This Contents


あれよと言う間に2005年度も7月に突入。今年の都心は梅雨なのに猛暑。空梅雨、水不足でご苦労されている方もいらっしゃるという事で、お見舞い申し上げます。
ここでは2005.07〜2005.09に読んだ本をご紹介しています。



危険な道
(A DANGEROUS ROAD)」
クリス・ネルスコット(Kris Nelscott)

2005/09/24:時は1968年メンフィス。黒人探偵スモーキーの事務所を訪ねてきたのはうら若き白人女性ローラだった。しかもメンフィスの黒人街では余にも場違い服装。彼女は裕福なのだ。しかも彼女の目的は仕事の依頼でもなかった。

「わたしの母が亡くなるとき、自分の遺産からあなたに分け前を渡さなければならないと考えていた訳が知りたい。」彼女にとって見ればスモーキーが知っていて当然の問いだったが、彼には全く心当たりがない。

折りしもメンフィスにはスモーキーの幼馴染でもあるマーティン・ルーサー・キング Jr.がやってきてデモ行進に参加するという。

非暴力、平和主義を貫きつつも人種差別撤廃を主張するキング牧師だが、メンフィスに集まってきている人々全てが同じ考えではなかった。過激な行動に向かいつつある若者。更には彼らを焚き付けて、扇動している男はFBIの息がかかっている節もあるのだった。

売春婦の母が行方不明になり兄弟二人で暮らすジョウとビリー。何かとスモーキーはこの兄弟に気をかけていたが、兄のジョウはこの騒ぎのなかでブラックパンサーの過激な活動に傾倒、小学生のビリーも徐々に巻き込まれていく。

メンフィスの街は混沌を深めながら、そしてあらゆるものを巻き込みながら運命の4月4日に向けてヒートしていく。そんな街で謎に包まれたローラの両親の過去。ローラの出生の秘密に迫るスモーキーを待受けていたものは、スモーキー自身の過去、子供の頃にリンチにあって殺された両親とも結びつく悲痛な運命だった。

本書はクリス・ネルスコットの処女作。しかし彼女は新人ではなく、複数のペンネームを持つクリスティン・キャサリン・ラッシュ(Kristine Kathryn Rusch)の一つの新しい名前だという事だ。

クリスティン・キャサリン・ラッシュは、スターウェーズシリーズやX−メンなんかのノヴェライズを書いていたりとSF・ファンタジーのジャンルではかなり名の知れた作家。

そんな彼女が1968年のキング牧師暗殺前夜のメンフィスを舞台に探偵小説を書くというのだから、これはかなり冒険だったハズ。しかし探偵ものの碇石をきちんと踏まえつつ見事な展開。すごいすごい。

惜しくもジョー・R・ランズディールの「ボトムズ」に負けたものの、2001年度MWA賞最優秀長編賞の最終候補に残るまでの評価を受けた。やはり着地点にやや凡庸さがあったか。もう一捻り欲しかったかもだ。

1955年、第34代アメリカ大統領ドワイト・D・アイゼンハワーはCIAの力を利用して傀儡政権ベトナム共和国(通称南ベトナム)を樹立。インドシナ戦争へのアメリカの国家介入が本格化した。

1956年にはスエズ危機を経て中東問題に介入を強化。核兵器保有競争も激化し1960年のU−2撃墜事件により米ソ冷戦が本格化した。国際問題がこのように混沌とするなか、国内でも赤狩り、公民権運動と大きく揺れ動き始めたのだった。

民主党候補のジョン・F・ケネディが人種差別撤廃に積極的だった半面、共和党だった現職アイゼンハワーが国際問題に積極的な割りに、国内問題に対して及び腰だった事。アイゼンワーが共和党の次期大統領候補ニクソンと折り合いが悪かった事等が重なり、大統領選はジョン・F・ケネディに軍配が上がった。

1961年1月20日ジョン・F・ケネディは第35代アメリカ大統領に就任。マリリン・モンローがジョン・F・ケネディの誕生日に"Happy Birthday Mr. President"を歌ったのが1962年5月29日。そのすぐ後の8月5日マリリン・モンローは睡眠薬の大量摂取で死亡。

同年10月22日キューバ危機

1963年11月22日ダラスでケネディ大統領は狙撃され死亡。

ケネディ大統領政権下で司法長官だった弟のロバート・ケネディはその後ニューヨーク州の上院議員に選出された。

1968年3月16日ロバート・ケネディは大統領選への出馬を表明。彼は兄以上に人種差別撤廃に積極的でキング牧師とも交流があった。

同年4月4日メンフィスのモーテルのバルコニーでキング牧師は狙撃され暗殺。

ロレアンヌ・モーテル



大きな地図で見る


続く6月5日、ロバート・ケネディはロサンゼルスのアンバサダーホテルで銃撃され、その翌日死亡。

力不足は言わずもがなだが、物語の背景をざっと纏めてみた。いやはやなんともすごい時代だったのだ。

キング牧師の暗殺事件も他の事件同様公表された内容には胡散臭い部分が多く、これらはひっくるめてジョン・エドガー・フーヴァー率いるFBIの闇の活動の一部と捉える推測も多い。どの事件も強引に真相が藪の中に押し込まれているように見える。衆人環視の元で暗殺を実行ししかも事実を隠蔽する事ができるのは国家レベルの組織力がなければ困難ではないかと思うのだが。

本書はこのキング牧師の暗殺事件にも鋭くメスを振るうなかなかの切れ味をもった一品に仕上がっているのだ。

△▲△

クリティカル・シンキング
【実践編】「仕事」と「人生」を豊かにする技術
(CRITICAL THINKING Tools for Taking Charge of
Your Professional and Personal Life)」
リチャード・ポール (Richard Paul)
リンダ・エルダー (Linda Elder)

2005/09/24:僕は今まで感情の起伏が少ない。語気を荒げたりしない柔和な性格、これは自他共に認める所だった筈。なのだが近年の僕は年を追うごとに感情的、短気になりつつある。どちらかと言えばこれが本来の僕なのかもしれない。

しかも昔から感情的だったり、短気だったりする人と違ってその表し方が下手なのではないだろうか。変なタイミングでキレているような感じ。しかも興奮して自己主張している時、怒鳴っている時。肝心な時に限って、とーちゃん「咬んじゃうんだよね。」と息子にズバッと突っ込まれる始末。これは深手だ。もしかしたら致命傷かも。血だ。

確かに叱ってる時に子供の名前もとっちがえます。どうもこれは父からの親譲りだな。

それがこの僕の問題意識と合っているのか、どうかわからないままこの本を読み始めた。
クリティカル・シンキングとは、平たく言えば、既成概念に捕らわれすぎたり、他人の意見を鵜呑みにしたりしない。まず一歩引いて冷静に考えてから咀嚼する。自分の意見や感情を常に振り返って何故そう考える、

感じるのかを見つめ思考の質を高める手法。更に考える手順や考慮すべき点に漏れがないか等思考する方法自体の質も高めようというものだ。

当然の事ながら、ちょいと読んだ位で出来るようになったりするものではなく、長期にわたる鍛錬によって改善されていくものだ。

本書がクリティカル・シンキングの「初心者」に求めるものとは、

・状況や問題がどのような理屈になっているのか分析する。
・疑問点を明確に、正確に表現する。
・明瞭さおよび妥当性といったことに関する情報をチェックする。
・情報とそれに基づく第三者の解釈をはっきりと区別する。
・憶測につながる想定ほ確認する。
・偏見や先入観、不当な結論、不適切な言葉の使い方、見逃されていることなどを見つけ出す。
・私欲のためにゆがんだものの見方見方をしていないか見直す。

である。

おぉ、それにしても手強い。

歳をとると自分が経験を踏まえ正しく考え行動しているという事を当然の事として考える。感じている。結果、傲慢で独善的になってしまう訳ですね。とても実感。知らず知らずにやっている自分の姿が浮かぶな〜。

