロウ」のレビューはこちら>>

「真鍮の評決」のレビューはこちら>>

「死角 オーバールック」のレビューはこちら>>

「エコー・パーク」のレビューはこちら>>

「リンカーン弁護士」のレビューはこちら>>

「天使と罪の街」のレビューはこちら

「終結者たち」のレビューはこちら>>

「暗く聖なる夜」のレビューはこちら>>

「チェイシング・リリー」のレビューはこちら>>

「シティ・オブ・ボーンズ」のレビューはこちら>>

「夜より暗き闇」のレビューはこちら

「夜より暗き闇」のレビュー(書き直し)はこちら>>

「バット・ラック・ムーン」のレビューはこちら>>

「わが心臓の痛み」のレビューはこちら>>

「エンジェルズ・フライト」のレビューはこちら>>

「トランク・ミュージック」のレビューはこちら>>

「ラスト・コヨーテ」のレビューはこちら>>

「ブラック・ハート」のレビューはこちら>>

「ブラック・アイス」のレビューはこちら>>

「ナイト・ホークス」のレビューはこちら>>

△▲△

極北の動物誌(Animals of the North)
ウィリアム・プルーイット(William O. Pruitt)

2022/04/17:全く何も事前情報なしに読み始めて驚きました。冒頭の「刊行によせて」は星野道夫の奥さんが書いていた。2021年10月。この中で著者のウィリアム・プルーイットがアメリカの核実験場開発計画「プロジェクト・チャリオット」を環境調査によって阻止したことから母国を追われカナダに移住したことが述べられていました。カナダの大学で動物学の教授の職を得たプルーイットの元を星野道夫は訪ね、まるで古い友人同士が久しぶりに出会ったかごとく深く心を結びあったという。しかも復刻版・・・。読後、あとがきには1967年に出版された本だというので二度驚きました。

確かに星野道夫が愛読書にしていたというからには多少昔の本なのだろうとは思ったが55年も前の本だったとは。本書の内容は全く古びれたところがない。そしてとても科学的。動物行動の点でも、持続可能な生命再生、エネルギー循環の話などは50年以上前に書かれたとするならばその先見性は途轍もないものに思える。そして食物連鎖の描写は予想以上に厳しく残酷だ。極北に限らず実際の食物連鎖に慈悲はないのだろうと思うけれども、ここまで冷徹にハードに描かれている本を僕は知らない。これを愛読書として繰り返し読んでいたらしい星野道夫もまた著者と同じく、楽しんで読んでいるというよりは環境破壊に対する深い憂慮を再確認するために読んでいたのだろう。きっと。

■内容
刊行によせて 星野直子
プロローグ
旅をする木
タイガの番人
ハタネズミの世界
ノウサギの世界
待ち伏せの名手
狩りの王者
カリブーの一年
ムースの一年
ムースの民
生命は続く
ホームステッド
にわか景気
未来の展望
謝辞
エピローグ―一九八八年版あとがき
訳者あとがき
文庫化によせて 大竹英洋

また末巻には写真家の大竹英洋による「文庫化によせて」あります。このなかでプルーイットが1998年に亡くなっていることが書かれていました。

時系列を整理するとプルーイットは1922年生まれ。1967年に本書を刊行。その後1983年に再刊。1988年には新たなエピローグを加えて再刊されたようです。日本では2002年になってようやく邦訳初刊行され、2021年に文庫本として復刻された。僕が今手にしているものがそれになる。環境問題に関心がある方だと思っていたつもりだったのだけど、本書から自分がいかに遠いところに居たのかを考えると自分の環境意識なんてどれほどのもんなのかと考えさせられてしまいました。

しかし、プルーイットのことをネットで調べましたが不思議なぐらい何もでてこない。ふと言及されていた「プロジェクト・チャリオット」も調べてみたが、簡単な記事が見つかるだけで、この計画の阻止に動いたプルーイットのことはどこにも書かれていない。

「プロジェクト・チャリオット」(Operation Chariot)は1958年アメリカ合衆国の原子力委員会により提案されたもので、アラスカに核爆発でクレーターを作りそれを人口湾にしようという計画だったのだという。土木工事に核爆発を利用するので「平和的核爆発」に分類されるのだそうだ。結果的に実行はされなかったけれども、はっきり言って狂気の沙汰としかいいようがないような中身だ。調べてもでてこないのは何か意図的な力が働いているのではないだろうか。それほど丁寧にいや執拗に足跡を消されてる気配がある。

