「荒涼の町(WILD TOWN)」
1957年出版。51歳。
マイク・ハンロン・・・・・・・・・ハンロン・ホテルのオーナー
ジョイス・・・・・・・・・・・・・ハンロンの妻
"バグズ"・マッケナ・・・・・・・・ホテルの警備主任
オリー・ウェストブルック・・・・・ホテルの総支配人
アレック・ダドリー・・・・・・・・ホテルの会計係
ルー・フォード・・・・・・・・・・保安官首席助手
エイミー・スタンディッシュ・・・・フォードの婚約者。教師
テキサス州西部にある町ラグタウンは、どこにでもある田舎の小さな町であったが、
ある日油田が発見された事で突如盛況を集め大きくなったのだった。その石油を掘り当てた男はマイク・ハンロンと云うワイルドキャッターだった。
石油が大量生産された最初の例は1859年アメリカでペンシルバニア州でエドウィン・ドレーク(Edwin L. Drake)が機械掘りの油井によるものだとされている。
ワイルドキャッターとは、石油を掘り出す事が可能だとわかるとこの例に続けとあたれば億万長者、はずれれば破産という一攫千金の可能性に賭けた人々を指す。
ワイルドキャッターは、伝手を頼って多くの人から借金を募り、それを元手として試験採掘を繰り返す訳だが、なかには相当いかがわしい人物も少なからず存在し、マイク・ハンロンも少なからず悪どい手口を使いつつ集めた金で幸運にも油田を本当に掘り当て、使っても使い切れない程の大金持ちとなったのだった。
しかしその時彼は突如噴出した石油によって櫓から吹き飛ばされ、半身不随となってしまったのだった。
ワイルドキャッターとしての人生はその時点で幕を閉じる事になったが、ハンロンは油田の町となったラグタウンに留まる事を選び、町の真ん中に場違いなほど豪奢なホテルを建設しオーナーとして暮らしているのだった。
ハンロンにはジョイスという妻がいたが、彼女はハンロン・ホテルのホステスに応募してきた女性で、ただ美人で時折話し相手等になってくれる程度の事だけを期待して結婚したのだった。
ハンロンは最近、このジョイスが自分の死を強く望んでおり陰で何かを画策しているのではないかと疑っていた。この町の首席保安官助手であるルー・フォードに相談を持ちかけるが、証拠もないのに何もできないと取り合ってもらえない。
ルー・フォードはこのラグタウンの首席保安官助手だが、誰に聞いてもこの町を取り仕切っているとされ、明らかに保安官助手としての収入以上の生活をしている事から汚れているとも目されてる人物であった。そしていつも冷笑を浮かべ拳銃を携行せずにいながら相手を常に不安にさせるような男でもあった。
このラグタウンに流れ着いた男、"バグズ"・マッケナが本書の主人公である。彼は子供の頃からやや頭の回転が遅い事で馬鹿にされ、結婚した相手に騙されていた事から相手を殴り刑務所に入ったり、軍隊では身分を詐称した将校を撃った事で軍法会議にかけられた。
彼はやっかい事を引き寄せてしまうような人物であり、そんな経験から世間を信じない、孤立した流れ者に追いやり、どこへ行ってもよそ者として不当な取り扱いを受け流れ流れてラグタウンに辿り着いたのだった。
ラグタウンでも早速彼は見当違いの相手に言いがかりをつけ留置所に入れられてしまうのだった。
ルーはこの捨て鉢になったマッケナに対し、ハンロン・ホテルの警備主任としての職に付く気はないかと持ちかけるのだった。マッケナは悪徳警官として知られるルーの相談の裏に何があるのか不安を抱えつつも願ってもいない程の厚遇にありつくのだった。
警備主任の仕事は大過なく安泰な日々が続いていたが、ある日ホテルの会計係が使い込みをしているらしいと云う事、そしてそれを調べてほしいという依頼を総支配人のオリー・ウェストブルックから持ちかけられた事から物語は意外な方向へと進み出していく。
本書はこの会計係の横領と彼を死に追いやった犯罪の謎を追う展開を主旋律として展開していくが、大きな二つの仕掛けが用意されている。一つは"バグズ"・マッケナを主人公にしつつトンプスンお得意の一人称ではなく三人称で語られている事である。
三人称で語られている本は何冊かあるが、本書の場合に構造的な理由があるのだが、これは読み終わらないとわからない仕掛けになっている。
もう一つの仕掛けはルー・フォードという人物の登場である。ルー・フォードはトンプスンの衝撃のデビュー作「内なる殺人者(The Killer Inside
Me)」にセントラルシティの保安官助手として登場した主人公と同名である。
物語のなかで彼は武器も携行せず、礼儀正しいがくだらない話を延々と続ける退屈な男であったが町外れに住んでいる売春婦の女ジョイスと出会うことでその本性を顕し破滅に向かって突如暴走をはじめる。「内なる殺人者」はそんな物語であった。
本書とは町の名も違えば、彼のフィアンセの名字も違う。しかしあまりある共通項。果たしてこの人物は同一人物なのか。この二冊の本どちらを先に読んでもこの謎が立ち上がってくる仕掛けになっているのだ。
読み終わって物語りを辿り直して再構成してみてこの意図に気付いた僕はもうただ脱帽。このトンプスンは二つの仕掛けを操って読者を翻弄してくる訳だが、これはもう弄ばれてみるしかない。
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