しかし解ったという事と出来るようになるという事は当然ながら別物。問題はここから努力できるかどうかなのですね。飲んで直る薬があったらいいのだが。

△▲△


夜の物理学
竹内薫

2005/09/24:数学が苦手なくせに、宇宙論なんてお恥ずかしい話だが、好きなものは仕方がない。中学生だったか高校生の頃、いよいよ本格的に読書にのめり込んだのも、相対論を皮切りとした宇宙論の存在を知り恐る恐る近づいていったのもその頃に見たBBCのあるテレビ番組に辿り着く。

内容はもはや断片化しているが、ピーター・ユスチノフ(Peter Ustinov)が確か司会進行であったと思う。大きな図書館の書庫の前で「一生涯で読める本の数は限られています。」という様な主旨の話をしていた。また猛スピードで接近する車体からライダーまで真っ青なバイクは、遠ざかるときこれまた車体からライダーまでが真っ赤になるというシーン、今でも目に浮かぶ。

調べるとどうも"Einstein's Universe"がそれのようだ。1979年製作、110分。この時僕は膨大な読むべき書物に対してちっぽけな読書量という慢性的飢餓感を植えつけられ活字中毒化。更に時間が相対的であるといった既成概念を粉々にするような概念を知る快感を知ったのだ。

そして知った宇宙のあらまし。成り立ち。想像も難しいその大きさ。

一方で宇宙の片隅のちっぽけな領域で生まれた僕ら生命の存在。そんな僕らが無限の想像力を駆使してこの世界の成り立ちを解き明かそうとしている。

そして出遭った問い「僕たちはどこから来て、そして何処へ向かっているのだろうか?」

解けない謎。

青年期に向かいつつある自分の精神構造に多大な影響を与えたと思われる。そして今でもこの問いが消えることはない。なんと多大なインパクトをくれた番組であったろうか。

現代物理学は量子力学あたりから一般人の僕たちに理解できるような絵や例えを使って解説する事が困難になってきたようで、読んで面白いはおろか、解りやすい本にはなかなかお目にかかれない状態になってしまった。

そんな状況の中で地道に努力を重ねてくれているこの竹内薫氏はたいへん有り難い存在なのだ。僕はご本人が言うところの「竹内節」をはじめ、文面からにじみ出る人柄の良さも大変好きです。本書は最新の宇宙論や物理学を巡るエッセイ。

「夜の物理学」というタイトルは、思わず全く別の意味に捉えてしまう周囲の人達の表情も楽しめるものですが、由来は「ナイトサイエンス」というコトバを捩ったもの。しかしその「ナイトサイエンス」自体良く判らない。どっちみち妖しい響き。本来の意味は理論的な思考によってではなく、霊感・閃きのようなものからやや怪しげな研究をしている事を指すらしい。

怪しいままで終る研究はそれこそ星の数ほどあるかもしれないけれど、なかにはやがて定説、正論として受け入れられていくものもある。そんな、やや眉唾気味の意見も混じっての百家争鳴の領域こそ最先端中の先端でもあったりする訳だ。

唱えている理論そのものが難解な上に、間違っているのか正しいのか、その意味するところとは?他の理論とどう衝突しているのか 等を解り易く解説してくれている。そして僕もどれが正しいのだろうかとか、本当のところはどうなっているのかについて思いを馳せて夜も深まっていく。

△▲△


夜が牙をむく
(INTENT TO HARM)」
スタン・ウォッシュバーン(Stan Washburn)

2005/09/03:一人暮らしの女性の自宅へ爬虫類を思わせるような狡猾さで家宅侵入、
獲物を捕まえた猫のような残忍さで弄んだあげくにレイプを重ねる犯人。もう既に4年間も犯行を続け、証拠を一切残さない強かさに業を煮やした警察は特別捜査本部を設立し犯人を追い詰める事にした。

トビー・パークマンは大学を卒業し出版社に勤めていた。しかし会社が大手に買収され解雇されてしまった。書店経営に失敗した友人と二人で職を捜すと、警官を募集しているという話が。思いも寄らない事ではあったがこの求人に応じて30歳を過ぎてから警察官になることにした。

地元の町でパトロール勤務に就いたトビーだったが、ある事件をきっかけにこの特捜本部に抜擢される。人材不足から寄せ集めののメンバーとリーダーのミスキャストで捜査は思うように進まず膠着状態に陥る一方で、犯人はそれを嘲笑うかのように犯行を次々と重ね、その行為は更に悪質化していく。

西海岸の小さな町で拡大していく悪意の暗雲は、やがてトビーの友人や自身の家族、そして本人の精神にも覆いかかってくる。これはマジで恐ろしい。戸締りを確認せねば。

なかなか見事な警察小説であった。トビーを含め主要な登場人物の人柄の良さと正に外道と云える犯人のコントラストがじわじわとサスペンスを盛り上げて行く。後半はもう夢中で読んでしまいました。振り返れば、強かに計算されたプロット。あっぱれな出来です。

作者のスタン・ウォッシュバーンについて、詳細は不明だが、1943年1月2日、ニューヨーク出身、カルフォルニア大学卒。1973年〜1978年までカルフォルニア州バークレイで予備警察官を勤めた経験があるそうだ。

本業はアーティストのようでエッチングやその本なんかにも同名のものが確認できるが同一人物かどうかは不明だ。もしこれが正しいなら、かなり多才な人物のようだ。更に推測だけど彼は、人類学者だったシャーウッド・ウォッシュバーン (Sherwood Larned Washburn)の息子なのではないかと思う。 シャーウッド・ウォッシュバーンは兄弟のブラッドフォード・ウォッシュバーンがボストン科学博物館(Boston's Museum of Science)の創設者だという事でかなり知的な家系。
であれば尚、この本書の知的で抑制が効いた落ち着いたトーンの地道な記述もなるほど頷ける。

また本書には続編Into Thin Air (1996)があるが未訳。

△▲△

シャドウ・ダイバー
深海に眠るUボートの謎を解き明かした男たち

(Shadow Divers: The True Adventure of Two Americans
Who Risked Everything to Solve One of
the Last Mysteries of World War II)」
ロバート・カーソン(Robert Kurson)

2005/08/28:1991年9月にアメリカ北大西洋沖合い100キロの海底で発見された潜水艦は艦名が不明だった事からU−WHOと名付けられた。この潜水艦は第二次世界大戦で戦ったUボートであり、どこからやってきたのか誰が乗っていたのか、どうして沈没したのか全てが謎に包まれていた。

この謎を解くために、そして70mという当時の潜水技術の上限を超えた深さに挑み、そして誰も到達した事のない沈没した潜水艦の船内に潜入するという二重三重の困難さに挑戦する人がいた。

この事件はバーニー・チョードゥリーの「ラスト・ダイヴ―沈黙の世界に挑んだ父と息子その栄光と悲劇 」でも中核となる話で、かなり詳しく書かれているが、こちらはU−WHOの調査の過程で悲劇的な事故に遇い命を落としたクリス、クリシー・ラウス(Chris and Chrissy Rouse)親子の人生を描いたもので見事なノンフィクションではあるが切り口が違うものだ。

本書「シャドウ・ダイバー」はU−WHOの謎に迫る事が本題。見た目500ページくらいある。ちょっと躊躇しましたが、表紙の有引力に負けた。さすがにレック・ダイブの息苦しさや緊張感は「ラスト・ダイブ」には敵わないものの、著者のロバート・カーソンはかなり綿密な調査を進めたようで、情報としてはかなり良質。

そして最後まで追いかけ解き明かしたジョン・チャタートン(John Chatterton)とリッチー・コーラー(Richie Kohler)の生い立ちや、Uボートの乗組員達の生活や彼らの最後の日々を再現して読むものを飽きさせない。