タイガでは経済システムの優先順位と方向をまったく逆にする必要があるのはあきらかだ。第一に優先されるべき基準は生態系の安定であり、その次が地元の人間が必要とすることがらである。短期的な利益を考える必要はあまりないし、南の地方の利益を考慮する必要は全くない。「国のエネルギー自給」という近視眼的であまりに単純な目標を達成しようとする試みは、生態系に反するものだし、阻止しなければならない。この目標の提唱者は、もっとも長く生き残れる国は、再生不能なエネルギー資源を最後まで保有する国であることを忘れている。生態系に則した文脈で見れば、南の地方に輸出するためら極北の限られたエネルギー資源を大急ぎで開発する行為は、生態系の安定を乱すことに他ならない。直接的な影響も深刻だが、間接的な影響、とりわけこれまで開発されていなかった地域や動物に、地元民や南の人間が容易に近づけることの影響の方がはるかに大きいことは間違いない。近づきやすくなったことによる悪影響はすぐにには現れないかもしれないが、現状ではそれに対処できるほど文化が十分に成熟していない。


上記は1988年に加えられた「エピローグ―一九八八年版あとがき」の一文である。この文章からも34年の歳月が流れていて、何も変えられず、むしろ悪化させる方向で僕らは走ってきてしまっていることに激しい焦燥感を覚える。

△▲△

バット・ラック・ムーン(Void Moon)
マイクル・コナリー(Michael Conneliy)

2022/04/16:「バッド・ラック・ムーン」は2000年のコナリーの作品。2001年に訳出されたが単行本だった模様で僕はそれを読んだろうか。文庫本になったのは2006年。もしかしたら文庫になってから読んだのかもしれない。あの頃に読んだコナリーの本はもれなく仙台で介護施設にいた父のもとに送っていたので手元に残っているものは一つもない。「面白かった」、「イマイチだった」と素っ気ない一言二言ではあったけれども、なかなか鋭い審美眼をもった読者であった父もいつか目がちゃんと見えなくなり、本を手にはしているものの実は全く読めていないこと気が付いたのはそんな状態になってだいぶたってからだったと思う。

本書はコナリーの9作目の作品だが、主人公はキャシー・ブラックという女性でその後再び主役で登場することがないキャラクターで個人的にはとても印象が薄い。しかもこのキャシー・ブラックは元受刑者という設定だ。

どうやらラスベガスのカジノで一稼ぎした人物から金を盗み出す仕事をパートナーのマックス・フリーリングと行っていたことで逮捕され収監されていたらしい。ボッシュはもちろんのこと、ジョン・マカヴォイにせよ。テリー・マッケレイブにせよ、犯罪者を追う側の人物を主人公に物語が走っていくのを追ってきた僕らとしてはこの犯罪者あがりの女性の主人公に感情移入して物語に没頭できるのだろうか。読み始めた僕はとても不安に陥りました。

前科者であることを受け入れて働かせてくれているポルシェのディーラーで営業する傍らキャシーは小さな女の子がいるとある家庭の様子を遠くからうかがっていた。どうやらこの女の子を生んだのはキャシーなのではないだろうか。パートナーであったマックスはどうなったのだろうか。キャシーが逮捕されるに至った最後の犯行の結果、マックスは死んでいるような気がする。

キャシーは裏稼業から足を洗いまっとうな生活を送ろうと努力しているようにも見えるが、自分が生んだ娘を再び自分の元に戻したいという願望も持っているようだ。しかしその家族がパリへ転居する予定でいることを知り内心激しく動揺する。仮釈放の身であるキャシーは、パリはおろかカリフォルニア州から外にでること自体が禁じられていた。

このままでは永遠に娘の姿をみることすらかなわない。そう考えたキャシーはマックスの異父兄弟であるレオ・レンフロに大きく稼げるヤマを紹介するよう依頼を出すのだった。

ここらで僕の不安はマックスに近い状況になっていた。どんなヤマを踏むのかわからないけれども、危機一髪難を逃れて一山あてて、何も知らずに里親と暮らしているはずの子供をさらって逃亡する話になるのだろうか。それとも途中で選択なり判断を誤り、逮捕されるか命を落とすようなところに着地するのだろうか。どっちにしろ、そんな展開はあまり期待していないし、読みたいとも思わない話に感じる。

今は僕の背中をみて走っているカミさんも本書の冒頭部分で同じように躓いている感じだ。ストーリーという以前にこのキャラクターのおかれている状況自体に物語の牽引力がない。どうしてこんな設定にしちゃったんだろうとすら思いました。

しばらくしてレオが持ち込んできたヤマはラスベガスでありよりによってマックスが亡くなったホテルにいる人物から金を奪うというものだった。分け前は非常に大きく、キャシーはしぶしぶこの仕事を引き受けることにするのだった。