また、シーカー号とワーフー号の執念ともいうべき争いや、調査の過程で生じるメンバーの葛藤等読みどころ沢山、読んでよかった。これは是非併読すべきですよ。

本音ではナチスを嫌い、敗戦は勿論もう二度と還らない事を知りつつ出航していった乗組員達の姿には涙が流れました。また、これは映画化されるそうで、監督はなんとリドリー・スコットに決まったみたいだ。「エイリアン」のようにどっしり重い恐怖を描いてくれるかな。

バーニー・チョードゥリーの「ラスト・ダイヴ―沈黙の世界に挑んだ父と息子その栄光と悲劇 」のレビューも是非どうぞ。


△▲△


SUE スー 史上最大のティラノサウルス発掘
(Rex Appeal: The Amazing Story of Sue,
the Dinosaur That Changed Science, the Law, and My Life)」
ピーター・ラーソン(Peter Larson)&
クリスティン・ドナン (Kristin Donnan)

2005/08/28:地球上に存在した最強の肉食動物といわれるティラノサウルスに相応しく本文だけで400ページを越えるなんとも重量級の本だ。毎日の通勤電車で読み切るのはかなり大変でした。

本書はスーと名付けられたティラノサウルスを発見し発掘に携わったブラックヒルズ研究所の代表ピーター・ラーソンの手によるもの。

スーは全身の95%の骨格が発掘され、ティラノサウルスを知る大きな手かがりとなったが発掘とする過程でこれが明らかななるにつれてその希少さに利害関係者、司法当局、果てはスー族までもが入り混じってスーの所有権を主張し始めた。やがてスーは証拠物件として押収されてしまう。

その後、著者はFBIの執拗な取調べ、スーとは全く別件で政府の土地を無断で化石を発掘し売った等の件で告訴され、遂には有罪判決を受けて収監されてしまう。

広大なサウスダコタの土地を個人と政府が複雑に入組んで所有しあっており、地元の所有者の牧場主ですら間違っているような状況が背景にあるようだ。取調べや裁判の過程は、現代においてこんなにも一方的な話があるのかと憤りを感じる話だが化石や恐竜とは離れた話で、なんか読まされてしまったな、と云う所だ。

本書はこの発掘から裁判、収監そして現在とスーと著者の物語を軸に、スーを中心にした研究で明らかになってきた事実を紹介している。特にティラノサウルスの雌雄判別を成し遂げた部分は大変重要で、興味深い内容になっている。

更に本書には、発掘から剖出、整形の技術的な説明や、NBSテレビのリサーチャーで事件を取材する過程で結ばれたクリスティンの心情等が加わり、正直やや盛り込みすぎと言わざるを得ないかな。

一方スーは発掘された土地の所有者に所有権が認められ、1997年10月ササービーズでオークションに掛けられた。これを836万ドルで落札したのはフィールズ博物館だ。そしてスーは現在来日中。

全国区のニュースとなったスーの事件によって、営利目的の個人や組織による化石ハンターが多く生まれた。技術力の無い素人の発掘によって貴重な化石が失われたり、利害の衝突で同様の事件が引き起こされるという暗黒面と、本業を他に持つ愛好家の広範囲で継続的な発掘活動によって画期的な標本が得られ、恐竜の生態研究を飛躍的に進めているという善い面がある。

こんな形で様々な人が関与してくるのも、これほど分厚くて、盛り沢山の本書でも読み切ってしまうのは6500万年前に大絶滅した恐竜達に魅力があるからだろう。

古生物学者のネート・マーフィー(Nate Murphy)が発見したハドロサウルスは皮膚や内臓までもが化石化して保存されている可能性があるという事でこれまた、ぶったまげた話だ。


また、ジェームズ・ローレンス・パウエルの「白亜紀に夜がくる―恐竜の絶滅と現代地質学」、ガブリエル・ウォーカー の「スノーボール・アース」のレビューがあります。どちらもお勧め。

△▲△


ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う
(the lone ranger and tonto fistfight in heaven)」
シャーマン・アレクシー (Sherman Alexie)

2005/08/13:本書は1993年にシャーマン・アレクシーのデビュー作となった短編集です。
収録作品は以下の22編。

■「すべての小さなハリケーン(Every Little Hurricane)」
■「しきたりという名のドラッグ(A Drug Called Tradition)」
■「親父がいつも「おれはウッドストックでジミ・ヘンドリックスが"星条旗"を演奏するのを見た、たったひとりのインディアンなんだ」といっていたから
(Because My Father Always Said He Was the Only Indian Who Saw Jimi Hendrix Play "The Star-Spangled Banner" at Woodstock)」
■「クレイジー・ホースの夢(Crazy Horse Dreams)」
■「リザベーション唯一の信号は、もう赤にはならない(The Only Traffic Signal on the Reservation Doesn't Flash Red Anymore)」
■「カーニバル(Amusements)」
■「アリゾナ州フェニックスってのは(This is What it Means to Say Phoenix, Arizona)」
■「びっくりハウス(The Fun House)」
■「踊っていたかっただけだ(All I Wanted to Do Was Dance)」
■「「火おこしトマス」の審判(The Trial of Thomas Builds-The-Fire)」
■「距離(Distances)」
■「イエス・キリストの異父弟はスポーカン族リザーベーションで元気に暮らしている(Jesus Christ's Half-Brother is Alive and Well on the Spokane Indian Reservation)」
■「列車と酒とインディアン(A Train is an Order of Occurrence Designed to Lead to Some Result)」
■「いい話(A Good Story)」
■「第一回全インディアン蹄鉄投げとバーベキュー大会(The First Annual All-Indian Horseshoe Pitch and Barbecue)」
■「たとえばリザベーションが(Imagining the Reservation)」
■「お気に入りの腫瘍のだいたいの大きさ(The Approximate Size of My Favorite Tumor)」
■「インディアンの教育(Indian Education)」
■「ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う(The Lone Ranger and Tonto Fistfight in Heaven)」
■「ファミリー・ポートレイト(Family Portrait)」
■「だれかがずっとパウワウパウワウっていってた(Somebody Kept Saying Powwow)」
■「事故と失踪とインディアン(Witnesses, Secret and Not)」

「火おこしトマス」やヴィクターと後の長編小説「リザベーション・ブルース」の登場人物やモチーフが散りばめられており、是非とも併読しておきたい一冊だ。シャーマン・アレクシーを未読の方は是非本書から入られる事をお勧めします。

アメリカの短編小説の小説手法を見事に体得している作者がアメリカインディアンの価値観や物事の捉え方、そして余にも重いその歴史と文化を下敷きに現代に生きるスポーカン族を描く。どれもトリックスターと呼ばれるだけの手腕が発揮されていて、読み応えのあるものばかりでしたよ。

なかでも「アリゾナ州フェニックスってのは」は逸品でした。これは家族を捨て音信もないままになっていたヴィクターの父親がアリゾナ州フェニックスで亡くなり、遺灰を受け取りに行く必要があるのだが金がない。

幼い頃は親友で毎日一緒に遊んでいたが、つまらない話を延々と語り続けるようになってから、みんなから虐められ、いつしか疎遠になっていった「火おこしトマス」が金を出すから一緒に連れてけと言い出した。

みっともないと拒絶するヴィクター、しかし背に腹は変えられず「火おこしトマス」とフェニックスへ向かう旅の物語だ。

これは1998年に「スモーク・シグナルズ(Smoke Signals)」という題名で映画化された。監督はクリス・エア(Chris Eyre)脚本はシャーマン・アレクシー本人が手がけている。これはプロデュースから監督・脚本までがアメリカインディアンによって作られた最初の映画になった。

そしてその作品は当年のサンダンス映画祭で観客賞と映像作家トロフィー賞をダブルで受賞するという快挙となった。

ところで本書のタイトルとなっている「ローン・レンジャーとトント、天国で殴り合う」だが、このローンレンジャーとトントは1933年に地方のラジオドラマとして登場し、コミック化されてベストセラーになる等アメリカンヒーローの原点とも云うべき二人組み。

これが1949年からTVドラマ化されて大ブレイク。日本でも1958年から放映されブームとなったようだ。僕は「ハイヨー、シルバー!」の掛け声や「キモサベ」という言葉がこの番組から来ている事も含め中身を全然知らなかった。

物語の骨子は正義のヒーロー、ローン・レンジャーが良いインディアンにして相棒のトントと愛馬シルバーと共に悪いインディアンをやっつけるという展開になっているようだ。トントは良いインディアン代表だった訳だ。それで天国で殴り合ってるのね。なるほど。

この事を調べていてスマイリング・クラウド様というすんごい方に出会った。只者ではないこの文章、思わず熟読。流石ですね。翻って自分が垂れ流しているこの文章は果たして少しは上達してるのだろうか。努力。努力。

「リザベーション・ブルース」のレビューはこちら
「インディアン・キラー」のレビューはこちらから、ご覧頂けます。

△▲△

恐るべき空白−死のオーストラリア縦断
(Cooper's Creek) 」
アラン・ムーアヘッド(Alan Moorehead)

2005/08/12:先般、スペースシャトルのディスカバリー号はヒューストンの天候不良により3度の帰還予定を見送り、カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地に向けて帰還を試みた。かなりヤキモキさせられたが、ディスカバリー号は無事着陸。おかえりなさい。よくんがんばったね。

コロンビアの恐ろしい敗北から、今回は失敗が許されない飛行だった訳だが、よくもまぁ先を読んだ計画と代替案の豊富さだ。

テレビ番組で毛利さんのインタビューでディスカバリーがISSに向かって腹を見せて断熱材の損害を調査している事を指して、自分が飛んだ時に比べて機体の健康チェックは格段に向上している。勿論、絶対大丈夫という事はない訳だが、こんなに安心な事はない。というような事を述べていました。

考えてみれば、国威の威信を賭けたミールの継続使用もアポロ計画もそして本書で紹介されているオーストラリア大陸縦断探検旅行も全て前人未到の事態に対する問題解決の連続だ。

この探検旅行は1860年8月20日にメルボルンを出発し半年をかけて大陸を縦断を成し遂げた、しかし、縦断する過程で隊はばらばらに分裂、連携も失われてしまう。

探検の知識と経験が不足している探検隊。そこへ後方支援のメンバーや後援者達の無責任さが重なり悲劇が増大していく。
やがて食料や水が底を付きオーストラリアの過酷な環境が彼らに襲いかかってくる。そしてついには命を落としていくメンバー達。

約100年後の1963年、彼らの足取りを丹念に辿り再構築して上梓されたのが本書、アラン・ムーアヘッドの「恐るべき空白」なのだ。圧倒的に広大な自然と軽率な判断や失敗に翻弄される探検隊の運命は単に悲劇として片付けられる事なく再現されている。

この探検を企画したのはヴィクトリア州の哲学協会だが、この協会は地元の名士達の緩やかな集まりに過ぎない名ばかりのもので、金は出すが計画そのものは探検隊の隊長に選ばれたロバート・オハラ・バーク(Robert O'Hara Burke)らに完全に任せっきりだった。

そもそもこの隊長を選任する基準ですら特に検討されもせず、何かの名誉職を与えたかのような扱いだった。そして探検隊が出発し消息が不明になった後になっても無責任さは変ることがなかった。

隊長に選ばれたロバート・オハラ・バーク(Robert O'Hara Burke)は探検委員会が行った新聞の隊長募集広告に応募してきた地元の警察官であり、探検の経験もなければ測量や科学的な素養も欠けていたのだ。

このような発作的ともいえる企画がどんどん進んでしまった事も驚きだが、それは当時のかなり浮ついた時代背景が一因となっていると思われる。

1788年。オーストラリア大陸への初期の入植者はアメリカで犯罪を犯した囚人達が入植囚人として上陸、本格的な植民地化がはじまった。暫くして自由移民が入植してきたが白人ばかりではなく中国人等も流入するようになったが、厳しい自然を前にかなり困窮したぎりぎりの生活を余儀なくされたものが多かった。

広大なオーストラリア大陸への入植だったが広く展開するまでには至らず、港から辛うじて通じるライフラインに沿って入植地が点在しているに過ぎなかった。そこに逃亡した入植囚人の一部が犯罪集団化し、入植地を荒らして回った。彼らはブッシュレンジャーとして恐れられるようになった。

中でも有名なのはネッド・ケリー、ケリー・ギャングだが、彼が生まれたのは1854年。あの物語でも語られるように、背景には政府の不公正や裕福層による搾取等止むに止まれぬ事情もあった訳だ。

1851年、ヴィクトリア州では大きな金鉱が発見されゴールドラッシュが起きていた。この為人々の倫理観が低下し街の治安も悪化する等の事態にもなった。

入植以来白人で大陸を縦断したものはおらず中央には未踏の広大な地域が存在、この知られざる土地にはひょっとすると莫大な資源が眠っているのかもしれなかった。

州政府としては、他州や流れ者、ブッシュレンジャー等にこれらの資源を先取りされたりする訳にも行かず、他に先駆けて何か手を打つ必要があったのだ。これは想像だが、だからこそ探検隊のメンバー選定にあってはその素養より寧ろ素性に重きを置いたのかもしれない。

もはや人災といってもいいような失敗の連続となっていくこの旅だが、彼らが直面している問題解決、意思決定、そして責任と云ったものは現代の我々が普段悩みに悩むとなんら変らない。失敗学なんて言葉も最近聞かれるようになったが、1つの成功事例よりも多数の失敗事例にこそ学ぶべき点は多い。そしてその過去の不幸のお蔭で我々は前進してきているのだな。

またこの探検隊の足跡をたどって紹介されている日本人の方もいらっしゃる。実際のデポーLXVの景色等を拝見させて頂きつつ本書を楽しませて頂きました。

Australia's Outback
バークとウィルズ最北の地を探せ
--カーペンタリア探索行--
http://www.ne.jp/asahi/outback/buokaburra/index.html

1861Cooper's Creek
〜探検隊の足跡を追って〜
http://www.iris.dti.ne.jp/~j-suda/hitokoma/cooper_000.htm

△▲△



鉄槌(TRAPS)」
ポール・リンゼイ(Paul Lindsay)

2005/07/31:待ってました!!ポール・リンゼイ。大好き この作家。今週の通勤時間は超ご機嫌。

ジャック・キンケイドはFBIシカゴ支局の特別捜査官だ。しかし彼は離婚を継起に、酒に溺れポーカー賭博に身を窶し駐在事務所勤務という単独行動を許された身分を利用して殆んど仕事もしない日々。現在は月極めのモーテルに、部屋に捨て去られていたボーダー・コリーと暮らしている。飲酒運転が発覚し、公用車の運転を禁止されボロボロのワゴン車で移動。とても特別捜査官とは思えない落ちぶれ具合だ。

更には昔自分が逮捕した男の手口を使って、賭けに使う為の資金を銀行の夜間金庫から盗むまでになってしまっていた。銀行から金を盗むのは連邦法違反。地域の銀行強盗の捜査担当が自分なので捕まる訳はなかった。少なくとも当面の間は。

コンラッド・ツィーヴンはクロアチアから移住してきた電気技師だ。ある日彼は偽装したトラックでクック郡刑務所に向かった。貨物積み下ろしホームに手際よく荷物を降ろし、制止する警備員の声を尻目に荷物についいるスイッチを入れ、そのまま走り去った。荷物の正面には「これは爆弾だFBIを呼べ」の文字。爆弾は鉛で被服されており内部を窺い知ることはできなくなっている為、動かすことも無害化する事も困難だ。刑務所に服役している1万5千人は移送が儘ならないことから事実上の人質となってしまった。