「ヴォィド・ムーンの間は標的の男の部屋にはいるな」レオはキャシーにこんなことを言う。本書によればヴォィド・ムーンは西洋占星術によるもので 黄道十二宮と月の運行にかかわるものとされ、月がどの宮にもいない時間帯をヴォィド・ムーンと呼びその時間帯は悪運の時間帯なのだという。犯行計画の実行日の夜中にその時間帯が来るというのだ。

日本語で読める占星術に関する記述をすこし調べてみましたが、太陽系の惑星と月が特別な角度にない時間帯をヴォィド・ムーンと呼ぶみたいな説明があったりして、本当のところがどうなのかは僕にはわかりませんでした。

一度決意したら悩まないタイプらしいキャシーは着々と準備を進めていく。まーそして言ってしまうと、キャシーは計画を実行していくのだが、なんだかんだ偶然が重なりこのヴォィドムーンの時間帯、標的の男の部屋に潜んでいるしかなくなってしまう。

そしてそれを合図にするかのように物語は全く違う様相で走り出していく。これには本当に驚きました。すまんコナリー疑った僕が悪かった。本書がこんなに面白くて怒涛の展開をみせるとは、しかも一度読んで完全に忘れているなんてなー。

「正義の弧」のレビューはこちら>>

「ダーク・アワーズ」のレビューはこちら>>

「潔白の法則」のレビューはこちら>>

「警告」のレビューはこちら>>

「ザ・ポエット」のレビューはこちら>>

「鬼火」のレビューはこちら>>

「素晴らしき世界」のレビューはこちら>>

「汚名」のレビューはこちら>>

「レイトショー」のレビューはこちら>>

「訣別」のレビューはこちら>>

「燃える部屋」のレビューはこちら>>

「罪責の神々」のレビューはこちら>>

「ブラックボックス 」のレビューはこちら>>

「転落の街のレビューはこちら>>

「証言拒否のレビューはこちら>>

「判決破棄」のレビューはこちら>>

「ナイン・ドラゴンズ」のレビューはこちら>>

「スケアクロウ」のレビューはこちら>>

「真鍮の評決」のレビューはこちら>>

「死角 オーバールック」のレビューはこちら>>

「エコー・パーク」のレビューはこちら>>

「リンカーン弁護士」のレビューはこちら>>

「天使と罪の街」のレビューはこちら

「終結者たち」のレビューはこちら>>

「暗く聖なる夜」のレビューはこちら>>

「チェイシング・リリー」のレビューはこちら>>

「シティ・オブ・ボーンズ」のレビューはこちら>>

「夜より暗き闇」のレビューはこちら

「夜より暗き闇」のレビュー(書き直し)はこちら>>

「バット・ラック・ムーン」のレビューはこちら>>

「わが心臓の痛み」のレビューはこちら>>

「エンジェルズ・フライト」のレビューはこちら>>

「トランク・ミュージック」のレビューはこちら>>

「ラスト・コヨーテ」のレビューはこちら>>

「ブラック・ハート」のレビューはこちら>>

「ブラック・アイス」のレビューはこちら>>

「ナイト・ホークス」のレビューはこちら>>


△▲△

カニムシー森・海岸・本棚にひそむ未知の虫
佐藤 英文

2022/04/09:新年度業務分担と勤務地が変更になり引継ぎやら引っ越しの準備やらでまたもやドタバタな日々をおくっています。雇用延長しないで定年退職しちゃいたいと思う反面、ドタバタな生活に浸るのが性分ではないかとも思えていて、果たしてそんなことのない日々のなかで僕はちゃんと生活していけるのだろうかという不安。あと一年ちょっと。悩んでいる時間もあまりないようです。果たしてどうしたものやら。

マイクル・コナリーのシリーズ再読は粛々と追い上げが進んでいます。立て続けに読み続けるのはさすがにどうかと思うので箸休め的に他の分野の本と思って手にしたのはこちら「カニムシ」。カニムシ?僕は見たこともなければ聞いた記憶もない生き物だ。 著者の佐藤英文は1948年、山形生まれの京家政短期大学部保育科特任教授。カニムシ類の分類と生態の研究、草笛の歴史研究と普及活動、草花遊びの研究と普及活動、ミツバチを使った教育活動などをしている方だそうです。

山形の自然あふれる環境で育ち、神奈川で高校の教師になったのち、余暇を使って自然に触れて研究できるテーマを探して出会ったのが「カニムシ」であったらしい。ご本人もカニムシがどんな生き物なのかまったく知らない状態でこれをテーマにすると決めたのだそうだ。25歳の時のことで以来40年以上、カニムシの研究を続けてきたのだそうです。