ロイ・K・ソーンは事件をFBIの中で半ば伝説の男として知られる優秀な捜査官だった。シカゴ支局長の辞令が下っていたが事件を契機に着任を早めシカゴへ急行した。

彼はシカゴ支局の空気を瞬時に嗅ぎ取った。ダレ切っている。すぐさま捜査官全員を事件現場のクック郡刑務所に召集をかけた。捜査員を集合させるや、厳しいカツをいれ檄を飛ばすロイ・K・ソーンだったが、そこに遅刻してきた一人の黒人の男がいた。

彼の名はベン・ウォールトン。ガンに侵され片足を切断。職場復帰を予定より一ヶ月早めて初出勤してきたのだった。キンケイドはこの集合を無断欠席。激怒するソーンはハンデを抱えるベンにキンケイドがやっている筈の銀行強盗事件の捜査を命じるのだった。

そしてキンケイドとベンは出会う訳だが、この出会いは事件を、燃え尽きたかにみえるキンケイドを。そして彼らの運命を変える事態へと展開していくのだった。
二転三転、コースターのようなプロット。そして、よくもまぁ見事な登場人物達。惚れますね。そしてB.C。僕は物語に犬が登場すると弱いのよ。モーテルの部屋に捨てられてて名前もわからないボーダー・コリー。だからB.Cと呼ばれ、落ちぶれたキンケイドであっても主人として盲従し、捜査に同行するようになる。可愛い。切ないぞ〜。

主人公がヒールなのは初めてなのでやや憂慮したけど、単なる杞憂でした。ポール・リンゼイ節炸裂。このカタルシスの開放はもう完全に癖になってます。早くつぎを書いてくれ〜。

ポール・リンゼイは現役FBI特別捜査官時代にFBIを舞台にしたミステリ「目撃」を出版し作家デビューした異色の人物。現在は既に引退して作家として活躍中。「目撃」「宿敵」「殺戮」はデブリン捜査官を主人公としたシリーズ物。こちらは以前のレビュをご覧頂く事ができます。
レビューはこちらからどうぞ>>

シリーズ外に「覇者」がある。どれも傑作。読まずに死ねるか。

「応酬」のレビューを追加しました。こちらからどうぞ。


△▲△

刑事マディガン(The Commissioner)」
リチャード・ドハティー(Richard Dougherty)

2005/07/24:ニューヨーク市警本部刑事部一級刑事ダン・マディガンとロコ・ボナーロは警官暦の20年を越え、その大部分の期間コンビを組んで来たベテランで伝説的な存在でもあった。

強い信頼関係で結ばれ誰にも負けない表彰暦を持つ二人だったが、しゃれ者(デュード)と猛者(ロック)と渾名される事からも判る様にあらゆる面で対照的な二人だった。

その二人は、とある金曜日の明け方、ある男を拘束する為に部屋に踏み込もうとしていた。その男はベネッシュという者で、度重なる犯罪暦で二人とは十年来の縁を持っている。

今回ベネッシュは、二人とは関係ない何らかの事件で検察局によって指名手配となっていた。前日からの不毛な捜査活動が明け方近くまで長引き、一旦帰宅するつもりだった二人のところへ、彼ら二人に貸しを持つ情報屋がベネッシュの潜伏先を知らせてきた事から、急遽踏み込む事にしたのだ。首尾よく連行すれば大手柄だ。

果たして二人が踏み込むと、ベネッシュは女と就寝中だった。しかし極度の疲労に加え、ほぼ全裸の女に気をとられたマディガンが銃を奪われ、あっとゆうまに形成逆転。二人はアパートの屋上に閉じ込められ、まんまとベネッシュに逃げられてしまう。

物語はこのベネッシュを追う二人の刑事と、警察組織の健全さと公正さを保つことに全身全霊を傾ける事でニューヨーク市警本部の頂点に君臨する本部長トニー・ラッセルの葛藤を軸に展開していく。

1962年にジャーナリスト出身のリチャード・ドハティーによって著された本書は、巨大な警察組織の一部として生きる警察官とその家族の葛藤を抉り出す警察小説だ。警察小説大好き。

基本的には導入部分の金曜日の明け方から日曜日までの3日間の出来事なのだが、登場人物の生い立ちから価値観に至る背景を詳細に描くことで物語に深みを与えている。またその描写もたじろぐ程鋭く確かな洞察で、濃厚な作品となってるのだ。

実はもっと古臭いものだろうと、あまり期待してなかったのだが、すごくハイレベルな仕上がりになっている。著者のリチャード・ドハティーだが、残念ながら1986年に亡くなった事ぐらいしかわからない。これだけ力量があれば、いい作品を沢山生み出せたのではないかと思う。たいへん惜しい話だ。

本書は、1967年にドン・シーゲル(Don Siegel)が監督して映画化された。
タイトルは本書の邦題と同じ「刑事マディガン(Madigan)」となっている。映画では、ダン・マディガンをリチャード・ウィドマーク(Richard Widmark) 、市警本部長トニー・ラッセルをヘンリー・フォンダ(Henry Fonda) 、同僚のロコ・ボナーロをハリー・ガーディノ(Harry Guardino) が演じた。ドン・シーゲルにとってもお気に入りの一作だったという。残念ながら、僕はこの映画は観てない。

更にこの映画の成功を受けてリチャード・ウィドマーク(Richard Widmark)がマディガンを引き続き演じてTV番組「鬼刑事マディガン」が製作された。日本でも1979年9月に放送された。こちらは僕も観た。マディガンの名前が僕の頭にインプットされているのはどうもこのテレビ番組の方のようだ。

ここでちょっと脱線してドン・シーゲル(Don Siegel)について。

1912年10月26日〜1991年5月20日本名ドナルド・シーゲル(Donald Siegel)こちらの名で映画に出演してクレジットされている場合もある。

映画作りでは編集や助監督そして短編ドキュメンタリー映画の監督などを経験した、所謂たたき上げで現場の段取りや仕切り方については職人肌の手腕を持っていた。サム・ペキンパー(Sam Peckinpah)は言ってみれば彼の弟子であり生涯の友人でもあったようだ。

ペキンパーは「ボディ・スナッチャー/恐怖の街(Invasion of the Body Snatchers)」の脚本を手伝ったり脇役で出演している他、遺作となった「ジンクス! あいつのツキをぶっとばせ!(Jinxed!)」(1982)の撮影中に心臓発作で倒れたドン・シーゲルに代わってメガホンを取り映画を完成させたそうだ。

作品リスト

「ジンクス! あいつのツキをぶっとばせ!(Jinxed!)」(1982)
「ラフ・カット(Rough Cut)」(1980)
「アルカトラズからの脱出(Escape from Alcatraz)」(1979) 製作兼監督
「テレフォン(Telefon)」(1977)
「ラスト・シューティスト(The Shootist)」(1976)
「ドラブル(The Black Windmill)」(1974) 製作兼監督
「突破口!(Charley Varrick)」(1973) 製作兼監督
「ダーティハリー(Dirty Harry)」(1971) 製作兼監督
「白い肌の異常な夜(The Beguiled) 」(1971) 製作兼監督
「真昼の死闘(Two Mules for Sister Sara)」(1970)
Death of a Gunfighter(1969) 途中降板クレジットはアラン・スミシー(Alan Smithee)
「マンハッタン無宿(Coogan's Bluff)」(1969) 製作兼監督
「刑事マディガン(Madigan)」(1968)
Stranger on the Run (1967)TV
「犯罪組織(The Hanged Man)」(1964)
「殺人者たち(The Killers)」(1964) 製作兼監督
「突撃隊(Hell is for Heroes)」(1962)
「燃える平原児(Flaming Star)」(1960)
Hound Dog Man(1959)
「グランド・キャニオンの対決(Edge of Eternity)」(1959) 共同製作兼監督
The Lineup(1958)
The Gun Runners(1958)
「殺し屋ネルソン(Baby Face Nelson)」(1957)
A Spanish Affair(1957)
「暴力の季節(Crime in the Streets )」(1956)
「ボディ・スナッチャー/恐怖の街(Invasion of the Body Snatchers)」(1956)
「USタイガー攻撃隊(An Annapolis Story)」(1955)
「地獄の掟(Private Hell 36)」(1954)
「第十一号監房の暴動(Riot In Cell Block 11)」(1954)
China Venture(1953)
Count the Hours(1953)
「抜き射ち二挺拳銃(Duel at Silver Creek )」(1952)
No Time for Flowers(1952)
The Big Steal(1949)
Night unto Night(1949)
The Verdict(1946)
Hitler Lives(1946) 短編映画
Star in the Night(1945) 短編映画

僕は「ダーティハリー」「突破口!」なんかが大好きだ。

ところで警察小説について、いま、日本の警察小説への注目度があがってきているようだが、ジャンルの始祖はエド・マクベイン(Ed McBain)87分署シリーズとされているようだ。折りしも今年(2005年)7月、彼の訃報が届いた。正に巨星墜つ。本当に残念だ。ご冥福を祈る。

最近やや成を潜めた感もあった海外の警察小説にはそれこそ傑作も多く、読み比べてみるのもまた楽しいだろう。何と言っても僕のお勧めはマイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー(Maj Sjowall & Per Wahloo)のマルティン・ベックシリーズなのだ。そしてジョセフ・ウォンボー(Joseph Wambaugh)も忘れてはならない一人だ。再び脚光があたれば何よりな話だ。

△▲△

山猫(Track of The Cat)」
ネヴァダ・バー(Nevada Barr)

2005/07/16:テキサスのグアダルーペ国立公園。そこは水がなくなればそれは死を意味し、テキサス・モンスーンがくれば、やはり死を意味する厳しい自然のままの広大な土地だ。

公園の法執行レンジャーのアンナ・ピジョンはピューマの足取りを追跡して公園奥地を一人トレイルしていた。ふと目を上げると谷底から11羽のヒメコントンドルが小さく輪を描いているのが見えた。

何かの死骸に引き寄せられたのだろうが、数が多い。正体を確認する為に谷底へ下るアンナを待っていたものは同じ女性レンジャーの死体だった。

遺体には動物のものと思われる損傷が。牙の形状からピューマの仕業と考えられた。しかし、何故管轄でもない場所で襲われたのか。どこか納得できないアンナは独自に調査を進めていく。

現役女性パークレンジャーが書いたミステリ。シリーズは好評なようで既に12冊を数えている。例によって出版社が跨いでいるので皆さん順番を踏み外して谷底へ転落したりしないように気をつけましょう!

1.「山猫(Track of The Cat)」
2.「極上の死(A Superior Death)」
3.「死を運ぶ風(Ill Wind)」
4.「山火事(Firestorm)」
5.「絶滅危惧種(Endangered Species)」
6.「闇へ降りる(Blind Descent)」
7.「女神の島の死(Liberty Falling)」
8.Deep South
9.Blood Lure
10.Hunting Season
11.Flashback
12.High Country

物語の導入部分で殆んどの登場人物が登場してしまうところで、ぼくはやや混乱。後半の展開もやや動きに乏しい。また、解決されない謎が幾つか残ってしまうというのもおやっと思わせる所であった。

しかし、雰囲気はいい。パークレンジャーというのも目新しいし、主人公が女性だというのも物語の展開に一味加わっていてよろしいんじゃないでしょうか。

厳しい大自然に向きあう主人公の設定はトニイ・ヒラーマンやジョー・R.・ランズデールとも近いがこのアンナ・ピジョンはお姉さんがニュー・ヨークで精神分析医だったり、レンジャーになる以前は本人も都会暮らしで、きっかけは恋人の死だったらしい事などかなり都会の香りをかなり引きずっている感じだ。

職場の同僚達も、必ずしもまっすぐな人間には描かれていないどこか訳ありでレンジャーに志願しているものも多いというところも人間臭い。

主人公に、もしかして自分達はみんなパークレンジャーだと思い込んでいる精神病院の患者なのではないかと発想させたりしているが、それほどみんな色々なものを引きずってきているのだ。これもまた実際に働いていた経験ならではという感じでよろしい。ネヴァダ・バー。名前がまたね。良い響きだけど凄い名前だね彼女。

△▲△

時空の歩き方 時間論・宇宙論の最前線
(The future of Spacetime)」
スティーブン・ホーキング(Stephen W.Hawking) 他

2005/07/16:本書は2000年6月、カリフォルニア工科大学(カルテク)理論物理学者のキップ・S.ソーン(Kip S.Thorne)の60歳の誕生日を記念して開催された講演会の内容を基に書起こされたものです。彼と親しい仲間たちが本人に気付かれないように企画を進めて実現したそうだ。講演は無料で開催されたという事で、本書の印税もカルテクの奨学金に入るという。

講演を行ったのはご当人キップ・S.ソーンをはじめ、スティーヴン・W.ホーキング、リチャード・プライス、イーゴリ・ノヴィコフ、アラン・ライトマン及びティモシー・フェリスというメンバー。

■キップ・S.ソーン(Kip S.Thorne)について
カリフォルニア工科大学(カルテク)の理論物理学教授。その著書
「ブラックホールと時空の歪み―アインシュタインのとんでもない遺産」(1997/07) はかなり有名。僕もその昔お世話になりました。本棚を捜したけど見つからない。確認したかったのはイラスト。本書に同じ絵を使っているんじゃないだろうか。すごく懐かしい雰囲気のイラストが嬉しかった。

ご本人のウェブサイト
http://www.its.caltech.edu/~kip/

■スティーヴン・W.ホーキング(Stephen W.Hawking)について
イギリスの理論物理学者。1942年生まれ。筋萎縮性側索硬化症(ALS)を患い車椅子から電子音声で語る姿が印象深い。

他にはこんな本もある
「ホーキング、未来を語る」(2001/12/11)
「心は量子で語れるか」(1998/03) ロジャー ペンローズ他と共著
「ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで」(1989/06)
「「ホーキング、宇宙を語る」ガイドブック」 (1992/05)
「ホーキング、宇宙を語る―ビッグバンからブラックホールまで」(1989/06)
ホーキングの本はどれもなかなか面白いですよ。

ご本人のウェブサイトはこちら
http://www.hawking.org.uk/home/hindex.html

■リチャード・プライス(Richard Price)について
ユタ大学理論物理学教授。詳しいことは判らなかった。ごめんなさい。

■イーゴリ・ノヴィコフ(Igor Novikov)について
ニールス・ボーア研究所教授:本書に収められた「過去は変えられるか(Can We Change the Past?)」はSFマガジン2004年9月号にあるものと同じもの。

■ティモシー・フェリス(Timothy Ferris)について
1942年生まれ。サイエンスライターにしてカリフォルニア大学バークレイ校のジャーナリズム学科教授。著書には「銀河の時代―宇宙論博物誌」がある。

ご本人のウェブサイト
http://www.timothyferris.com/

■アラン・ライトマン(Alan Lightman)について
1948年生まれ。マサチューセッツ工科大学で物理学と創作講座の教授。物理学者と文学小説の執筆という二束の草鞋を履きこなしている人。
その著書
「診断」(2002/05)
「宇宙と踊る」(1997/11)
「アインシュタインの夢」 (1993/03)
「天文学の新時代」(1993/02)
「宇宙は語りつくされたか?―アインシュタインからホーキングへ」(1992/10)