カニムシ。ムシという名がついているけれどもこの生物は昆虫ではない。体節は二つ。腹部に4対の歩脚と頭胸部に1対のハサミのある付属旨肢をもっている。全体的には尾のないサソリのような見た目だ。分類上は節足動物門鋏角亜門クモガタ綱カニムシ目となる。大きさは1mmから5mmと非常に小さな生き物だ。土壌、樹上、磯など種類によってその生息範囲が異なる。まれに本の隙間にいたりしてブック・スコーピオンという呼び名がついている。スコーピオンなどと呼ばれているが毒を持っている種はごく一部で、ほとんどのカニムシは同じ種同士ですら接触を避ける傾向にあるようで目立たず、騒がず脆く儚い生き物だ。

そんな生き物だからか研究者の数もわずかで、カニムシの生態や生活史、分布や種類の数などはまだまだ謎な部分が多い。そんな生き物を研究対象にして、どうやって研究するのか。それこそ手探り、試行錯誤の連続で調べ続けてわかってきたカニムシの姿と著者の研究人生が平行して語られていく。

著者は長年のフィールドワークによってたくさんの新種を発見しているらしい。そしてどこにどんな種類がどれだけの数で生息しているのかをしらべるために膨大な労力をかけてサンプル採取と計測を繰り返していました。その作業たるや気の遠くなるほどでした。40年以上の歳月をかけて調べてきた研究成果は満足するに程遠いものがあるという。そしてカニムシはその寿命や生態、行動について未知の部分がまだまだたくさんあるのだという。

営業担当から業務企画やシステム開発、中古機器の再販企業の運営など、次から次へとあれやって、これやってと言われるままにいろんなことにチャレンジさせられてきた僕とはあまりに対照的な人生を歩んできた著者の生きざま。ああこういう人生の歩き方もあったんだなーとしみじみと読ませていただきました。そして脆くて儚げでありながらもこんなにも奥深く、その正体をあきらかにしないカニムシの世界の広がりの大きさ。こんなに心を揺さぶられるなんて全然予想していなかったなー。新年度もよろしくお願いします。


△▲△
HOME
WEB LOG
Twitter
 2024年度(1Q)
 2023年度(4Q) 
 2023年度(4Q) 
 2023年度(3Q) 
 2023年度(2Q) 
2023年度(1Q) 
2022年度(4Q) 
2022年度(3Q) 
2022年度(2Q) 
2022年度(1Q)
2021年度(4Q)
2021年度(3Q)
2021年度(2Q)
2021年度(1Q)
2020年度(4Q)
2020年度(3Q)
2020年度(2Q)
2020年度(1Q)
2019年度(4Q)
2019年度(3Q)
2019年度(2Q)
2019年度(1Q)
2018年度(4Q)
2018年度(3Q)
2018年度(2Q)
2018年度(1Q)
2017年度(4Q)
2017年度(3Q)
2017年度(2Q)
2017年度(1Q)
2016年度(4Q)
2016年度(3Q)
2016年度(2Q)
2016年度(1Q)
2015年度(4Q)
2015年度(3Q)
2015年度(2Q)
2015年度(1Q)
2014年度(4Q)
2014年度(3Q)
2014年度(2Q)
2014年度(1Q)
2013年度(4Q)
2013年度(3Q)
2013年度(2Q)
2013年度(1Q)
2012年度(4Q)
2012年度(3Q)
2012年度(2Q)
2012年度(1Q)
2011年度(4Q)
2011年度(3Q)
2011年度(2Q)
2011年度(1Q)
2010年度(4Q)
2010年度(3Q)
2010年度(2Q)
2010年度(1Q)
2009年度(4Q)
2009年度(3Q)
2009年度(2Q)
2009年度(1Q)
2008年度(4Q)
2008年度(3Q)
2008年度(2Q)
2008年度(1Q)
2007年度(4Q)
2007年度(3Q)
2007年度(2Q)
2007年度(1Q)
2006年度(4Q)
2006年度(3Q)
2006年度(2Q)
2006年度(1Q)
2005年度(4Q)
2005年度(3Q)
2005年度(2Q)
2005年度(1Q)
2004年度(4Q)
2004年度(3Q)
2004年度(2Q)
2004年度(1Q)
2003年度
ILLUSIONS
晴れの日もミステリ
池上永一ファン
あらまたねっと
Jim Thompson   The Savage
 he's Works
 Time Line
The Killer Inside Me
Savage Night
Nothing Man
After Dark
Wild Town
The Griffter
Pop.1280
Ironside
A Hell of a Woman
子供部屋
子供部屋2
出来事
プロフィール
ペン回しの穴
inserted by FC2 system