ご本人のウェブサイト
http://web.mit.edu/humanistic/www/faculty/lightman.html

表紙のデザインのポップさがなかなか良い。タイトルの「時空の歩き方」もいいよね。しかしその内容は、基が一般向けに行われた講演だったという割にはかなり硬めでした。

1 イントロダクション―時空への招待byリチャード・プライス(Richard Price)
2 過去は変えられるかbyイーゴリ・ノヴィコフ(Igor Novikov)
3 歴史家のために世界の安全を守る「時間順序保護」byスティーヴン・W.ホーキング(Stephen W.Hawking)
4 時空の歪みと量子世界―未来についての憶測byキップ・S.ソーン(Kip S.Thorne)
5 科学の大衆化byティモシー・フェリス(Timothy Ferris)
6 小説家としての物理学者byアラン・ライトマン(Alan Lightman)

最新の素粒子物理学や論理物理学から得られる「時空」という概念に基づき、我々はタイムトラベルが可能な世界に住んでいるのかどうか。また重力波を検出する為の実験が進められる事で将来どんな事がわかってくるのだろうか。素粒子論や宇宙論を多少でも読み齧っていないで、いきなり本書から挑戦するのはやや苦しいかもしれません。

折りしもカルテクでは3個の“太陽”の周りを回る惑星を発見したそうだ。それは149光年というすぐご近所しかも驚くことにその惑星は木星に似たガス状の巨大な星で3・35日周期で公転しているというのだ。

恒星の動きから超短周期で公転する惑星の存在は以前から一部では予測されていたが、従来の理論では、恒星にあまりにも近いと、高温なのでガス状の星が形成されることはないとされており、観測と理論の矛盾となっていたものだ。今回の発見で惑星形成の理論は修正を迫られた訳だが、

それ以上にこのような巨大惑星の存在はダークマターそのものなのなのかもしれない。やるなカルテク。

相対性理論100周年の今年は、何かエポックメイクな出来事が起こるかもしれない。ハヤカワ・ポピュラー・サイエンスはかなりいい感じ。

「ホーキング、宇宙と人間を語る」のレビューはこちら>>


△▲△


オルタード・カーボン(ALTERED CARBON)」
リチャード・モーガン(Richard Morgan)

2005/07/02:フィリップ・K・ディック賞受賞。ジョエル・シルバーが映画化権獲得。なんだか面白そうじゃないか。装丁もかなり良い。フィリップ・K・ディック賞受賞。根が正直なので授賞と聞けば、即ありがたいものと受け取ってしまうけど、最近あまり目立った記憶がない。調べてみると1982年の彼の死後創設された賞なのだそうだ。

http://www.philipkdickaward.org/

受賞した作品には例えば「ニューロマンサー(Neuromancer)」 ウイリアム・ギブスン(William Gibson) 、そうそう確かそうでした。「ソフトウェア(Software)」 ルーディ・ラッカー(Rudy Rucker) 。ルーディ・ラッカーね。はいはい。が含まれている。しかしあとはあまり聞いた事ない人だ。本書も作者は高校の講師で処女作だという。

物語は27世紀。人間の人格、意識はメモリー・スタックにデジタル化され、肉体の死の呪縛から解き放たれている。肉体=スリーブの首の付け根に埋め込まれたこの、メモリー・スタックにダウンロードする事で人は、体を乗り換える事が可能なのだ。勿論、金と信条が許す限りにおいて。そして新しいスリーブへのダウンロードは苦痛を伴う上に、慣れるための労力もかなりいる。

この時代、人類は地球から遙か遠く離れた複数の植民星に展開。この時空の広がりを補完するのが、ニードル・キャスト通信と呼ばれる技術で、超空間を使って百数十光年離れた惑星間を短時間でデータの送受信が可能だ。ニードル・キャスト通信を使って様々な情報交換する事で互いに遠い星との連携は保たれているという訳だ。

人間の意識をデジタル化し、ニードル・キャスト通信で送信し遠く離れた星に用意したスリーブにダウンロードすれば、光速の制限を越えた人の移動すら可能なのだ。

主人公のタケシ・コヴァッチは植民星ハーランズ・ワールドで生まれた元エンヴォイ・コーズ(特命外交部隊)隊員。エンヴォイ・コーズとは、植民星の政治不安を鎮圧する目的で創設された特殊部隊で、スクランブルとなればデジタル化し、目的の星に予め用意されたスリーブへダウンロードし、即時に作戦実行する強面の部隊だ。

彼は部隊をスピンアウトし、エンヴォイ・コーズで培われた特殊能力を使ってアウトローの生活を送っていた。しかしついに足が付き捕捉されデジタルデータとして百七十年の保管刑に服していた。

そんなタケシが、新しい体にダウンロードされ覚醒させられるとそこは地球。彼を呼び覚ましたのは大富豪のローレンス・バンクロフトだった。バンクロフトは定期的にメモリースタックをバックアップし、予備のスリーブを複数常備して、これまでも数百年生き、そして事実上不死が保証された男だ。

バンクロフトが言うには、自分は数週間前に頭部を損壊された死体となって発見された。現在彼はバックアップされたデータから蘇生されている。警察はこれを自殺と断定したと云う。

バックアップが用意された自分が自殺する理由はなく、バックアップから自殺するまでの間の記憶が無い為、真相は闇の中となった。

そこで蘇生した自分が自分が死んだ原因を調べるために、金にモノを言わせて呼び出したのがタケシ・コヴァッチだったのだ。バンクロフトが提示した条件は、保管刑の解除と新しいスリープ。そして多額の報酬だった。断る理由もないタケシは、家族や警察等の記録に向かって調査を開始するが、いきなり命をねらってくるものがいた。

今回のレビューはかなり水を差してます。これから本書を読む予定の方は先に、以降の文章を読まないでください。

先ずはミステリー。密室殺人。見れば確かに作者はロンドン生まれ。ブリティッシュ・ミステリーの王道だった訳だ。あちゃー、やられた〜。僕はこれがまた大の苦手。

かつては推理小説もかなり読んだ。古典的推理小説には、読むべき本。今読んでも十二分に面白い本は沢山ある。それらを全て否定するつもりはない。しかし今は全くのご無沙汰。何故か?密室殺人の古典的推理小説と云われて先ず頭に浮かぶのはガストン・ルルー(Gaston Leroux)の「黄色い部屋の秘密(Le Mystere de la chambre jaune)」だ。

中学生の頃、アガサ・クリスティーは随分と読んだ。あのハヤカワの赤い背表紙と印象的なイラストの表紙。懐かしい。そのなかの一冊「複数の時計(THE CLOCKS)」の中でポアロが絶賛してるんですよね。この「複数の時計」はけっこう面白かったと記憶している。

これを読んで僕ははじめて「黄色い部屋の秘密」の存在を知った訳なんだけど、聞けば「オペラ座の怪人」も書いている人だという。ポアロが薦める本というならと、早速探し出して来て、読み出したものの、これがダメ。全然ダメ。

読んだと言うよりとりあえず最後まで文章を目で追ったというのが実態。文章もやたら長くて言いたい事がわからない。これって「オルタード・カーボン」と同じだ。思い出した。読後感も全く一緒。

この本を継起に徐々に推理小説の世界から足を洗った。僕にとって「黄色い部屋の秘密」はそれ程インパクトのある本だった。以来この方、こちらの方面には数十年足を踏み入れないようにしてたのが実状でして、はい。そんな奴が読んじゃだめだったって事でしょうね。そちらの方面がお好きの方が書けば全然違うレビューになったのかもしれません。

しかし、それ以上に違和感を持った部分がある。それは作者の持っていると思われる生物と無生物の境界線のようなものだ。

スリープを乗換え、全く別な外見で表れる旧知の敵だったり、最愛の人物だったりは面白いアイディアだとは思うけど。何度もスリーブを乗換えるのが辛くなってデータだけになっている人達と、犯罪を犯してデータ保管刑を受けている受刑者の違いはなんなのだろうか?

サイバーパンクのSFを読むには頭が固くなりすぎたのかもしれない。しかし、作者自身アイディアがこなし切れてない感じが漂っている。

脳の働きと首に埋め込まれたメモリースタックの関係がよく解らない。人間の記憶は、脳神経の接続パターンにそれこそ魔法のように格納されているハズだけど、これは、メモリースタックが脳神経を再構築しているという事なのだろうか、そしてそれは他人の脳に自分の記憶を書き込めるようだ。なんだか随分簡単な話だ。

スリーブは人工だったり、どこかの誰かのものだったりするみたいだが、生命不在のスリーブ、これは死体って事ではないのだろうか。人工スリーブってのもあるようだが、という事は脳も人工。小脳も脳幹も当然内臓も筋肉も。そこまで精緻なスリーブが作れるのに、それに生命は宿ってない。
えぇー!?何言ってんの。僕が持っている生物と無生物の境界線とこの作者の感覚って何かかなり違う。彼の感覚について良くない感じがすごくするのは僕だけでしょうか?

人工に作られた意識の存在。コンピューターがによって生み出された人工の意識は人間に意識と同等なのだろうか。これを人工のスリーブでロードしたら、これはなんというものなのだろうか。

意識と肉体を切り離す事が可能なら、生命って何なんでしょう。僕はそんな事って絶対あり得ないと思います。それは本来一つのものだから。車はバラバラにしてもう一度組み立ててもやはり車でしょう。しかし生き物は違う。人工知能と意識には生物と無生物の境界があるのが前提のはずだ。

これを端から乗り越えた所で展開する物語に僕は全然入り込めませんでした。「傑作」、「大傑作」の美辞麗句が並んでいる。しかし僕にはこれって生命、個人の尊厳を軽視したガキのたわごととしか読めなかった。

△▲△

南総里見八犬伝」曲亭馬琴

2005/07/02: NHKの連続人形劇「新八犬伝」は1973年4月2日から1975年3月28日までの間に464話で放送されたのだそうだ。時期を考えると全部なんてとても観れている訳はないんだけど、それでも面白かったな。それはもう真剣に観てました。坂本九さんの語りや黒子での登場。驚愕の玉梓の変化。なんとも盛りだくさんの正にエンターティメントな番組でした。
その後も映画になったり、関連本、類似ものが出来たりと随分と取り上げられていたものでした。しかし不勉強にも僕はあの番組を通してしか、八犬伝を知らなかった。

千葉県民として暮らす以上、いつかはちゃんと読んでおこうと思っていましたが、なかなか手を出せずにいました。なんだか他の本を選ぶ時以上の意思決定を強いてくるようで気後れしてした。

それというのも、この物語は自分の子供時代の思い出が詰まった箱を開く鍵になっているように思えるからだ。作者の曲亭馬琴、(又は瀧澤馬琴、滝沢馬琴。本名は瀧澤興邦)は深川出身。深川は母の縁で、子供の頃からよく遊びに行っていた場所でした。門前仲町、清澄通り、そして富岡八幡宮、深川不動、清澄庭園。芭蕉が東北へ旅立った採茶庵。参道に並ぶ土産屋。僕にとって東京の原風景は江戸の下町情緒溢れる街並みなのだ。

そして更に、あの「新八犬伝」における辻村ジュサブローの着物、母は大好きで「素晴らしい」とよく言っていたものだ。当時、勢いで一緒に渋谷のNHKのスタジオ見学なんかも行ったのでした。入り口の白っぽい階段と時代劇の長屋の街並みしか思い出せないけど。

今回、河出書房新社から出されている現代語訳の「南総里見八犬伝」を意を決して手にしてみた。
NHKの人形劇とは違う、ぐっと大人の世界。おどろおどろしさも数段上を行く、これはかなり凄いぞ。

いつか暇が出来たら、それこそもうどっぷり八犬伝の世界にハマって、ゆかりの地を巡る生活に浸るというのもいいかな。

八犬伝の世界は、達人的サイトが沢山。

八犬伝の世界は、「白龍亭」と云うすごいサイトがあります。
地図なんかも充実してて物語世界の理解には大変役立つ内容になっています。

白龍亭
http://www.mars.dti.ne.jp/~opaku/hakken/menu.htm

また、「伏姫屋敷」というサイトもかなり読ませる内容になっています。併せて読んで楽しむのも良いですね。

伏姫屋敷
http://homepage2.nifty.com/fusehime/

こうしたサイトを眺めていると自分のやっている事が空しくなってきちゃうなぁ。

館山市のウェブサイトには「里見八犬伝デジタル美術館」や館山と里見家の歴史資料を解説した「さとみ物語」
更にはかなり詳細な情報が入手できる「南房総データベース」があって内容充実。かなり力入ってます。

館山市
http://www2.city.tateyama.chiba.jp/

読み進んでいくと随所で、物語は何時か人形劇になって浮かび、そしてあの頃の出来事まで蘇ってくる。放送された番組のデータは殆んど残っていないそうで、数回分を除くと再びあの番組を観る事は不可能なんだそうだ。ほぼ完全に記憶の彼方に消えかけていたあの番組、「新八犬伝」を蘇らせている労作。

新八犬伝をもう一度見ようよ!
http://homepage2.nifty.com/starship/

辻村ジュサブロー氏の「ジュサブロー館」。
ジュサブロー館
http://www.konishi.co.jp/html/jusaburo/index.htm

馬琴の執念とも云うべきものが、二十八年の歳月を掛けて織り込まれている。だからこそ、物語を越え、時間を越えて人の心を揺さぶる本。だから読書は止められない。

仁義礼智忠信孝悌。

△▲△


HOME
WEB LOG
Twitter
 2024年度(1Q)
 2023年度(4Q) 
 2023年度(4Q) 
 2023年度(3Q) 
 2023年度(2Q) 
2023年度(1Q) 
2022年度(4Q) 
2022年度(3Q) 
2022年度(2Q) 
2022年度(1Q)
2021年度(4Q)
2021年度(3Q)
2021年度(2Q)
2021年度(1Q)
2020年度(4Q)
2020年度(3Q)
2020年度(2Q)
2020年度(1Q)
2019年度(4Q)
2019年度(3Q)
2019年度(2Q)
2019年度(1Q)
2018年度(4Q)
2018年度(3Q)
2018年度(2Q)
2018年度(1Q)
2017年度(4Q)
2017年度(3Q)
2017年度(2Q)
2017年度(1Q)
2016年度(4Q)
2016年度(3Q)
2016年度(2Q)
2016年度(1Q)
2015年度(4Q)
2015年度(3Q)
2015年度(2Q)
2015年度(1Q)
2014年度(4Q)
2014年度(3Q)
2014年度(2Q)
2014年度(1Q)
2013年度(4Q)
2013年度(3Q)
2013年度(2Q)
2013年度(1Q)
2012年度(4Q)
2012年度(3Q)
2012年度(2Q)
2012年度(1Q)
2011年度(4Q)
2011年度(3Q)
2011年度(2Q)
2011年度(1Q)
2010年度(4Q)
2010年度(3Q)
2010年度(2Q)
2010年度(1Q)
2009年度(4Q)
2009年度(3Q)
2009年度(2Q)
2009年度(1Q)
2008年度(4Q)
2008年度(3Q)
2008年度(2Q)
2008年度(1Q)
2007年度(4Q)
2007年度(3Q)
2007年度(2Q)
2007年度(1Q)
2006年度(4Q)
2006年度(3Q)
2006年度(2Q)
2006年度(1Q)
2005年度(4Q)
2005年度(3Q)
2005年度(2Q)
2005年度(1Q)
2004年度(4Q)
2004年度(3Q)
2004年度(2Q)
2004年度(1Q)
2003年度
ILLUSIONS
晴れの日もミステリ
池上永一ファン
あらまたねっと
Jim Thompson   The Savage
 he's Works
 Time Line
The Killer Inside Me
Savage Night
Nothing Man
After Dark
Wild Town
The Griffter
Pop.1280
Ironside
A Hell of a Woman
子供部屋
子供部屋2
出来事
プロフィール
ペン回しの穴
inserted by FC2 system